*蒼い記憶*

 不可解な出来事が起こる。
 遊戯の持つアイテムの関連者にしか解読できないとマリクが云っていた『古代神官文字』で書かれた太陽神のテキストを解読する事が出来たのだ。
 そして何よりも、
 イシズとの戦いで頭に浮かんだあの光景。

 青眼白竜の石版。
 その前に女を抱え膝をつく男。

「兄様?」
 側にいたモクバが瀬人の顔を心配そうに覗き込む。太陽神のカードの画像を見たとたん黙り込んでしまったのだ。
 モクバの目には太陽神のカードテキストは解読不能だった。
「…」
 瀬人は黙って扉の方に歩いてゆくと、少し風に当たってくると言い残しその場を去ったが、それを見送るモクバの表情は暗い物だった。

***

 何気なく飛行船内を歩いていると、孔雀舞の部屋の前に差し掛かった。先刻でのマリクとの戦いで意識不明の重体となった彼女は多分まだ意識を失ったままだろう。

 マリクは『闇のゲーム』だと云った。

 それは自分が嘗て遊戯と戦った時に心を砕かれた忌まわしいゲーム。
 例えば孔雀舞のやったゲームがあれと同じ物ならば?

 部屋が静かなのを確認して扉を開けると、そこには意外な人物が立っていた。
「セト…」
 自分の名前をそう呼ぶのはただ一人しか居ない。
「貴様か…イシズ」
 イシズは僅かに瞳を伏せるとベッドに横たわる舞に視線を移す。案の定彼女は意識を失ったまま微動だにしない。嘗ての自分のように。
「此処に俺が来る事も解っていたと云うんじゃないだろうな」
 未来を予知すると言う女。
「…未来はあの時変わった…もう私には未来は見えない」
「ふん」
 舞の横たわるベッドに歩み寄り彼女の表情を見る。決闘ステージで見せた気丈な表情は何処にも見て取れない。
「何故俺に古代神官文字が解読できる…」
「石版を…覚えていますか?名も無きファラオと神官の姿を描いた石版です」
「ああ…」
 覚えている。あの石版を見た時も先刻の決闘の時に見たのと似たようなビジョンが頭に浮かんだ。自分にとっては不可解でしかもの。
「あの神官は『貴方』です」
「馬鹿な!」
「貴方は確かに『未来』を変えた…青眼白竜によって。しかし、『過去』は決して変える事は出来ない」
 イシズはその瞳を此方に向ける。怯む事の無い真っ直ぐな視線。
 確かに、そう片を付ければ古代神官文字を解読できた事も、あのビジョンも説明がつくかも知れない。しかしそれを受け入れる事は如何しても出来なかった。
「俺は…俺は自ら遊戯と戦う事を望んだ!過去の因縁など知った事ではない!」

 もしも本当に前世という物が存在するのなら…誰の物なのだ…遊戯と戦いたいというこの気持ちは。

 何時でも自分の意志で決めていた。
 それすらも三千年も昔から解っていた事だというのか?
 名も無きファラオと神官の時を超えた因縁でしかないというのか?

「運命の糸に手繰り寄せられたのです私達は…」
「黙れ!」
「セト!!!」
 イシズが声を荒げ此方を見据える。
「…貴方の記憶は『千年錫杖』に封印されています…この戦いで…貴方にも記憶が還る筈です」
「必要ない!俺が望むのは『武藤遊戯』との戦いであって『名も無きファラオ』との戦いではない!」
 そう怒鳴りつけるとイシズは漸く黙り込み僅かに表情を翳らせる。
 もう聞きたくなかった。これ以上聞けば認めたくない事実を認めざる終えない状態になりそうで厭だった。

 何故、唯の決闘者として戦う事が赦されない。

 この飛行船が飛び立った直後に舞と話をしたのを思い出した。
 甲板で広がる夜景を眺める彼女を見つけると、彼女も此方に気がついたのか振り返るが露骨にガッカリした表情見せる。
「…なんだ、アンタか」
「誰だと思ったんだ?」
「…さぁ?」
 可笑しそうに笑うと、舞は視線を夜景に移すし僅かに口元を緩める。
「漸く此処まで来たわ。漸く…あいつと戦える」
「遊戯か?」
 俺の言葉に舞は首を振ると体ごとこちらを向く。
「いずれは。でも、アタシは城之内と戦いたくて此処に来た」
「はん。ご苦労な事だ。あの凡骨デュエリストとわざわざ戦うなどと…」
「…今のあいつには目の前の大きな壁しか視界に入ってない。遊戯・アンタ、そしてマリク…アタシの事なんか見てないの。だから…厭でも視界に入ってやるのよ」
 舞は瞳を細めて笑う。
「…理解し兼ねるな」
「そうでしょうね。昔のアタシなら同じ事云ったわ。でも…アタシは少し変わった」

