*落花流水の情*

 山崎が監察部屋に入ると、そこにはリンドウが座っており、じっと書類を眺めて山崎に気が付かないのか動かない。普段ならば部屋に入ると、仕事をしていても声をかけてくるのにと山崎は首を傾げると、彼女の正面に座り、とんとんと小さく卓を指で叩いてみる。
 するとリンドウは弾かれたように顔を上げ、慌てて立ち上がる。
「あ、お茶入れますね」
「お茶は良いけど。大丈夫?具合でも悪いの?」
 心配そうな顔をした山崎に、リンドウは一瞬視線を彷徨わせたが直ぐに淡く微笑んで、大丈夫ですと言いすとんとまた座る。彼女の持っていた書類は午前中に仕上げてしまったものであるし、今更見直しや修正をかけるものでもない。それを眺めていた事に意味があるとは思えなかった山崎は、困ったように笑うと口を開く。
「心配ごと?」
 その言葉にリンドウは少しだけ驚いたような顔をする。
「大した事ではないんです」
 そう言うと、やっぱりお茶、淹れますねと言い彼女は席を立った。茶器の準備をするリンドウの姿を眺めながら山崎は頬杖をつくと、無意識に指で卓を叩く。彼女の様子がおかしいのは見て解る。むしろ、このように目に見えて様子がおかしいのは稀で、余計に気になって仕方なかったのだ。
 いつも穏やかな雰囲気をまとっているリンドウは、他の人間に対して余り感情の起伏を見せない。それは無表情であるという意味ではなく、いつも同じように穏やかに微笑んである意味ポーカーフェイスを保っているという事で、目に見えて沈んだ様子を見せる事はほとんどない。仕事中に限っていうなれば、山崎は初めてこんなに沈んだ様子の彼女を見た。
 湯気を上げる茶を目の前に出された山崎は、それを両手で持ち上げると、冷ますように息を吹きかける。
「近藤さんとのデートで何か失敗とか?」
 お茶に視線を落としたまま山崎が言うと、リンドウはぱっと顔を上げて山崎の顔を凝視する。暫くそうしていたが、顔を赤くして、小声で言葉を零したので山崎はそれを黙って聞く。
「あの……デートというか、その、遊びに行っただけですし……私も楽しかったですし。その……それは全然問題なかったんですけど」
 その様子を見て山崎は、そうだろうとと心の中で呟く。気は進まなかったのだが、沖田に脅されて近藤とリンドウのデートを山崎はつけていたのだ。本当は沖田自身が行くつもりだったようだが、監察であるリンドウに気づかれずに尾行するのが困難だと判断し、沖田は厭がる山崎を脅して尾行を命じた。なので、リンドウが近藤と映画館に行った事も、水族館に行った事も、プラネタリウムに行った事も山崎は知っている。ここ一月程で割と出かけている方であるし、出かける約束をする度に、近藤が土方にアドバイスをもらっているのも知っていた。
 傍から見ていても問題がないし、微笑ましいデートを重ねているようにしか見えなかった山崎は、わざと見当外れの話を振ったのだ。
「問題なかったんですけど……何が問題?」
 わざと山崎が彼女の言葉を繰り返し質問をすると、リンドウは山崎の顔を暫くじっと眺めて、湯呑に視線を落とした。話したくないのだろうかと思った山崎は、少しだけ冷めた茶に口をつけると、気が向いたら教えてねとだけ言う。その言葉にリンドウは、小さく返事をすると、俯いた。

 

 茶を飲み終わった山崎は、リンドウを残して監察室から出ると、そのまま局長室に足を向ける事にした。そもそもリンドウが萎れる理由は近藤以外に考えられないし、むしろ、リンドウが失敗したのではなく、近藤が失敗をしたのかもしれないと思ったのだ。
 自分の感情に戸惑っていた近藤の背中を土方が押して、漸く二人の関係が動き出したのは承知している。リンドウに惚れていた土方には気の毒だが、彼自身、二人が巧く行く事を願っている節もあるので、現在は近藤の手助けをしているようである。ある意味失恋確定の土方が浮上するまで時間がかかるのではないかと山崎は勝手に思っていたが、どうやらある程度感情の整理は出来たらしい。この点に関しては正直驚いた。寧ろ、吹っ切れたのか、土方のリンドウに対しての態度も少し柔らかくなり、彼女とも良好な関係を継続している。
「失礼します」
 山崎が局長室の障子を開けると、そこには正座する近藤と、それを見下ろす沖田。そして煙草を吸いながら不機嫌そうな顔をする土方が揃っており、山崎は思わず開けた障子を閉めて仕事に戻ろうかと考えた。
 しかし、それは山崎に気が付いた土方のお陰で選択される事はなく、言われるままに局長室に入ると、土方の隣に座る羽目になった。
