*深遠の扉*
子供は泣き喚きながら荒野の過酷な環境で半年生き延びた。
それは普通に考えれば不可能に近いものであったが、それすら乗り越えて強くなってもらわなくてはならない理由があった。数ヵ月後に控えた最凶の敵の襲来。それは決めたれた未来であり、避けられない運命。
襲来する敵を倒さない限り世界の運命は閉ざされたままであるのは良く解っていた。
少しでも戦力を作っておくべきだった。
最強と謳われた男の子供だからこそ戦力となれる可能性があった。
しかし、平和となった世界でどうやら最強と謳われた男は子供に戦う術を教えていなかった。平和ボケした息子は自らを守る術すら知らず泣きながら荒野に放り出されたのだ。嘗て『大魔王』と呼ばれた男の手によって。
半年、逃げ出さないか監視をしながら感じたのはどんなに平和ボケしていても流石父親の血を引いているだけあって、学習能力と潜在能力は特に優れていた点である。自分で食料の調達も出来なかった子供は少しはましに育った。
元々父親のどうしようもなく甘い性格を強く引き継いだのか、戦いには向いていないというのが第一印象であったが自分の目すらも疑った感情の爆発によって引き出された能力は巧くコントロール出来さえすれば自分すらも追い越すものであると直感的に感じ、だからからこそ育ててみようと思った。
憎んで止まない男の子供を。
現在はある意味共通の敵の出現で休戦中であるが、嘗ては相容れない者として敵対していたのだ…孫悟空と。
父親の敵ならいずれ息子であるこの孫悟飯との対立もありえるだろう。鍛えながらそれの現実が心の片隅でちらりと姿を見せていた。
―─こんな弱いガキいつでも殺せる。
そう言い聞かせ自らの技の全てを叩き込んでいた。どんなに潜在能力が高くてもこの子供は孫悟空ではない。最強と謳われた男の息子であっても本人ではない。いずれ訪れる異星人の敵を倒した後に殺せば良い。
自分側で身体を丸めて眠る子供は静かな寝息を立てていた。時間が少ない中で全てを教え込まなければならないので訓練がハードになるのは必然であった。疲れてぐっすりと眠っているようだった。それとも半年のサバイバル生活の中で、ぐっすり眠る機会などそう無かったのだろうか。少なくとも今は2人でいる為に寝ている時の警戒は幾分気を使う必然性が減っているのは事実だ。
―─クソガキが…。
半年で何とか泣き癖だけはマシになったが、元々平和だったこの世界で育ってしまった為か闘争心は非常に低い。
孫悟空はサイヤ人だと聞いたが、半分だけ血を引いたこの子供はサイヤ人が元々強く持っている闘争心は地球人の血と環境によって薄められてしまった。それは戦闘に置いて致命的な弱点となりうる。そして、どうしようもない臆病な性格。
―─孫の奴何でもう少しましな育て方出来なかったんだ。クソッタレが。
悟空がもう少しまともな育て方をしていればこんなに手がかかることも無かっただろう。技術を叩き込むだけで済んだかもしれない。もうこの世には居ない男を恨みながら眉間に皺を寄せた。
「ピッコロさん…」
突然名前を呼ばれ驚いた男…ピッコロは寝ていた悟飯の方に視線を向けた。単なる寝言だという事に気付き再びピッコロは視線を遠くに向けた。悟飯から自分に向けられる怯えた視線が何時しか消えているのには気が付いていた。普通なら父親を殺し、自分を過酷な環境へ連れ出した者に対して怯えであったり、憎しみの感情が向くのは当然だと考えられるが、思った以上に父親の甘い性格を受け継いだのかこの悟飯は自分に対してそう悪い感情を抱いていない様であったのが不可思議であった。理解を超えた人間の思考と感情。子供ゆえの純粋さか。
視線を悟飯に向けるとその子供は閉じられた瞳から僅かに涙を零していた。あれだけ親にべったりだった子供には現状は地獄にも近いかもしれない。
ピッコロは悟飯の方へ手を伸ばす…がその動きは途中でぴたりと止められる。
「…お父さん…」
躊躇った手はゆっくと父親と同じ黒髪のかかった額に伸ばされそっとその額を撫でる。
僅かに悟飯の表情が緩み笑ったのを見てピッコロは我に返りその手を引っ込めた。
―─クソッタレ。何時まで父親に頼るつもりだ。
引っ込めた手を握り締め吐き捨てるように心の中で呟いた。
どうしようもない臆病者で、襲来したサイヤ人の前で役に立たなかった。鍛え込んだ自分が情けなくなるほどの結果だった。
「ピッコロさん!!逃げて!!!」
逃げ出したいのを必死に堪え、もうじき現れるであろう父親を信じて悟飯はそう叫んだ。ピッコロが死ねば神また死ぬと、だから逃げてと。
悟空が現れるまでたかが3分そこそこであるが、悟飯一人で耐え切るのは絶望的だった。クリリンも先刻の攻撃で身体が動かない状態であったし、ピッコロ自身も既に限界を越えていた。
どうしてそこで悟飯を庇いに行ったかは自分自身理解出来なかった。
ただ漠然と感じたのは、神が嘗て地球に来た時に人間の邪悪さに影響を受けて自分…否、ピッコロ大魔王を生み出した様に、悪意の塊から生み出された自分自身に何かが生まれたのかもしれないという事。
『僕、大きくなっら偉い学者さんになるんだ』
―─学者にでも何でもなりやがれ。だから…生き延びろ。死ぬな。お前は俺の最初で最後の弟子だ。
>>あとがき
初っ端SSがピッコロさんという辺り、愛ですね、愛。DVDでピッコロと悟飯の師弟愛を再認識し、どうしても書いてみたかったんですよね。っていうか、アニメ版でピッコロさんの回想シーンで悟飯の額を撫でるシーンがあったんですよ!!!一瞬躊躇って手を止めてしまう辺りが萌えですよ!!!あれで白飯3倍はいけますよ!!だって、ピッコロさんが死ぬのは覚悟してましたが、あのシーンでオオアザ先生と悲鳴を上げましたよ!!本気で。素直になれよピッコロさん★と思わず微笑を浮かべるシーンが山の様にありましたよ。
悟飯は昔は余り好きじゃなかったんですが、今見るとめんこいですね。常にピッコロさん!!の辺りが素敵★映画版では絶対に悟飯のSOSをキャッチして助けに来てくれるしね。滅茶苦茶過保護ですねぇ、ピッコロさん★
ドラゴンボールは暫く強化したいですねぇ。イラストとか描いて。
20030324