*正当報酬*

 『特異点』と呼ばれる野上良太郎に取り付いた異形…イマジン達は基本的に時を駆ける電車『デンライナー』の食堂車に通常の居場所を設定している。例外的にリュウタロスと呼ばれるイマジンだけは通常も良太郎の中に存在し、食堂車にその姿を現す事は少ないのだが、他のイマジンと反りが合わない事を考えるとその方が平和的なのかもしれない。しかしながら他のイマジンもリュウタロス程ではないにしろ決して仲が良いとはいえない。良太郎の体の取り合い、及び食堂車での揉め事は日常茶飯時であり、大概ハナの鉄拳制裁かオーナーのレッドカードを持ってしての仲裁で決着がつくというにぎやかな状態である。
 そんなイマジン達の中で一番古株であるのがモモタロスと呼ばれるイマジンであった。良太郎が特異点である事を知らずに憑き、結局電王としてイマジンと戦う良太郎を助け続けて今に至る。気も弱いし喧嘩も弱い良太郎とは正反対の天然俺様気質・喧嘩好きの性格であるのだが、巧く得て不得手を切り替えて付き合っているようであった。
 そのモモタロスが神妙な顔をして食堂車の窓から見える時の砂を眺めていた。いつもなら他のイマジンと喧嘩をしたり、お気に入りのコーヒーを飲んだりして過ごしているのだが、その日はずっとそんな様子であったのだ。
 流石に気持ち悪くなったのかウラタロスが先輩?と声をかけてみる。
「なんだよ亀」
「いやぁ、先輩が神妙な顔して外眺めているから…何か面白いもの見えますか?」
 いつものからかう様な嫌味な口調ではなく、相手の出方を探っているのか慎重に言葉を選んでウラタロスが返答をした。真性の『嘘つき・詐欺師』の冠を掲げるウラタロスに引き出せない情報はないと周りは信じているし本人もそれを自覚している。だからこそこのモモタロスから情報を引き出すのを暇つぶしの材料に選んだのだろう。
 モモタロスの視線の先には時の砂が見えるばかりであった。面白いものなどないと知っていてそんな返答をしたのだろう。
「…亀。お前良太郎に憑いた時金ってどうしてんだ?」
「お金ですか?女の子に貢いで貰ってますよ勿論」
 勿論という辺りは大問題であるが、基本的にスーツルックを好むウラタロスは夜な夜な遊びに行く時は着替えて出掛けて、女の子に服を買ってもらったりしている。良太郎は服が増えてる事に時折仰天したりするが、自分の金銭が減っていない事から、余りたかっちゃ駄目だよ、とウラタロスにやんわりと言う程度である。結局ウラタロスが相手の好意だとか、プレゼントだとか巧く言って良太郎を丸め込む事で決着がいつもついてしまっているので折り合いはついていると言えばついているのかもしれない。
「それに良太郎余りお金持ってませんしね」
 ウラタロスによって付け加えられた言葉は真実であり、年中カツアゲにあう良太郎は余りお金を持ってない。無論イマジンが憑く様になってからはカツアゲの回数も格段に減っているのだろうが、あの天性の運のなさはまともなアルバイトをするにも支障をきたすのか、結局姉の喫茶店を細々と手伝っている程度である。身内からのバイト料などそう高額である筈がない。
「だよな。アイツ金持ってねぇよな」
「それが何か関係してるんですか先輩」
「…あー、大した事じゃねぇよ」
 そう言うとモモタロスは頭をかきながら食堂車を後にし、ウラタロスと置物のように眠るキンタロスだけが取り残された。
「釣り失敗っと」
 肩をすくめたウラタロスは食堂車の添乗員であるナオミにコーヒーを注文した。

 ハナは基本的にデンライナーでは同じ服を着ているのだが、良太郎の時間軸に出る時は色々と着替えているようだった。無論時代に合ったファッションを着ている所を見るとどこかで購入しているとしか思えない。
 しかしながら金銭のやり取りは基本的にデンライナーの中ではない。コーヒー代も払った事はないし、そもそも色々な時代の人間が乗り込むこのデンライナーに共通の通貨と思われるものもモモタロスは確認していないのである。
「どうすりゃ良いんだ?」
「何がですか?」
 突然背後から声をかけられたモモタロスは仰け反ると声の主を確認する。それはデンライナーの神出鬼没のオーナーであった。
「…あーいや、なんつーか、ハナクソ女は金を何処で調達してるのかと思っただけなんだがよ」
「彼女は時の運行を守る任務及び電王のサポートとして私が雇っていますから、必要経費は渡しています。あくまで必要経費だけですが」
 つまり基本的に奉仕活動であり、服を買うとか、喫茶店でコーヒーを飲むとかそんな場合のみの小銭が渡されていると言う事であるとモモタロスは理解した。
「余り高額な金銭を持ち込むのは時の運行に良い影響を与えませんから。最低限しか渡していませんよ」
 時間の流れはある程度は自己修復する。それは良太郎が過去に飛んでイマジンと戦ってほんの少し変わった時間を見れば理解できる。イマジンは時の自己修復をも超える破壊活動を過去で行うのでそれを電王が阻止するというのが今良太郎とハナが行っている事である。
「…どの程度は…その問題ないんだ?」
「お金が必要なのですか?」
「いや、必要と言うかなんと言うか…」
 ゴニョゴニョと言うモモタロスにオーナーは眉を僅かに顰める。どちらかと言えば物事をハッキリ言う彼にしては非常に歯切れが悪い。ただ、良からぬ事を考えているのなら時の運行に関してシビアに物事を切り捨てる自分に相談する筈がないと判断したオーナーは空いている席にモモタロスを座るように促すと自分もゆっくりと椅子に座る。
「お話を聞きましょう。時の運行の影響か出るか否かの判断はそれからです」

