*鬼が出るか蛇がでるか*

「あ、真選組の方ですよね」
 昼食後の屯所への帰り道、仲良く歩いていた近藤とリンドウは商店街のスーパー店員に声をかけられたのではたりと足を止める。今は時間的に昼休みであるが真選組の仕事上時間問わずに声をかけられる事もあるのだ。何か問題でも起こったのだろうかと近藤が心配そうにどうかしましたか?と店員に声をかけると、彼は少し笑って実は…と話を切り出した。
 どうやら沖田の注文した商品の到着が遅れていて、昨日届く筈だったのが今日になってしまっていたらしい。先程沖田に到着の連絡を入れた所、その辺の隊士を捕まえて運ばせて欲しいとの返事を店員は貰ったようで、とりあえず暫く待って誰も通らなければ配達するつもりだったが運よく近藤達が通りかかったので声をかけたとの事だった。
「…運ぶのは構わないけど俺お金今余り持ってないよ?」
「いえ、代金は先払いで頂いてますので…。それじゃ荷物持ってきますので」
 近藤が頷くと店員はすぐさま店に引き返して行ったので二人は店の前で荷物を待つことにした。
「沖田隊長何を注文したんでしょうかね」
「何だろうなぁ。朝から隊士集めてなんかゴソゴソしてたけどな」
 幹部会もないのに沖田が早起きするのは珍しい。寧ろ幹部会さえも時折サボるというのに今日に限っては起される事なく早起きして屯所で何かゴソゴソとしていた姿を見ていた近藤が困った様な顔をして笑った。今までの経験上沖田が張り切るときはろくな事がない。
「済みません。お待たせしました」
 店員が持ってきたダンボールに二人は驚いた様な顔をしたが、そのダンボールを近藤が抱え、リンドウは受領書にサインをする。とりあえず沖田にこの荷物を届けるのが二人の午後一番の仕事となったのだ。
「重くないですか?」
 近藤の隣を歩くリンドウが心配そうに言ったので近藤は、まぁ、力仕事は得意だからと笑う。重いと言えば重いが持てないほどでもない。
「マメ?」
「え?」
「豆が入ってるみたいですこの箱」
 ダンボールの横に書いてある商品名を見たリンドウが声を上げたので近藤は首を傾げる。沖田が健康食品にでも嵌ったのだろうかと考えたのだ。リンドウも同じ事を考えたのか、首を傾げて言葉を続けた。
「何の豆でしょうねぇ。同じ豆だったら飽きそうですけど」
「色々入ってる方が得した気分で嬉しいよね」
 そんな事を暢気に話しながら歩いていると程なく屯所に着き、玄関に箱を下ろして近藤が肩をグルグル回していると沖田がやってきた。恐らく店から豆を隊士に持たせたと連絡が入っていたのだろう。
「ありゃ。近藤さんでしたかぃ」
「おう総悟。何か注文した商品らしいな」
 誰が受け取ったのかまで聞いていなかったらしい沖田は申し訳なさそうな顔をすると、感謝の言葉を述べ早速ダンボールを開ける。そこにはみっしりと袋詰めされたマメがぎゅうぎゅうに詰まっていた。
「…おんなじマメばっかりですね。飽きませんか?」
 ダンボールを覗き込んだリンドウが不思議そうな顔をしたので沖田は少し笑うと袋を一つ空けそのマメを手に取りぽいっとリンドウと近藤に投げつけた。
「鬼は外ってね。節分用ですぜぃ」
 それを見た二人はああ、と声を上げ納得したように頷く。今日は節分だったのだ。ならば沖田が今日に間に合わせてマメを注文したのも理解できるし、そもそも食用ではないので同じ種類でも問題ない。
「豆まきするんですか?」
「間に合って良かった。昼からちょいと大々的にしようと思ってたんで」