「あの……沖田隊長なんであんなに怒ってるんですか?」
 小声で山崎が聞くと、土方は煙草の煙を細く吐き出し、面倒くさそうに頭をかく。
「まぁ、なんつーか、近藤さんが悪いわな」
「デートで失敗……とか?」
 その言葉に土方は山崎の顔を凝視すると、不思議そうな顔をした。
「お前総悟に言われて尾行してたんじゃねぇの?」
「知ってるんですか!?そりゃ尾行はしてましたけどね、その、リンドウさんの家に行った後までは無理ですって土下座して免除してもらったんですよ」
 そこまでは流石に良心が咎めるし、自分が同じ事をやられたら死にたくなる。しかも、自分の上司と可愛い後輩相手に無理だと泣いて頭を下げたのだ。渋々沖田は了承してくれたのだが、もしも却下されたらと考えると恐ろしい。
 しかし、それ以外に何も思いつかなかった山崎は、小さくため息を付くと言葉を零した。
「おかしいなぁ。それじゃ何でリンドウさん元気なかったんだろう」
「……やっぱ萎れてたか」
 渋い顔をする土方を見た山崎は首を傾げる。どうやら土方は彼女が元気のない理由を知っているらしい。そして恐らくそれは、目の前で先程から進展を齎さない沖田と近藤の無言の対峙と関係があるのだろう。
 近藤はしょんぼりとした様子で正座をしており、沖田は鬼の様な形相で近藤を見下ろしている。何か発言でもあれば理由を察する事が出来るかもしれないが、今の所ぼそぼそと土方と山崎の会話が部屋に響くだけである。
「……で、沖田隊長と局長がにらみ合ってる理由は?」
「見合いの話を聞いて、総悟が怒鳴り込んで来たんだよ」
「え?」
 煙草を揉み消し、新しい煙草に火を付けた土方は小声で呟く。その言葉に山崎は首を傾げると、近藤と沖田にまた視線を戻した。
「……近藤さんが、とっつあんからまた見合い話押し付けられてな」
 細く煙を吐いた土方は、瞳を細めると山崎の方を向いた。
 近藤が以前から何度も松平から見合い話を押しつけられて、断れずに見合いの席に行っているのは山崎も知っていた。相手は天人であったり、お偉いさんの娘であったりとするのだが、巧く話がまとまった試しはない。
 今更という気もした山崎が不思議そうな顔をすると、土方は顔を顰めて更に言葉を続ける。
「喋んなきゃ良いのに、アイツに話しちまったんだよ、近藤さん」
「リンドウさんにですか?」
 恐る恐る山崎が聞くと、土方はぷかりと煙を吐き出し頷いた。そして、恐らく自分より先にリンドウに会った沖田が事情を察して怒鳴り込んできたのだろうと考え、山崎は納得する。近藤が正座させられているのもそれならば辻褄が合う。情けない姿であるが。
「見合いも断れねぇってのも解るんだが、何も莫迦正直に話さなくてもいいのに」
「土方さんも一緒にいて、近藤さんの莫迦な発言止めなかったじゃねぇですか」
 今まで無言だった沖田がギロリと土方を睨みつけ、不機嫌そうな声を零したので、山崎は思わず身を竦ませる。それに対して土方は、眉間に皺を寄せると、煙を吐き出しながら返答した。
「仕方ねぇだろ。止める間もなく喋っちまったんだから。つーか、俺の所為か!?俺だってムカついてるんだけど」
「ええ!?トシも怒ってるの!?」
 情けない声を上げた近藤を沖田は一睨みすると、刀に手をかけ一歩踏み出す。
「とりあえず死んでリンドウに詫びて下せぇ」
「わー!ちょっと、沖田隊長!ストップ!」
 慌てて山崎が二人の間に割って入ると、沖田は不機嫌そうに舌打ちをする。
「山崎も死にてぇんですかぃ。大した忠義だ」
「死にたくないですって!っていうか、とりあえず落ち着いて話しあうとか無理ですか!?近藤さん斬っちゃったらそれこそリンドウさん号泣ですよ!?沖田隊長!」
 全面的にリンドウを押して山崎が説得に入ると、沖田は少しだけ考える様に天井を仰ぐと、刀から手を離した。それに安堵した山崎は、とりあえずお茶を淹れますねと、いつもならリンドウがする仕事を引き受け、茶器の準備を始めた。少し腰を落ち着けた方が良いと思ったのだろう。
 全員に茶が行き渡った所で、山崎はとりあえず重々しく口を開く事にした。正直仕切る等得意ではないが、この状態ではある意味詳しい事情を知らない自分が一番冷静であると判断したのだ。土方も平静を装っているが、発言の端々から腹を立てているのは解るし、沖田は先程から不機嫌そうな表情を崩そうとしない。近藤はいまだに正座させられたままである。
