*幸運日時*
竜崎桜乃は途方に暮れていた。目の前に人が倒れているのだ。
先刻越前のボールを額にクリーンヒットさせられた人はそのまま文字通りに動かなくなってしまった。越前はそ知らぬ顔で焼却炉に向かい、桜乃は倒れた人を放置する事も出来ずにその人の傍でオロオロするばかりだった。
「あ!そうだ!」
桜乃は急いで自分の荷物の置いてる部室に向かうと、カバンからタオルを出し、その足で水道へ向かった。
パタパタと忙しく帰ってくると、その濡れたタオルをその人の額に乗せる。
保健室に彼を運ぶのは体格的に無理があるのだが、ボールがぶつかった所を冷やす位は出来る。そう考えての事だった。
ひんやりとした感覚が額にある。
暫くするとその感覚はなくなって、再び更に冷たい感覚がやってくる。
―─何だ?
そう思ってゆっくりと記憶を手繰り寄せる。青学に偵察に来た。で、女子テニスを見学している時にひも付きボールで練習している奴に会った。そう、彼にアドバイスをしたのだが、彼は右手から左手にラケットを持ち替えて…。
意識がブラックアウトしたのだ。
「ああ…そうか…」
思わず彼は呟いた。そして体を起こすと、直ぐ近くからキャ!っと可愛い悲鳴が上がった。
「?」
悲鳴の方を見ると、長いお下げ髪の少女が心配そうに彼の方を見ていた。そして、彼の額に乗せられていたタオルがニュートンの法則に従い、ぽとりと地面へ落下した。
「あ!御免!汚れたかな!?」
慌てて拾い上げたが、水を吸っている所為で、既に砂塗れになっていた。
「あの…大丈夫ですか?」
桜乃はおずおずと彼の顔眺めながら聞いてきた。そして漸く彼は彼女が傍でタオルを換えてくれていたことを理解した。
「全然平気。ずっと傍に居てくれたんだ君」
「え!?あ、保健室に運びたかったんですけど…その…私じゃ無理で…済みません!」
そこまで言うと、桜乃は頭を下げて謝罪した。流石に謝られるとは思っていなかった彼は一瞬ぽかんとした顔をするが突然笑い出した。
「有難う。御免タオル汚しちゃって」
「いえ!予備もありますから…。えっと…千石さん?」
突然名乗ってもないのに名前を呼ばれて些か驚いた顔をするが、千石は愛想良く返事をした。
「俺も有名になったな。君が名前知っててくれるなんて」
「あ…カバンに…名前が書いてあったんで」
桜乃は申し訳なさそうに千石の能天気な言葉に返事をする。彼の持っていたカバンに『山吹中・千石』とバッチリ名前が書いてあったのだ。今時持ち物に名前を書くのは珍しいといえば珍しい。
彼女の答えに千石は苦笑すると、カバンを手繰り寄せ立ち上がる。
「大丈夫ですか?」
「ああ。ずっと傍に居てくれて有難う。タオル洗って返すよ。君名前は?」
「竜崎桜乃です…あ、タオル別に洗わなくても!!」
名乗った後に桜乃の慌てて千石の持っている自分のタオルに手を伸ばすが、彼はそれをすかさず高く上げて彼女の手の届かない所に持ってゆく。
「…又会える口実頂戴よ。ね」
悪戯が成功したような子供っぽい笑いを浮かべると、千石は校門の方へ歩いてゆく。
取り残された桜乃はぽかんと千石の後姿を暫く見送ったが、又会いに来るって事よね…と突然顔を赤くする。今までそんな事を言われた事がないので急に恥ずかしくなったのだ。
青学の目の前にあるバス停に着くと、丁度道の向こうからバスがやって来る所だった。千石は満足そうに笑うと、右手に持っている彼女のタオルを眺める。
「本日のラッキーアイテムはタオル…ってね」
>>あとがき
突然私の中で大流行となった千石v桜乃(笑)又マイナーな所にいきたがるし。でも、このカップリングは無理はないですよね!!(誰に言ってるんだ)…不動峰中心でテニ王やりたいとかいっておきながら何かいてるんだか(遠い目)
話としては千石初登場のアレの後です。多分桜乃が放置出来るわけないだろうなぁと思って書いてみました。っていうか、私千石の性格良く掴めてないんですが…なんか、ラッキーに拘る男って程度で(遠い目)
で、続き書くのかこれ…(遠い目)タオルパクっちやうのもアレなんで、そのうち続き書くかも…(弱気)次のラッキーアイテム考えなければ!!(滝汗)久々に短い話書いたんで(基本的に長話書き・笑)このカップリングは短い話をちょぼちょぼ書きたいかなぁと思ってます。内容薄いなぁ。
20020204