 賞金が目当てで戦うのではなく、決闘者として自らの求める好敵手と対峙する為に戦う。
 遊戯と出会って、共に行動して、初めて気が付いたデュエリストとしてのあり方。

「変わってアタシは強くなった」
「…」
 舞の視線が俺の視線を捕らえる。
 俺は…何も変わらない。変わるのが怖いのかもしれない。
 舞は俺の表情を詠んだのか、僅かに微笑むと瞳を伏せる。
「そう深刻に考えなくても良いわよ。アンタは守る物があって十分強いんだからさ。城之内を倒したら次はアンタ。そして遊戯。優勝は頂くわ」
「…フン」
 自信たっぷりの舞の顔に思わず何も言い返せずに居ると、舞は一つ伸びをして姿勢を正す。
「まぁ、今回の大会には感謝してるわ。又あいつと戦える機会が出来たんだから。有難う」
「あの凡骨はお前に当たる前に負けかねんだろう」
「勝つわよ」
 俺の嫌味をアッサリと流すと舞はゆっくりと甲板を歩き室内への扉へと向かう。
「ねぇ知ってる?アンタの『青眼白竜』のカードは『勝利』を齎すカード。そして…城之内の持つ『真紅眼黒竜』のカードは『可能性』を齎すカードって云われてるのよ。…ぴったりだと思わない?私は『可能性』を信じてる」
 舞は手をヒラヒラと振りながら室内に戻る。

 そう、この女は城之内と戦う為に此処まで来たのだ。
 それなのに…何故『過去の因縁』に巻き込まれ凡骨との決闘も出来ずにこんな目に会わなくてならない。もう二度と戦えないかも知れない。
「…唯の決闘者として戦う事が何故赦されない」
「…」
「俺が…貴様らの因縁を断ち切ってやる。踏み躙られた決闘者の思いの為に…そして…俺の為に!」
 その為に変わらなければならないのならそれも良かろう。
 二度と下らない決闘をしなくても良い様に。
 コートを翻し部屋を出ようとすると、イシズか声をかけてくる。
「…貴方の…未来を変える力を信じます」

 祈るべき神も居ない。
 神こそが自らの前に立ちふさがる『敵』となる。
 ならば俺は、
 蒼い閃光と共に神を薙ぎ倒して未来を手に入れる。


>>後書き

 持ってる人は実に稀でしょうが、以前出した『千年遊戯』っていう本のシリアス話をベースに話を書きました。
 大雑把に言えば『真DM』の神官セトと遊戯との話しだったんですが、そこで使ったお気に入りの台詞をそっと入れてみました。『もしも前世などと〜』と『唯の決闘者として〜』って奴なんですが。

 で、途中でちょっと瀬人様→舞っぽくなって苦笑しましたねぇ。いやぁ、瀬人様のカップリングは中々思いつかないんですが、書いてるうちに段々乗ってきた(笑)って感じでこっそり上機嫌。
 大体瀬人様は会社経営より遊戯との対決(海馬ランド100億かけて作ったし・笑)、女よりカードって感じじゃないですか。色恋沙汰よりも絶対カードの方が優先だと思うんですが。っていうか、女に余り興味なさそう(決して野郎がいいって訳じゃないのだが・笑)子供だと思うんですよ瀬人様ってまだまだ。で、妥協に妥協を重ねると、年上の舞さんにちょっと興味を持つって感じで。しかしそれも決闘者だからって事もありますがね(何フォローしてるんだ私・涙)

 瀬人様としても遊戯に運命のような物を感じながらもそれを認めるのは厭だという所もあるんじゃないですかねぇ。特に前世云々と云われると。遊戯との出会いも、今までの道のりも全て決められていたって云われりゃむっとしますよね。だから書いてみたんですよ…もう少し練りこみたかったんですが何せ原作設定がまだ解り切ってないのでこの辺で逃げました。…石版の前で抱きかかえていた女は誰なんだ…(涙)

 漫画ベースのSSって難しいですねぇ。ゲームは一回クリアーすれば設定が全部解る訳だから書きやすいんですが、漫画は後から設定が出てきて泣きを見る恐れがあるので余り書かないんですよ。でも、遊戯は細々と書いていきたいなぁ。

 …瀬人様→舞さんのSS書くって言ったら誰か読んでくれますかねぇ…(遠い目)基本的には舞v城之内推進なんですが。

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