「とりあえずですね。近藤さんお見合いする事になったんですか?」
 山崎の言葉に近藤は頷くと、2週間後なんだけどねと言う。
「断れなかったんですかぃ?」
「とっつあんが無理やりっていうか、もう勝手に決めててだな。とりあえず顔出すだけでいいからって」
「それに関しては総悟、付き合いみてぇなもんだから許してやれ」
 フォローするように土方が言葉を添えたので、沖田は不服そうだが一旦黙った。今までも何度も見合い話があったし、松平が大概勝手に話を進めている事も沖田は知っているから強く言えないのだろう。土方が腹を立ててはいるが、割と冷静なのに感謝しながら、山崎は話を続けることにした。
「で、うっかりリンドウさんに言っちゃったんですね」
 こくりと頷く近藤を見て、山崎は思わずため息を吐く。沖田が怒って、土方が腹を立てても仕方がないと思ったのだ。とりあえず物騒な斬り合いは避けられても、説教は避けられないだろうと半ば諦めるしかない。すると、沖田が山崎の発言を待たずに口を開く。
「大体、付き合ってる女に見合いって言うたぁ、ゴリラ以下の莫迦ですぜぃ。遊びで付き合ってたんですかぃ?だったら切腹なんて生温いから、がっつり俺が切り捨てて何が悪いんですかぃ。土方さんだってそう思ってますぜぃ?」
「勝手に代弁すんな。つーか、近藤さんが莫迦なのはいつもの事じゃねぇか」
「大方山崎だってリンドウが萎れてるの見て、近藤さん関係だろうってタカ括ってここに来たんじゃないですかぃ?」
 それに対して山崎は曖昧に返事をするしか出来ずにいた。ここで自分まで責める立場に行ってしまったら近藤が気に毒だと思ったのだ。寧ろ、沖田のヒートアップを見ると、自分の方は厭でも冷静になる。
「その……だな。言い難いんだが」
 ぼそぼそと近藤が喋りだしたので、沖田は僅かに眉を上げて口を一旦閉じる。先程までは聞く耳など持たなかったが、少しは落ち着いてきたのだろうと土方も安心するが、その後の近藤の発言に盛大に飲みかけの茶を吹いた。
「……正式に……まだ、お付き合いに至ってないというか……なんというか」
 ぽかんと沖田は言葉を失い、盛大に茶を吹き蒸せた土方は涙目になって言葉を発した。
「ちょっとまて。どーゆー事だソレ。意味わかんねーんだけど」
 慌てて布巾でテーブルを拭きながら、山崎も近藤の表情を窺う。もじもじとうつむいたまま、近藤は更に言葉を続けた。
「遊びに行ったりはしてるんだけどね、その、タイミング的にこう巧く行かなくて、俺の気持ちをまだ伝えてないんだけど」
 ギロリと沖田が睨みつけたのは、近藤ではなくて山崎であった。それに気が付き、山崎は悲鳴を呑み込むと、冷や汗をかきながら、俺が……何か?と恐る恐る聞く。
「尾行報告では、仲良さそうにしてました。って言ってやせんでしたかぃ?」
「してましたよ!凄く仲よさげでしたよ!?プラネタリウムでは、ちゅーしろって沖田隊長も言ってたじゃないですか!?」
「ええ!総悟までついて来てたの!?」
 愕然としたように言う近藤に、沖田は視線をちらりと送ると、プラネタリウムだけでさぁと短く言う。それに土方は呆れた様な顔をすると、小さくため息をつき新しい煙草に火を付けた。
「さっさと言っちまえよ。まどろっこしい」
 お前が言うなと沖田は心の中で思うが、土方の意見にには賛成であった。そもそも、まだ付き合ってもいないとは想定外であった沖田は、怒りを通り越して呆れるしかない。バツの悪そうに俯く近藤に、山崎は半ば同情しながら土方のお茶を淹れなおす。
「っていうかね。あのさ。トシにしかハルちゃんの事相談してないのに何で皆知ってるのかなぁって……」
 その言葉に沖田は呆れたように返答をする。
「みてりゃ解りまさぁ。単純ですから近藤さん。デートの前日に寝れないとか、土方さんに相談して駄目だし食らってるとか、デートから帰ってきたら、布団に潜って一人反省会してるとか」
「ちょっとぉぉぉぉぉ!?総悟!?どこまで知ってるの!?え?山崎の方!?」
 その言葉に山崎は思わずぶんぶん首を振る。流石にそこまでは監視していないし、する気もない。恐らく沖田が勝手にその辺はやっているのだろう。土方は呆れた様な顔をしたが、煙草の煙を吐きながら瞳を細めた。
「その辺にしとけ総悟。とりあえず、まだ付き合ってねぇってのは理解できた。で、アンタはどーしてぇんだよ」
「そうでさぁ、近藤さん。遊びなら止めてくだせぇ。リンドウが可哀想でさぁ。っていうか、ゴリラの癖に遊びとか何様なんですかぃ?」