 リンドウがマメを眺めながら尋ねたので沖田は笑ってそう言うと、マメの詰まった袋を一つ近藤に渡し、近藤さん達も撒いてくだせぇと言いダンボールを抱えてその場を後にした。恐らく何か準備があるのだろう。
「豆まきかぁ。後でちょっとやってみようか。掃除大変だろうけど」
「はい」
 嬉しそうにリンドウが微笑んだので近藤は彼女の頭を撫で笑った。

 

「土方さん」
 執務室で書類を捲くっていた土方は声をかけられ顔を上げた。
「何だ総悟」
 煙草の煙を吐いた後返事をすると沖田はつかつかと土方の側に歩み寄り、ひょいと彼の頭に何かを乗せる。それを確認しようと土方が一瞬気を逸らした瞬間に沖田の声が屯所内に響き渡った。
「鬼は外!」
 物凄い勢いでマメをぶつけられた土方は驚いて立ち上がる。
「な!行き成り何すんだ!」
「節分ですぜぃ土方さん。それ被ったら鬼役。ぴったりじゃねぇですかぃ」
 ニヤニヤ笑う沖田を睨みつけた土方はそこで漸く自分の頭に乗せられたのが鬼の面だという事に気がつき表情を引きつらせる。仕事中だというのに全力でお遊びをしようという沖田を怒鳴りつけようとした瞬間、マメの集中砲火を浴びた。
「!」
 驚いた事に沖田だけではなく他の隊士も参加しているようで、明らかに分が悪い。土方は腹立たしげに舌打ちをすると奥の私室に滑り込み窓から庭へ逃げ出した。
「逃がすな!」
 沖田の号令に他の隊士は走り出すと消えた土方の大々的な探索が開始された。

 庭に身をとりあえず潜めた土方は舌打ちをすると屯所の様子を伺う。廊下をバタバタと走る隊士は恐らく沖田が豆まきに巻き込んだ隊士であろう。もしかしたら沖田が適当に近藤を騙して自分の知らない間に大々的な豆まき大会が開始されていたのかも知れないと考え心底厭そうな顔をする。仕事はどんなに言ってもしないのにつまらない事には手間隙かけるのが沖田と言う男だ。それが土方への嫌がらせとなれば尚更である。
「何なさってるんですか?」
 頭上から声をかけられ土方はぎょっとしたような顔をして声の主を見上げた。そこにはマメの袋を抱えたリンドウが不思議そうに立っていた。
「…アンタも参加してんか?」
「え?」
「総悟の豆まき」
 そういわれリンドウはああ、と声を上げもう始まってるんですねと笑った。その返答に思わず土方は手に持ってるマメを投げつけられるのではないかと後ずさりするが、リンドウはその姿を見てぷっと噴きだす。
「可愛いお面ですね。副長が鬼なんですか?」
「!」
 リンドウに指摘され頭に総悟の持ってきた鬼の面を乗せたままだと気がついた土方は慌ててそれを外す。間抜けな格好を晒したのが恥ずかしいのか思わず顔を赤くし土方は顔を逸らすと困った様な顔をした。
 それを見たリンドウは少し微笑むと怪我しないようにして下さいねと言いそっと離れようとする。
「アンタ参加してねーのか?」
「このマメ近藤局長の分なんです。だから副長の事は見なかった事にしますね」
 それが本当なのかどうか判断できなかったが、土方は彼女の言葉にホッとしたような顔をすると小さく頷いた。
「見つけましたぜぃ」
 リンドウの背後から声がかかり土方は慌てて立ち上がる。沖田に見つかったのだ。しかも沖田が持っていたのは愛用のバズーカである。そんなもので吹っ飛ばされたらその後動けない所に集中砲火だと安易に想像できた土方は今はとりあえず逃げるしかないと身を翻した。
「逃げたぞ!」
 沖田の声で他の隊士がバラバラと屯所から出てくるのをリンドウは驚いた様な顔をして眺めていたが、心配そうに沖田に声をかける。
