*運命邂逅*

「お主名前は?」
「星彩」
 短く答えた女の顔を見て島津は口端を上げて笑った。オロチ軍に囲まれ絶体絶命の危機だったその時この女は単身戦場に躍り出てその槍を振るった。いつも自分の首を狙っている女に似ていた可笑しかったのだ。
「何が可笑しい」
「お前に似てる女がおる。それを思い出した」
「笑われるのは不愉快だ」
 眉を顰めた星彩は島津に感情の起伏に乏しい言葉を叩きつけるとくるりと背を向けた。
「何処へ行く?オロチとやり合うならワシと来ぬか?」
 島津の言葉に星彩は足を止めると僅かに思案した表情を見せる。オロチと単身でやりあうのは得策ではないと彼女自身も感じていたが、助けたとはいえこの目の前の老体を信用できるかは別問題であった。
「私は人を探している」
「ならソレも探そうか」
 自分の探し人をソレ呼ばわりされたのが不快なのか星彩は眉を顰めたが、結局小さく頷いた。手がかりが何一つない現状、闇雲に探しても時間の無駄だと判断したのだ。意味も解らずこの世界に飛ばされ仲間とはぐれてしまった。今自分が何処にいるのかすら把握できていなかったのだ。その点目の前の男は僅かながら部下を率いているし、格好からしてもある程度地位のある人間であろう。利用できるものは利用すべきだ。
「貴方の名は?」
「島津義弘だ。好きに呼べ。探してる者の名は?」
「趙雲将軍」
「なら行こう。オロチに歯向かって捕らえられた武将がそんな名だった」
 その言葉に星彩は僅かに表情を綻ばせた。
「本当に?」
「嘘ならワシの首をくれてやる。まぁ、立花と取り合いにならぬようにな」
 そう言うと島津は可笑しそうに笑い馬に乗る。立花というのが何者なのか解らなかった星彩は僅かに首を傾げると島津の乗った馬の後を小走りでついてきた。

 

 趙雲の捕らえられている場所まで随分距離があったが、星彩は文句も言わずに黙々と島津の後を追ってきた。馬を貸そうと言ってみたが彼女は首を横に振るばかりであった。余り馬が得意ではないらしい。
「何故貴方はいつも私と立花を比べるのですか」
「さぁてな。アレもこちらに居ればワシの首を狙って来るだろうが中々現れないから退屈してるのかも知れんな」
 何度目かの野営で星彩聞くと島津は笑ってそう答えた。首を狙うのなら敵同士なのであろうが、島津はずっとその立花が現れるのを待っているように思える。明らかに退屈しているのだ島津は。
「趙雲とやらとは良い仲なのか」
 突如切り出されて星彩は盛大に飲んでいた水を噴出すと呆然とした顔で島津を見る。
「いえ。趙雲様とは…その同じ軍に所属して…兄の様な…師匠の様な…そんな…下種の勘繰りは不愉快です」
 明らかに動揺した星彩を眺めて島津は満足そうに笑うと酒を飲み干す。いつも笑われてばかりだと感じた星彩は不快そうに眉を顰めるとすくっと立ち上がりその場を去ろうとするが島津がそれを止める。
「立花もいつも怒ってばかりの女だ。ワシの首を狙ってる癖にワシが戦場で博打を打つと『死ぬ気かバカ者』と助けに来る。良く解らん女だ」
「お好きなんですよ貴方が。だから自分以外の誰にも殺されたくない」
「お前にしては面白い冗談だ」
「私は冗談が嫌いです」
 淡々と返答する星彩を見て島津は目を僅かに細める。星彩と言葉を交わす度に立花を思い出して待ち焦がれる。戦場でしか相容れない好敵手はまだ来ない。あの女が自分の打つ博打を嗅ぎ付けて怒り狂って戦場に切り込んで来るまで何度でも無茶をしたくなる。
 無言になった島津を眺めながら星彩は小さく溜息をつく。
 戦場では鬼神の如き強さを誇るこの男も寂しいのかもしれない。人を探しているのは島津も同じなのだと感じたのだ。
「来ますよその人は。そして私も趙雲様を見つけます」
「…ああ」
 ゆっくりと島津は杯を空にした。

 

「趙雲様!!」
「星彩殿」
 牢に囚われた趙雲を助け出した星彩は満面の笑みを浮かべ喜びを露にした。島津が見る初めての笑顔であった。
「島津殿も…誠にかたじけない」
 深々と頭を垂れる趙雲を見て島津はゆっくりと頭を振った。
「いや、良い暇つぶしになった。どうだワシらとオロチ退治に行くか?探し人もいずれ見つかろう」
「喜んで」
 槍を握る趙雲は僅かに微笑を浮かべ島津の言葉に返事をした。
「私も共に行きます趙雲様」
 控えめに微笑んだ星彩を見て趙雲は軽く星彩の頭をポンポンと叩くと、強くなったなと穏やかに微笑む。すると星彩は子ども扱いが不服なのか微笑を引っ込めて不快そうな顔をする。
「いつまでも子供扱いしないで下さい」
「ああ…すまない」
 表情の豹変に驚いたのか趙雲は慌てて謝罪すると僅かに苦笑する。趙雲にしてみれば張飛の娘であり、自分の可愛い弟子なのだ。つい子供扱いしていつも星彩の機嫌を損ねてしまう。
 悲しいほどの星彩の一方通行の思いに島津は可笑しそうに口元を歪めるが、目ざとく星彩に見つかり睨まれる。笑われるのが嫌いなのではなく、子供扱いされるのが彼女は厭なのだという事を漸く島津は理解した。そして余りにも一方通行過ぎる思いに思い人は全く気付いていない。
「さて、行くか。こんな所に用はない」
 そう言うと島津は武器を握りしめ外へと繰り出す。

―─自分の待ち人が現れるのを待ち焦がれながら。


>>後書き

 無双OROCHI蜀シナリオスタート前のお話。
 星彩→趙雲のつもりが全力で島津小説になってる罠orz(ついでに言うなら関平→星彩→趙雲→阿斗の超一方通行・笑)
 なんだか書いてて島津公への愛に目覚めてしまった私はどうしたら良いんでしょうか。個人的には立花と島津のコンビ好きなのでもう、全力で推しても良いんですがね(笑)
 個人的には孫尚香→趙雲も推してるんですが、OROCHIではチーム違うしね。
 OROCHIも出て久々に無双萌え中なので細々とSS書ければと思ってます。

20070416

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