 畳みかける様に沖田が言うが、近藤はそれに関してはきっぱりと否定する。
「俺は本気だよ、総悟。ハルちゃんの事凄く好きだし。けど……」
「けど?」
 怪訝そうな顔をして沖田が言葉を促すと、近藤はしょんぼりとして言う。
「ハルちゃんにね、俺の事どう思うって聞いたんだよ。そしたらさ、大好きですって」
「良いじゃねぇですかぃ。相思相愛で」
 何に問題があるのかと言いたげな沖田に、近藤は小声で言葉を続けた。
「いつもとおんなじ笑顔で言われたんだけど。これさ、例えばトシが同じ事聞いても、同じように返答する様な気がしない?」
 いきなり例え話に出された土方は驚いたような顔をしたが、しばらく黙って宙を見る。恐らくやり取りを想像しているのだろう。
「言うな」
「言いそうですね」
「まぁ、リンドウならそう返答しまさぁ」
「だよね!?こう、手ごたえがないって言うか、にこにこっと嬉しそうにはしてくれるんだけど、これって、俺にだけって訳じゃないよね!?やっぱり俺の自惚れ!?総悟のドッキリ!?って考えたら何も言えなくなっちゃって……」
「ドッキリとか何で俺が名指しなんですかぃ」
 沖田が思わず突っ込むと、土方はぼそっと、日ごろの行いだろうと言い捨て、新しく入れた茶を飲む。確かに、いつもの調子でにこにこと笑ってそう言われたら、男としては判断に迷う。それは、近藤以外の面子が、リンドウがずっと近藤を好きだったと知ってるだけに意外な盲点であった。いまいち踏ん切りが付かないのも解らないではない。
 暫く悩んだ末、山崎が口を開いた。
「リンドウさん元気なかったですよ」
 その言葉に沖田も土方も反応する。ただ、まだ山崎が言葉を続けるだろうと察して口を挟む事はしなかった。
「一年以上相棒やってて、こんな事初めてです。その……少なくとも仕事の時に、そういう事顔に出す人じゃないんで、正直驚いてます」
 山崎の言葉をじっと聞く近藤は、僅かに俯いた。
「リンドウさんは、少なくとも俺達に対しては、好きだって言ってくれると思いますよ。けど、お見合いするのが、俺とか、沖田隊長とか、副長だったらあんなに元気なくなる事は……ないんじゃないかと思います」
「すまなんだ」
「お見合いも、その、多分局長が松平様に言われて渋々やってるのリンドウさん知らないんじゃないんですか?今まで話題に出た事なかったですし」
 そもそも、近藤の見合い話は大概駄目になるのが前提なので、土方や沖田程度しかお見合いがあった事すら知らない事も多い。山崎とて、たまたま知ったとか、後で知った事も多いのだ。リンドウが事情を知らないのも無理はないと山崎は思い言葉をそう続けた。自分達ならまた見合いかと思う程度の話であるが、リンドウにしてみれば青天の霹靂であろう。
 近藤も己の失態を自覚しているだろうし、反省もしているだろうと思っているが、山崎はあえて丁寧に話をする事にした。自分が全て近藤に話をしてしまう事で、沖田や土方が納得出来る様にしようと思ったのだ。次から次へと責められたら、流石の近藤も参るだろう。
「お見合いするかどうかは俺達には口は出せませんけど、一言、リンドウさんに事情を説明するなりして貰えたら俺としても有難いです」
 そう締め括ると、山崎は小さく息を吐き出しちらりと沖田と土方の表情を窺った。沖田はまだ不服そうな顔をしているが落ち着いているようだし、土方は煙草の煙を吐き出しながら近藤の方をじっと眺めている。
「リンドウに土下座して謝罪したら、今回の事不問にしまさぁ」
 ぼそりと沖田が言葉を零したので、山崎は安心したような顔をした。とりあえず何とかこの場は治まったのだ。それに対して近藤は頷くと、迷惑かけてすまなんだ、と謝罪した。
「アイツに言えよ」
「うん」
「そりゃじゃ俺、戻りますから」
 立ち上がった山崎を見て沖田も一緒に部屋を出る事にした。文句も大概言ったし、山崎がしつこいぐらい丁寧に近藤に説教をしたので気も一応済んだのだ。無論、リンドウはまだ萎れたままであるが、近藤が謝罪すれば丸く治まるだろう。
 局長室を一緒に出た沖田に、山崎は渋い顔をすると、勘弁して下さいよと呟く。
「あんなに大騒ぎにしちゃってどうするんですか」
 その言葉に沖田は少しだけバツの悪そうな顔をすると、プイっと外を向く。
「リンドウにあんな顔させる近藤さんが悪いんでさぁ。一言文句言っても罰は当たりませんぜぃ」
