*未来回廊*
良太郎と憑依イマジン達の問題も片付き、デンライナーの中の空気は以前と同じ騒がしく、それでいて暖かいモノに戻った。良太郎はイマジン達を気遣い、イマジン達は良太郎を気遣ってのすれ違いは『今どうするか。今何を守りたいのか』という形で決着が付く。
そんな中ハナもまた迷っていたのだ。憎むべきイマジンが生まれた未来が消えるのは喜ばしい事であった筈。しかしながらいざ、カイからその話を改めて聞くと迷って、悩んで結局愛理の店へ足を運んだ。
―─コハナちゃんはもうその人の事好きなんじゃないかしら。
そういわれた時強く否定出来なかったのだ。あの騒がしい連中がいなくなる…以前にモモタロス以外のイマジンが消えたとき自分はどう感じたのか、それを思い出して心が痛んだ。何故あの時寂しいと思ったのだろうか。その答えはいまだに出ていなかったが、愛理の言葉は切欠になった。
「ナオミちゃん。キッチン借りて良い?」
「どうしたんですかハナさん。あ、何か沢山買ってきてますねー」
ハナが持ち込んだ荷物を見てナオミは表情を綻ばせた。
「…ちょっと…料理作りたいの」
「あ、解りましたー。皆の仲直りパーティーですね!それともオーナーの残念会ですか?」
「残念会?」
「チャーハン勝負延期になっちゃったらしいでよ」
小首をかしげ、ハナの返事を期待するナオミから視線を逸らしハナは小声で、残念会…と精一杯取り繕った。本当は前者であったのだが、急に恥ずかしくなったのだ。
「私はどっちでもいいですけどね!じゃぁお手伝いしします!」
「それじゃぁ、飲み物とかの準備お願いできる?」
買ってきた食材は少し加工すれば出来上がるものばかりだったのだ。自慢ではないが余り此処で料理する機会はなく、料理の腕の自信があるわけでもない。ナオミははーいと返事すると、怪しげなカラーリングのドリンクを次々並べ景気良く混ぜてゆく。それぞれのイメージカラーに拘ったナオミオリジナルドリンクがじきに出来上がるだろう。
ハナは何処からか調達した踏み台にのぼりコンロに火をつけた。
***
パーティーの食材は初めこそハナ手作りと言う事で皆引き気味であったが、結局全て皆の腹に収まり、後片付けは食器を洗うだけの楽なものとなった。皆食後のコーヒーを飲み談笑する中ハナは少しずつ食器を洗い場に運び、踏み台に登って食器を洗い出した。皆の話に混じるのも良かったが、まだ少し考えていたい事があったのだ。
「手伝ったろか?コハナ」
ぼんやりと食器を洗ってると急に声をかけられハナが驚いて振り向くと、そこにはキンタロスが残ってた食器を持って立っていた。
「別にいいわよ。向こうで皆と話してればいいじゃない」
「コハナが働いてるのに休む訳にはいかんやろ。それに背丈届かんで洗いにくそうやしな」
そういったキンタロスの視線の先には踏み台があった。急遽調達したので小ぶりな台しかなかったのだ。
「キンタロスが洗ったらお皿割れちゃうわよ」
「それくらいは出来る…と思う」
キンタロスは流しに食器を置くと自信なさげにそう返答した。力加減の下手なキンタロスはデンライナーの備品であろうが、ミルクディッパーの備品であろうが、公共物だろうが結構な勢いで破壊する。本人も気にしてるか、壊した後は大慌てで直そうとしたりもするが、総じて破壊度数が上がるだけで終わっている。
「…思うじゃ困るわよ。でも…有難う」
ハナが少し俯いてそう言うとキンタロスは少し首を傾げて怪訝そうな顔をする。
「別に手伝うのは当たり前やないか。態々コハナが俺等の為に料理まで作ってくれたんやから、片付けぐらいは…」
「…無理して食べなくても良かったのよ…」
「?なにゆうとるんや?」
「だって、皆最初嫌がってたし。キンタロスが美味しいって言ってくれたから皆食べてくれたけど…人間とイマジンじゃ味覚が違うみたいだし…その…アンタ達にとってはあまり美味しくなかったかもしれなし…でも全部食べてくれたし…」
話してるうちに何を言っているのか解らなくなったハナは途方に暮れたようにキンタロスを見上げた。イマジンと人間が弱冠味覚が違うのはナオミのコーヒーを美味しいといって飲む辺りから何となく解っていた。でもハナにはイマジンの喜ぶ味などわからなかったので普通の味付けをした。多分良太郎やオーナーは美味しいと感じるかも知れないが、イマジン達はどうなのか本当の所は解らないのだ。