「怪我とか、大丈夫ですか?」
「ああ、コイツに詰めてるのマメですから死にやしませんぜぃ」
 にんまり笑った沖田は得意気に愛用の得物を撫でるとリンドウの頭を心配するなと言う様にポンポンと軽く叩き土方を追って駆け出した。

 息切れを起しながら土方は逃げていたが何処にいても隊士が見つけるので休憩すら取れない状態であった。一体どんなルールを敷いているのか解らないがもしも屯所内以外でも豆まきを続行されてしまうとそれはそれで困るので門の所で土方は立ち竦む。今や評判どん底の真選組である。
 視線を巡らすと山崎が屯所に向かって歩いてくるので思わず門の影に身を潜めるが、山崎はマメを持っている様子もないし、自分を探している様子もないと思い安堵すると同時に、自分が知っているたった一つの豆まきルールを思い出す。
「副長?」
 門の影から飛び出してきた土方に山崎は驚いた様に声をかけると立ち止まった。すると土方は持っていた鬼の面を山崎にかぶせて声を上げる。正直このルールが本当に正しいのか解らないので賭けに近い行動ではあったが、今この莫迦莫迦しい状態から逃げ出すにはそれ以外の方法は思いつかなかったのだ。
「山崎が鬼だ!」
「ええ!?」
 土方がそう声を上げると身を翻して屯所の外へ駆け出したので山崎はそれをぽかんと見送る。するとワラワラと隊士が集まってきて一同山崎に視線を送ってきたのでぎょっとしたように山崎は後ずさりする。
「…確認っと。よし、次の鬼は山崎ですぜぃ」
「ちょ!何が…沖田隊長?」
 ニヤニヤとバズーカを構えた沖田に山崎は仰天すると質問したのにも関わらず答えを聞く前に逃げ出した。その後を隊士達が追いかけ問答無用でマメをぶつける。
 運良く山崎が反対側に逃げたので土方はそれを確認しほっとしたような顔をすると、腰に下げた刀を屯所の外回りの壁に立てかけその鍔に足を乗せひょいと塀の上に飛び乗る。そして刀を引き上げ遠くを逃げる山崎の姿を再度確認し瞳を細めると更に塀を乗り越え中庭へ降り立った。
「…成仏しろ山崎」
 ぼそりと呟き屯所内へ戻る為にくるりと振り返ると、そこにはぽかんとした様子で近藤とリンドウが立っていたので土方は驚いた様な顔をした。よくよく足元を見ると恐らくリンドウが折角集めたであろう枯葉が足の下に散乱しており、土方はバツの悪そうな顔をすると悪ぃと小声で謝罪する。恐らく二人の掃除の邪魔をしてしまったのだろう。
「いえ…別に構いませんけど…急に降ってきたので驚きました」
「そうだぞトシ。ちゃんと玄関から入れよ」
 ゴミ袋を持った近藤が呆れた様に言ったので土方は大きく溜息を吐き、総悟に莫迦の所為だといい縁側へ歩いて行く。どうやらココは局長室の前の中庭らしい。
 するとリンドウがお茶を淹れると言うのでその言葉に甘える事にした。走り回っていた所為もあって体の水分が欠乏しているのを今頃土方は自覚したのだ。煙草も吸いたいが今は水分補給をしたいと思った。
 箒を立てかけたリンドウがお茶を淹れる為に屯所に戻ったので近藤もそれについて縁側に座る。それを見た土方は困ったような顔をして近藤に詫びた。
「すまねぇな。掃除」
「いや、よく考えたら総悟がマメまきまくってるんだしなぁ。後で纏めてやるさ」
 そう言うと近藤はハルちゃん俺の分もお茶淹れてといい持っていたゴミ袋を足元に放置する。リンドウの返事が返ってくると近藤は満足そうな顔をして笑い少し伸びをした。
「節分なんて久々だな。誰が鬼やってるんだ?」
「山崎に押し付けてきた」