 たまたま見かけたリンドウは、いまにも泣きだしそうなのに無理矢理笑っていて腹が立った。理由を聞いても首を振るばかりであったが、別れ際に、彼女がぽつりと、近藤局長がお見合いするって本当ですか?と聞いてきたのだ。その時は近藤の見合い話等沖田は聞いていはいなかったので確認しておくとだけ言ったが、その時の彼女の顔を思い出すと、どうしても近藤に一言文句を言いたくなったのだ。
「一言文句って……ぶった斬る気満々だったじゃないですか。本当、勘弁して下さいよ」
 何気ない世間話の中で、ポロリと近藤がリンドウに見合い話をしたのは迂闊としか思えないが、近藤もこんなに責められるとは思わなかっただろう。
「まぁ、後は近藤さんが巧く話すりゃぁ問題はないでしょうぜぃ」

 机に突っ伏する近藤を眺めながら、土方は呆れた様な顔をする。
「これに懲りたら、見合いなんざぁはいはい受けるの止めるんだな。まぁ、今回は仕方ねぇけどよ」
「どうしようトシ……」
 ぼそりと突っ伏しながら呟いた近藤に、怪訝そうな顔をしながら土方は、何が?と短くきく。どうしようもなにも、後はリンドウに事情を説明するだけで難しい事などない。
「凄い不謹慎だって解ってるんだけどさ。ハルちゃんが俺の見合い話聞いて、元気ないのが凄く嬉しいんだけど」
 その言葉を聞いて、土方は顔をしかめると面倒くさそうに頭をかく。確かに不謹慎ではあるが、彼女の気持ちが解らない近藤にとっては、自分への好意があるという事を確認できたと言う事で、そう考えれば仕方がない様な気がして土方はため息を吐く。
「嬉しいのは結構だが、いつまでも萎れさせとく気か?」
「うん。ちゃんと話するよ。見合いの話も、俺の気持ちも。面倒かけてすまなんだ」
「さっさと行けよ。総悟がうるせぇから」
 頷いて立ち上がった近藤を見送ると、土方は煙草を揉み消し立ち上がった。

 

 ぼりぼりと煎餅をかじる沖田と、書類を束ねている山崎に視線を送ると、土方は思わずため息を吐く。
「総悟、仕事は?」
「土方さんだってサボりじゃねーですかぃ」
 悪びれる事無く沖田が言うと、土方は眉間に皺を寄せて、書類取りに来たと短く返答する。その声に山崎は卓に置いてある書類を土方に差し出すと、先程渡そうと思ってたんですけどねと苦笑した。
「アイツは?」
 書類を受け取った土方が、ぺらぺらとそれを捲りながら呟くと、茶を入れる準備をしていた山崎が口を開く。
「多分道場前で草引きやってるんじゃないですかね?最近気が付いたんですけど、リンドウさんって、考え事あると掃除とか家事に逃避しやすいみたいなんですよね」
 何も考えない為に掃除をするのか、掃除をしながら考え事をするのかは知らない。近々草引きをするつもりだと言っていたので、それを繰り上げたのではないだろうかと山崎は予想していた。仕事は片付いているので一向に構わないが、この暑いのに一人で草引きは少し気の毒に思う。
「まぁ、今は手伝う訳にも行きませんし」
 困ったように笑った山崎を見て、土方は興味を失ったのか書類に視線を落とす。
 すると、熱いお茶を飲みながら沖田が不機嫌そうに口を開いた。
「大体リンドウも悪いんでさぁ」
 意外な言葉を放ったので、土方は驚いたように顔を上げた。いつもリンドウ贔屓の沖田が彼女を非難するのは珍しい。時折彼女の人の良さに文句を垂れる事はあるが、今回近藤を散々責めていたのにどういう事だと言わんばかりに土方は口を開く。
「そうか?」
「そうでさぁ。近藤さんが迂闊で莫迦なのは土方さんの言うとおりある意味しかたないでさぁ。けど、見合いの話聞いた時に、リンドウが近藤さんの前で萎れりゃぁ、いくら近藤さんが莫迦でも自分の失態にすぐ気が付いたんじゃないんですかぃ?」
 そう言われ、土方はその時の光景を思い出す。
 世間話の中でうっかり近藤が見合い話を零した時に、リンドウはどんな顔をしていただろうか。止めようと思って止まらなかった言葉を聞き、土方はあの時反射的に彼女の方を見た。表情が陰ったのはほんの一瞬で、次の瞬間には、彼女はいつものポーカーフェイスに戻っていた。そして、その後茶を入れて直ぐに退室したのだ。近藤は彼女の陰りに気が付かなかったのだろう。沖田が怒鳴り込んでくるまで、己の失言に気づきもしなかった。
「……近藤さんに気ぃ使ったんだろうよ」
「解ってまさぁ、そんな事。だから腹が立つんでさぁ」
 手持ちの煎餅を食いつくすと、沖田は山崎に催促し、菓子箱から新しい菓子を出させる。それに山崎は少し呆れた様な顔をし、金平糖を手渡すが、沖田はそれを卓に乗せ、別の菓子を出すように言う。