イマジン達がハナの手料理にドン引きだった中一番最初に食べてくれたのはキンタロスだったのだ。嘘でも『美味しい』と言ってくれたのは嬉しいし、全部残さず食べてくれたのも有難い。でも申し訳ない気分になったのだ。自己満足に過ぎない行動に。本当はもっと元通りに戻った事を喜びたいのにどうしたらいいのか解らない。
するとキンタロスは屈んでコハナに視線を合わせ、ハナの頭を撫でた。
「…子ども扱いしないでよ」
「子供やないか今は。だからええねん」
キンタロスの手の感触を感じで不意に泣きたくなったハナはぐっと唇を噛んだ。あんなに嫌いだったのに、何で今はこんなに今のデンライナーがいいと思うのだろうか。
「良い思い出ができた。有難な」
その言葉にハナは弾けたように声を上げた。
「そんな言い方しないでよ!アンタ達消えちゃうのよ!思い出なんか作っても全部…アンタ達と消えちゃうのよ!…どうして…どうしたら良いのよ…イマジン嫌いなのにアンタ達が消えるのは…私は…」
驚いて頭から手を離したキンタロスは黙ってハナの言葉を聞く。イマジンが嫌いだと言う事は出会った時から知っていたし、ずっとハナはそう言い続けて来た。でも今は少し自分達のことを好いてくれていると感じたのだ。
「俺は…良太郎とハナに助けられた。だからお前等の未来を守る事が出来るのは…嬉しいんや。まだ、未来がどうなるか解らんけど…今はやっぱりお前等の未来を守りたいと思う。デンライナーに居たいと思う…あー、あんまり巧く言えんけどな…」
そこまで言ったキンタロスはハナを抱きかかえ持ち上げる。
「ちょっと!!放しなさいよ!」
流石に驚いたハナはパニックを起こした様に暴れるが、キンタロスの大きな体はビクともせず、無駄に手足が空を切るだけであった。
「涙はコレで拭いとけ」
「馬鹿!馬鹿キンタロス!」
懐紙を渡されハナはボロボロと泣き出す。仕舞には鼻まででる始末である。
「…ハナや良太郎は特異点やから俺等の事覚えててくれるやろ?それで…ええねん」
そう言ったキンタロスの顔を懐紙を握った拳で盛大に殴るとハナは怒った様に声を荒げる。否、本当に怒っていたのかもしれない。
「馬鹿!残された方の身にもなりなさいよ!」
ポカポカと殴り続けてハナは更に大粒の涙を零す。自分の時間が消えてしまった事も悲しいが、彼等が消えてしまう事も悲しいのだ。
「私は…私は…」
最後にはぎゅっとキンタロスにしがみつくハナの背中を子供をあやすように出来るだけ軽くポンポンと叩きながらキンタロスは困ったような声で呟く。
「かんにんな。でも、俺はやっぱり…戦いたいねん」
「好きにしなさいよ…もう知らない。アンタ達なんか消えちゃえば良いのよ…」
グズグズ鼻を啜りながらハナは諦めたような、それでいて怒ったような声で返事をする。
「覚えててな」
「厭よ。忘れるわ」
「なら忘れられんように一緒に楽しい思い出沢山作ったる」
「馬鹿よアンタ」
「モモほどやないけどな」
ハナはキンタロスにしがみつく手に少しだけ力を込める。
―─馬鹿だけど嫌いじゃないわよ。
声にならない言葉を心で呟いた。
「ほら、鼻もかみ。チーンやで」
ハナを漸く降ろしたキンタロスがすぐさま鼻に懐紙を当ててそういったのでハナは盛大に拳で返答した。
あとがき
やっちまった感一杯、夢一杯の仮面ライダー電王SS如何だったでしょうか。
今まで以上にやっちまったな私★な清々しい気分です。キンタロスメインの話を書こうと思ってて所でタイムリーにTV放送あったのでついうっかり夢飛翔してしまいましたね。キンvコハナいいと思うんですがねー。ダメでしょうかねー。でっかいハナならモモかなーって感じなんですが、コハナを子ども扱いして甘やかして怒られるキンタロスが好きです(そんなことTVではしてません・笑)
とりあえず気が付けば電王小説も3本目ですか。順番的には次はウラですかね。いつUPするか解りませんが、まぁ、放送終わるまでには…(苦笑)
それではまたお目にかかれれば、そりゃぁもう奇跡かも(笑)
20071210