 リンドウがか運んできたお茶に口をつけると土方は不機嫌そうな顔をして返答する。何の前触れも無く鬼役になってしまった山崎は不運としかいいようがないが、土方とて好き好んで鬼役をやった訳ではない。寧ろ諸悪の根源は沖田だと思うと腹の立った土方は煙草に火をつけ勢い良く煙を吐き出す。
「沖田隊長沢山マメ購入されてましたからね」
「だなー。あれどれ位あるんだろうな」
「300グラムのマメが12袋入ってたみたいですよ」
 二人の会話に土方はぎょっとしたような顔をする。どれだけ沖田が本格的に遊ぶつもりだったのか理解して背筋が寒くなったのだ。大体300グラムのマメ袋等明らかに業務用であるし、恐らく取り寄せなければ普段は見ることもない。
「アイツ…」
 思わず煙草のフィルターを噛んだ土方を見てリンドウは困ったように微笑んでそっと濡れタオルを差し出した。
「少し腫れてますよ」
 一応服を着ているものの肌が晒されている所は無論服に覆われている所もこうやって休憩するとヒリヒリと痛む。それに気がついた土方は悪ぃと短く言うと濡れタオルを受け取り腫れた箇所を冷やす事にした。小さなマメとはいえ硬いし、大量にぶつけられればそれ相応に痛い。挙句の果てにバズーカまで持ち出した沖田こそ鬼だと土方は一瞬考えて溜息をついた。
 するとバタバタと足音がしたのでそちらに視線を向けると山崎が血相を変えて走ってきたので土方は思わず腰を上げる。反射的に逃げ出そうとしたのだ。
「何なんですかコレ!酷いですよ副長!」
 恐らく散々マメをぶつけられたのであろう山崎は涙目になりながら膝をつくと、縁側においてあったリンドウの冷めたお茶を一気に飲み干す。先ほどの土方同様逃げ回って体内の水分が枯渇していたのだろう。
 漸く一息ついた山崎は土方を睨み付ける。
「…何で俺が追われるんですか」
「節分なんだと」
 簡潔な土方の返答に山崎はぽかんとしたような顔をするが、直ぐに声を上げた。
「いや、節分って…バズーカに仕込まれた散弾マメとか反則でしょう!あれ凶器ですよ!死ぬほど痛いんですよ!」
 沖田お手製の散弾マメを喰らった山崎は気の毒な事に顔も所々腫れているし、見えないが服の下も酷い事になっているのだろう。リンドウの差し出した濡れタオルで顔を覆いながら山崎はブツブツと文句を言うと、リンドウにお茶おかわりと言う。
 新たにお茶を入れなおしたリンドウは山崎の頭の上に乗っている鬼の面を手に取り、コレもボロボロですねと笑った。マメの攻撃が大分当たったのだろう、土方がつけていた頃より大分くたびれている様に見えたのだ。
「あ、沖田さん居ましたよ!」
 平隊士の声に山崎と土方は反射的に逃げる体制をとるが、その平隊士が声を上げた途端此方をみて固まったので逃げるのは中断する。
 ワラワラとやってきた沖田と隊士達は一同声を失って立ちすくんでいる見えたので近藤がどうしたお前等と不思議そうに声をかけると小声で隊士が沖田に耳打ちする。
「どーしましょう沖田隊長。鬼の面、リンドウさんが持ってますよ?」
 その言葉に沖田は困った様な顔をするが、まぁルールですしねぇとちらりとリンドウに視線を送った。
「!」
 唯一のルールを思い出した土方は慌ててリンドウの方に手を伸ばす。鬼の面を持ってる者が鬼。それがこのゲームのルールなのだ。しかし、土方の手は空を切り、先程までリンドウの手に収まっていた鬼の面は近藤の手に渡った。
「そんじゃハルちゃん。行ってくるわ」