「あれ?沖田隊長嫌いなんですか?」
「リンドウの好物でさぁ。食っちまうの気の毒だから別のにしてくだせぇ」
 その言葉に土方は驚いたような顔をする。それを見て沖田は少しだけ口元歪めると、新しい菓子を頬張りながら口を開く。
「子供っぽい好物だから、内緒にしてるらしいですぜぃ。流石の土方さんもしりやせんでしたかぃ?」
「うるせぇよ」
「近藤さんに教えてもらったんでさぁ」
 沖田は瞳を細めて、金平糖を眺める。近藤が時折買ってくるので不思議に思って聞いた時に知った彼女の好物。凄く喜んでくれるからと、近藤は恥ずかしそうに笑っていたのを思い出して、沖田はつまらなさそうにごろりと横になった。
「土方さんも知らねぇ事知ってんのに、何で一番大事な事わかんねぇんですかねぇ」
 そんな事をぼやいていると、スパンと勢いよく監察室の障子が開いたので、一同驚いたようにそちらを振りむいた。
 手が泥だらけのままで、息を切らせながら部屋に入ってい来たのはリンドウであった。流石に唖然とした山崎が声をかけようとしたが、彼女は狭い部屋に3人もいるのに気が付かないのか、彼等に目もくれずそのまま奥の衣裳部屋に駆け込む。
「……何だありゃ」
「近藤さんがチョンボかましたんですかねぇ。切腹してもらいましょうぜぃ」
 沖田の言葉に土方は舌打ちをすると、立ち上がり衣裳部屋の扉に手をかけた。
「鍵……かかってんだけど」
 ぴくりとも動かない扉に土方は眉を寄せる。内側から施錠したのであろう。
「一応着物とか高価なもの置いてるんで、その部屋だけ鍵ついてるんですよ。どうします?開けましょうか?」
 監察の人間は鍵を持っているので誰でも開けることはできる。山崎が土方に問いかけると、彼は少し思案したような顔をしたが、また先程と同じ座布団に座ると煙草に火を付けた。
「いい。誰にも会いたくねぇんだろう」
 ぷかりと煙を吐き出しながら、土方は山崎にそう返答した。

 一方。
 衣裳部屋に駆け込んだリンドウは膝を抱えて薄暗い室内の隅に座っていた。
 道場前で草むしりをしている時に、突然近藤が現れたのだ。いつも通りに対応しようと思ったのに、失敗し、挙句に、何かを話そうとした近藤を置いて全力で逃走してしまった。逃げるつもり等なかったのに、と膝を抱えてリンドウは俯く。失態だ、大失敗だと心の中で呟きながら、額を膝に押し当てた。
 見合いの話を聞いた時は驚いたし、悲しかったが、近藤が真選組の局長という立場や年齢を考えれば仕方がないと思う。ただ、最近随分と楽しくて、それが名残惜しくて、どうしてもいつものようにきっぱりと割り切る事が出来なくて困惑した。近藤を煩わせるつもりもないし、これ以上望むのは贅沢だと解っているのにとリンドウは頭を抱えるしか出来なかった。

 少し遅れて監察室に滑り込んできた近藤を見て、土方は呆れた様な顔をすると口を開いた。
「何してんだアンタ」
「切腹してくだせぇ近藤さん」
「ちょっと!?総悟!?いきなり物騒な……っていうか、ハルちゃん来たよね!どこ!?」
 バタバタと室内に入ってくる近藤に、山崎は困ったような顔をすると、衣裳室に飛び込んでいきましたけどと返答する。衣裳室の扉に手をかけた近藤に、土方は短く言葉を放つ。
「鍵かけてひきこもってる」
 驚いたような顔をして振り向いた近藤にため息をつくと、土方は更に言葉を続けた。
「もう一回聞くけど。何してんだアンタ」
 ぴしゃりと土方の冷たい言葉が近藤に向けられた。
「俺の顔を見るなり……逃げられた」
「嫌われたんじゃねぇですかぃ?」
 そんな事は天地がひっくりかえってもないと知っているが、沖田はあえてそう言う。すると、近藤は情けない顔をして笑った。
「かもしれん。けど、俺、ハルちゃんにまだ何も言ってないから。言いたい事も、詫びたい事も、一杯ある。嫌われたなら仕方ないけど、このままなのも厭なんだ」
 そう呟いた近藤を見て、土方はため息をつくと、山崎の名を短く呼ぶ。
 すると、山崎は制服のポケットから鍵を取り出し、衣裳室の鍵を開けた。
「すまなんだ、山崎」
 詫びる近藤に、山崎は小さな声で、頑張ってくださいと言うと、彼を送りだした。

 

 薄暗い衣裳部屋は、着物が日に焼けるのを避ける為か換気用の窓しか付いていない。電気をつけようかどうかと迷った近藤であったが、後ろ手で扉を閉め施錠すると、目を凝らしリンドウの姿を探した。
「ハルちゃん?」