 リンドウに笑いかけると近藤はその面を被り猛ダッシュで逃げ出した。恐らく隊士と沖田の会話でそのルールに気がついたのであろう近藤は彼女の代わりに鬼になって逃げ出したのだ。
「え!?近藤局長!?」
 驚いてリンドウが追いかけようとするが、沖田がその手を掴んで引きとめたので彼女は近藤を追う事が出来なかった。
「つー訳で。次の鬼は近藤さんですぜぃ」
「えぇ!?」
 沖田の声に他の隊士は歓声を上げるとワラワラと近藤を追いかけて走り出す。近藤が自分を庇った事に気がついたリンドウは私が鬼やりますからと沖田に訴えるが沖田は困ったように笑ってじゃぁ、近藤さんから鬼の面受け取ってくだせぇと言う。
「まぁ、近藤さんは渡してくれないとおもいやすがね」
 そう言い残しぽんぽんとリンドウの頭を撫でるとバズーカ片手に走り出した。
「…そんなぁ」
 途方に暮れたように沖田の背中を見送るリンドウはぺたんと縁側に座り込んだが、直ぐに立ち上がり持っていた濡れタオルを握り締め近藤が逃走した方向に走り出した。
「いっちゃいましたね」
「そーだな」
 山崎はちらりと土方の表情を伺うとお茶を淹れ直す。表情は相変わらず不機嫌そうで、煙草をもみ消すと又新しい煙草に火をつける。
 結果的に近藤がリンドウを庇って鬼になったが、土方もまたリンドウを庇おうとした事に気がついた山崎は僅かに瞳を細めた。ずっと山崎は土方はリンドウが苦手なのだと思っていた。仕事の話以外は余りしないし、いつも何故か彼女の前では不機嫌そうにしているからだ。しかしそれは間違った認識であった事に漸く気がついた。逆だったのだ。恐らく。
「副長…」
「なんだ?」
「いえ、なんでもないです」
 気がつかなければ良かったような気がした山崎は不機嫌そうな土方の返答に思わず言葉を詰まらせ、淹れたばかりのお茶に口をつけた。

 一方リンドウは隊士達のばら撒いたマメの後を追いながら漸く沖田達と合流する事が出来た。隊士達が草むらや木の上、建物の影などを覗き込んでいる所を見ると近藤を見失ったのであろう。それにリンドウはホッとした様な顔をすると沖田の所へ近づく。
「あの」
「リンドウの分」
 声をかけようとしたリンドウに沖田は腰につけていた袋を渡すと瞳を細めて笑った。恐らくマメが入っているのだろう。それを受け取ったリンドウは困った様な顔をして言葉を続けた。
「近藤局長は…」
「捜索中でさぁ。意外と逃げ足速かったですぜぃ」
 逃げ足が速かったとはいえ、リンドウがここにたどり着くまでの道中かなりのマメがばら撒かれていたのでそれなりに攻撃は喰らっただろう。山崎や土方の様子を見ていれば解るがかなりマメを喰らうと痛い。自分の代わりになってしまった近藤に申し訳ないのかリンドウが萎れた表情をするので沖田は苦笑して頭を撫でる。
「そんな顔しないでくだせぇ。遊びでさぁ」
「でも…」
「沖田さん。さっきのでマメのストックやっぱり切れたみたいです。タマ切れですわ」
 リンドウが何かを言いかけたが走ってきた隊士が遮ったので沖田はニンマリ笑って手を軽く上げる。
「豆まき終了!各自所持してる残りのマメは適当に処分してくだせぇ。掃除は打ち合わせどおりするように」
「え?」
「マメ。ストック切れたんでコレで終りでさぁ」
 バズーカ散弾マメに関しては物凄い勢いで消費するし、隊士達も元々沢山マメがあったので遠慮なく使った結果思ったより早くタマ切れ起したらしい。本当は夕方まで遊ぶつもりだったんですがねと沖田は笑うと手に抱えていたバズーカをよいしょと降ろす。
「…近藤さん探して来てくだせぇ。大方どっかで小さくなって隠れてると思いますぜぃ」