 返事はなく、漸く目が慣れた頃に、近藤は部屋をゆっくりと歩きだした。箪笥をよけながら歩き回り、隅に、小さく蹲るリンドウの姿を見つけ、安堵すると同時に、過去の光景を思い出して項垂れた。
 冷たい水に浸かる子供。自分はその子供を助けたかっのに。笑って欲しかったのに。何をしているのだと。
 顔を上げないリンドウの正面に座ると、近藤は再度、彼女の名を呼んだ。
「ハルちゃん」
 ゆっくりと顔を上げたリンドウは、少しだけ困ったような顔をして笑った。
「あの。その。申し訳ありませんでした。突然逃げだしてしまって。お話……あったんですよね」
 膝を抱えていたリンドウは、正座に座りなおすと、申し訳なさそうに笑った。それはいつも通りの笑顔で、近藤は少しの間沈黙したが、重々しく口を開く。
「あのね、ハルちゃん。お見合いなんだけど」
「……頑張ってくださいね、お見合い」
 その言葉に、近藤は思わず口を閉じ、彼女の顔をじっと眺めた。その反応を予測していなかったリンドウは、少しだけ驚いたような顔をして、近藤局長?と恐る恐る声をかける。
「本気でハルちゃんはそう思ってる?」
「え?」
「ハルちゃんが、そう本気で思ってるんだったら、俺はお見合いしようと思う」
 薄暗い室内に響く近藤の声は、いつになく硬く、思わずリンドウは身を竦ませる。視線を逸らす事が許されないような圧迫感に、リンドウは、ただ、近藤の言葉を聞くしかできなかった。
「俺はハルちゃんの事凄く好きだけど、諦めて、仕方ないって、今まで通りいい上司でいようと思う」
 その言葉にリンドウは大きく目を見開き、近藤の顔を凝視する。
「もう一度だけ聞くよ。本当にそう思ってる?」
 答えを探す必要などリンドウにはない。答えはNOだ。どうしようもなく好きで、ずっと傍にいたかった。煩わせるのが厭で、ひっそりと思っていられるだけで幸せだった。それ以上望むのは我儘だと、初めて近藤に嘘を吐いたのに。
 リンドウの瞳に大粒の涙が溢れる。
「……私は……」
 絞り出すように声を出したリンドウを、緊張した面持ちで近藤は眺めた。泣かせるつもりだった訳ではない。けれど、近藤はどうしても彼女自身から聞きたい言葉があった。
「厭です……お見合い……しないで下さい。我儘だって解ってます。ごめんなさい、けど……」
 後はもう声にならないリンドウの体を近藤は抱き寄せると、彼女の背中を軽く叩きながら、耳元で謝罪した。
「泣かせてごめんねハルちゃん。言ってくれてありがとう」
 その言葉にリンドウは、更に泣きだし、近藤に何度もごめんなさいと繰り返す。しがみつかれ身動きが取れなくなった近藤は、体を離す事をせずに、そのままギュッと彼女の体を抱く。
「俺は……そのだな、トシや総悟みたいに男前じゃないし、山崎みたいに気もきかない。ストーカー体質で、ケツ毛ボーボーで、莫迦だから、ハルちゃんまた泣かせるかもしれない。それでも、俺の事好きでいてくれる?」
 その言葉に、驚いた様にリンドウは顔を上げた。まだ涙は止まらず、はらはらと涙は零れているが、彼女はぎゅっと一度瞳を閉じると、ゆっくり瞳を開けて穏やかに微笑んだ。
「私は、そんな近藤さんが大好きです」
 近藤は嬉しそうに笑うと、彼女の頭を撫でて、嬉しそうな声を零した。
「俺も好きだよ。ハルちゃん。えっと……実はね」
 もじもじと言い難そうにしている近藤を見上げてリンドウは首を傾げる。
「お見合いだけど、もう断っちゃった」
「え?」
 ぽかんとするリンドウに、近藤はバツの悪そうな顔をすると、がばっと体を離し土下座した。
「ずるい大人でごめん。どーしても、ハルちゃんが俺の事好いてくれてる確認したかったっていうか、本心聞きたかったっていうか……その……」
 恐る恐る頭を上げ、近藤はリンドウの表情を窺う。すると、リンドウは暫くは驚いた様に近藤を見下ろしていたが、困ったように笑った。
「私も……お見合い頑張ってくださいって、嘘付いたからおあいこですね」
 安心した様に近藤は笑うと、彼女の頭を撫でようと手を伸ばすが、ピタッとそれを止める。首を傾げたリンドウに、近藤は困ったように笑うと、行き場のない手を自分の頭に当てて、言葉を零した。
「総悟にもトシにもやめろって言われてるし、子供扱いみたいだから頭撫でるのやめないとな。なんというか、折角だし、こう……ぎゅーっとする方がいいかなぁって」
 恥ずかしいのを隠す為か、近藤があははと乾いた笑いをすると、リンドウは、かぁっと顔を赤くして俯いた。
「あの……もうひとつ、我儘言って良いですか?」
「え?」
「その、私頭撫でられるのも、ぎゅっとされるのも好きなんで、その、両方お願いしたいんですけど……」
 言葉を無くした近藤を見て、呆れられたと勘違いしたリンドウは、更に顔を赤くして、がばっと立ち上がった。
「すみません!自爆です!忘れてください!」
 そのままリンドウが逃げ出してしまうのではないかと思った近藤は、慌てて彼女の腕を掴むと、自分の方に引き寄せる。すっぽりと近藤の腕に収まったリンドウは、恥ずかしいのか、俯いたまま近藤にしがみついていた。それを暫く眺めていた近藤は、彼女の頭を撫でた後、嬉しそうに笑った。
「俺も両方好き。だから我儘じゃないよハルちゃん。お見合いの件も、厭だって言われたの嬉しかったから、我儘じゃない」
 驚いた様に顔を上げたリンドウの顔を覗き込むと、近藤は子供の様に笑った。
「いっぱい俺におねだりしてよ。一生懸命叶えるから」

 

「いやー。丸くおさまって良かったですね」
「なに泣かしてんだ」
「あそこで何でちゅーしないんですかぃ」
 衣裳室から出るなり浴びせられた言葉に近藤は、かぁっと顔を赤くして悲鳴を上げる。
「ちょっとぉぉぉぉぉ!覗いてたの!?酷いよ!扉俺ちゃんと閉めたよね!鍵も掛けたよね!」
 その言葉に、沖田は山崎が持っていた筈の鍵をちらつかせる。その後ろで申し訳なさそうに山崎が手を合わせている所を見ると、無理矢理巻き上げられたのであろう。
「あの!顔洗ってきます!」
 逃げる様にリンドウが監察室から飛び出したのを見送ると、土方は新しい煙草に火をつけて、細く煙を吐き出した。
「顔真っ赤にしちゃってまぁ。近藤さんには勿体ないですぜぃ、リンドウはやっぱり」
「さりげなく酷いよ総悟。っていうか、俺も今すぐ布団に潜りたいよ!」
 床に膝をついて涙目になる近藤に、呆れたように視線を送ると、土方は煙草の灰を灰皿に落として口元を歪めた。
「幸せモンが虐められるのは仕方ねぇだろうよ」
「トシィィィィィィィ!」
「ところで、リンドウさんと局長の事って、隊内には公表するんですか?」
 近藤の為にお茶を入れた山崎が零した言葉に、沖田は少しだけ考え込むようなしぐさをする。ここで平隊士同士の山崎とリンドウのカップル成立ならば、大して問題はないが、局長と言う肩書が近藤にある以上、この辺りはどうするか悩む所だ。
「まぁ、公表したわ、フラれたわになったら、江戸どころか、屯所内も近藤さん歩けなくなりますしねぇ」
 大真面目な顔をして言う沖田に驚いたような顔を近藤はするが、フラれるの前提とか!?と涙目になって卓に突っ伏する。それを呆れたように眺めた土方は、煙を吐き出すと面倒臭そうに言葉を添えた。
「隠す必要も、公表する必要もねぇだろ。公私の区別はアイツはきっちり付けるだろうし、近藤さん贔屓なのは皆知ってるから誰も気にしねぇよ」
 多分表向きはそう変わらないだろう。流石に所構わずべったりは困るが、リンドウがそう言うタイプとも思えないし、近藤の方の手綱はこのメンツの誰かが握れば良い話だ。そこまで考えて、土方は思わず口元を歪めると、意地の悪い顔をして笑った。
「大体、誰が信じるんだよ。近藤さんに彼女が出来たって。それこそ、総悟のドッキリだって皆思うだろうぜ」
「ちょっとぉぉぉぉ!さり気に一番酷いよトシ!」
 涙目で声を上げる近藤に、小声で悪ぃと謝罪すると、土方は瞳を細めて笑った。
 すっと、監察室の障子が開いたので、山崎が視線を送るとそこには申し訳なさそうな顔をしたリンドウが立っていた。入るのを随分躊躇ったのであろうと思った山崎は、手招きすると、お茶入れるからと笑う。
 その言葉にリンドウは頭を下げると、おずおずと室内に入り、隅にちょこんと座った。
「あの……色々とご迷惑かけて申し訳ありませんでした」
 頭を下げで謝罪するリンドウを見て、一同目を丸くすると、思わず笑い出す。それに驚いて彼女が顔を上げると、一番傍にいた土方が彼女の頭を撫でた。
「近藤さんは莫迦だから苦労掛けると思うけど、よろしく頼む」
 驚いた様に眼を丸くしたリンドウは、嬉しそうに微笑むと、また頭を下げた。
「こちらこそ。これからも宜しくお願いします」
「俺も、よろしくね、ハルちゃん」
 嬉しそうにそう言った近藤の顔を見て、リンドウは顔を上げると、嬉しそうに微笑んだ。


【愛及屋烏】本編完結。
200908 ハスマキ

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