「はい。あの…来年は私も混ぜて下さいね」
 リンドウの言葉に沖田は少し驚いた様な顔をするが直ぐに柔らかく微笑んだ。
「仲間外れは厭ですかぃ?」
 小さく頷いたリンドウをみて沖田は笑うと、じゃぁ、来年はバズーカ無しで一緒にやりましょうといいバズーカを担いで他の隊士と掃除を始めた。
 それを見送ったリンドウは裏手の道場の方へ走ってゆくと近藤の姿を探しす。先程隊士達が探していなかったのはその辺りだったのだ。茂みなどを注意深く探っていくと、がさりと背後で音がしたのでリンドウはそっとそちらに近づく。
「…近藤局長」
「!?ハルちゃん?」
 彼女の姿を確認した近藤は慌ててリンドウを草むらに引っ張る込むと又体を小さくした。豆まきが終わった事に気がついていないのだろう。リンドウを抱きかかえるように近藤が隠れたので彼女は慌てて声を上げた。
「タマ切れで豆まき終わりましたよ」
「え?そうなの?」
「はい」
 ホッとした様な顔を近藤がするがリンドウは申し訳なさそうな顔をして詫びる。
「まぁ、アレだ。総悟も他の奴も女の子にぶつけるのは気が引けるだろうしなぁ。まぁ、皆が楽しめたから」
 そう言って笑った近藤の顔が所々腫れているのに気がついてリンドウは持っていた濡れタオルを近藤の頬に当てた。熱を持った腫れに冷たいタオルが当たり近藤は少し顔を顰めたが有難うと笑った。
「態々持ってきてくれたの?悪いね」
「いえ…元々私の所為ですから」
「…来年は一緒にしようか。総悟の散弾はちょっと危ないから禁止にして、他の女の子も誘って、ちゃんとルール決めて。鬼も一人じゃなくて沢山いれば集中しないからきっと怪我もないよ」
 近藤がそういいリンドウの頭を優しく撫でたので彼女は少しだけ嬉しそうに笑ってはいと返事をする。庇って貰った事も申し訳ないし、一緒に楽しめなかったのも残念だったリンドウにとって近藤の言葉はとても嬉しいものだったので自然と微笑が零れる。
「しっかし総悟の散弾は反則だな。アレ。俺のケツ毛ボーボーのプロテクトでも痛かったし。つーか、なんかまだ痛いし」
「大丈夫ですか?」
「後で冷やすよ。山崎とトシもありゃ慌てて逃げ出す訳だ」
 背を向けて逃げる為に、背中や尻が集中的に狙われる訳であるが、沖田の散弾は飛距離こそかなり短いが威力は大きい。それに比べれば他の隊士は豆鉄砲レベルだと近藤は真剣に思った。アレは来年禁止すべき筆頭事項であろう。
 リンドウが近藤を見上げ心配そうな顔をするので近藤は笑って彼女の頭を撫でる。近藤は彼女の萎れた顔が余り好きではなかった。頭を撫でれば嬉しそうな顔を彼女がするのでついこうやって子供の様に頭を撫でてしまう。悪い癖だと本人も思っているのだがどうしても辞める事が出来ない。初めて出会った時から続く悪い癖。
「ハルちゃんは大きくなったのにね」
「はい?」
 近藤がボソッと呟いた言葉を聞き取れなかったリンドウがきょとんとしたような顔をしたので近藤はなんでもないよ言うとリンドウが押さえているタオルに手を当て立ち上がった。
「そんじゃ帰ろうかハルちゃん。尻も冷やしたいし、掃除もせにゃならんし」
「はい」
 彼女が立ち上がるのを確認すると近藤はゆっくりと歩き出す。トコトコと横に並んで歩くリンドウを眺めて近藤は僅かに瞳を細めると、またリンドウの頭を撫でた。


真選組節分。
珍しく近藤さん締め。
20090201 ハスマキ

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