「先輩も変な事始めたなー」
 モモタロス不在の食堂車でコーヒーを飲みながらウラタロスは暢気に声を上げた。珍しく起きているキンタロスは適当な相槌を打って自らのカップのコーヒーを飲み干すと、まぁ、悪い事ではないな、と頷く。
「だって、デンライナーの掃除なんてきりがないよ?いくらお金が欲しいからって効率悪いと僕は思うけどな」
 呆れたようにウラタロスは言うが、キンタロスは恐らく自分もモモタロスと同じ立場なら同じような事をしたかもしれないと思う。結局自分も彼もウラタロスの様に口先で巧く物事を運べない不器用な種類に分類されるのだ。
「まぁまぁ。たまには静かで良いじゃないですか!お代わりどうぞ!」
 ナオミの持ってきたコーヒーはイマジンのみに大好評のどぎついホイップで彩られたものであった。それぞれのイメージカラーを乗せる事が彼女のこだわりらしく、黄色いコーヒーはキンタロスに、青のコーヒーはウラタロスに渡される。
 そんな中、弱々しい良太郎の声が食堂車に響く。デンライナーにいても基本的には本人の意思でシャットアウトされない限り良太郎とイマジン達は意識下で繋がっており、会話も可能であるのだ。
―─モモタロス、行くよ。
 その声を聞いた別車両のモモタロスは慌てて持っていた雑巾を振りながら今は駄目だ!!と大声で返事をする。
―─え!?なんで?
「今取り込み中なんだよ!!亀か熊を呼べ!!」
―─そんなぁ。
 今にも消えそうな良太郎の声を聞いてウラタロスはやれやれと言ったように立ち上がる。恐らく良太郎の様子だとイマジンに遭遇したのであろう。電王は強いが、良太郎だけの素体ではまともに戦えない。イマジン達が良太郎に憑いて電王の特殊フォームを起動させて漸くまともにやりあえるのだ。
「先輩貸し一つですよ。熊は冬眠中だし僕が行くよ良太郎」
―─有難うウラタロス。
 すっとウラタロスの姿が食堂車から消え、聞こえるのはキンタロスの鼾だけであった。

 ウラタロスが帰還すると共に勢い良く食堂車に入ってきたのはハナであった。その後を申し訳なさそうに良太郎がついて入ってくる。
「馬鹿モモは何処よ!!」
 ハナの怒鳴り声に流石のキンタロスも眼を覚まし漸く状況把握をする。良太郎は前に見た時より怪我が増えている所を見るとイマジンに素体の時にやられたのであろう。スマートな戦い方を好むウラタロスは基本的に中距離戦闘を行う為に敵の攻撃を受ける事は少ないので良太郎の負担は一番少ない様である。それを言えば遠距離戦闘のリュウタロスも攻撃を受けない事は受けないのであるが、あのダンスのようなステップを踏みながらの攻撃・回避は良太郎の普段使わない筋肉に多大な負担をかけるらしく、打ち身はなくても翌日には体中の筋肉が悲鳴を上げてしまう。近距離のキンタロス、万能型のモモタロスに関しては彼ら自身の好戦的なスタイルの為きっと良太郎の体の負担は多大なものであろう。現に何度かぶっ倒れた事もある。
「先輩は取り込み中ですよハナさん。ま、とりあえず座ったら?」
 怒り心頭のハナは勢い良く椅子に座ると、所なさげに佇む良太郎に手招きを傍に座らせると怪我の手当てをする。
「全くアイツが直ぐ出てきたら良太郎は怪我しなくてすんだのに」
「でもウラタロスは来てくれたし、モモタロスだってこれない時だって…」
「大体アイツはイマジン倒すしか能がないのよ!!肝心な時に出れないなんで役に立たないわ」
 良太郎がモモタロスを庇うような発言をしたが、ハナによって一蹴されてしまう。いつもだったらイマジンの匂いをかぎつけただけで呼びもしないのに飛び出してくるモモタロスが来れないと言っているのだからよっぽどの事情があるのだと良太郎は思ったのだが、ハナはそんな理由など全く考慮に入れずぶつぶつとモモタロスへの文句を垂れ続ける。
「まぁまぁ。僕がちゃっちゃとやっつけたしめでたしめでたしでしょ」
 軽い口調で言うウラタロスを睨みつけるとハナは良太郎の手当てを終了し、辺りを見回す。帰ったら一発ぶん殴ってやろうとおもったモモタロスの姿が見えないので、モモタロス風にいうなれば『欲求不満クライマックス』と言った所であろう。
「先輩は暫く帰ってきませんよ」
「…外に出てるの?」
 ハナは怪訝そうな顔をしてウラタロスを見る。無論良太郎に憑いているイマジン達は良太郎と正式な『契約』を交わしていないので肉体を持たず良太郎の時間軸では精神体のみでしか存在できない。外に出ても大した事は出来なので問題はないのだが、食堂車にいないとなるとそれ以外考えられなかったのだ。
「いえ、デンライナーにいますよ。忙しいみたいですけどね。でもオーナーの許可貰ってるし問題はありませんよ」
「オーナーが?何してるのよアイツ!」
 ハナの質問に関してウラタロスは返答を無言で拒否し、ナオミにコーヒーのお代わりを催促する。
「ハナさん落ち着いて…。あ、えーっとオーナーの許可があって何かしてるならいいんじゃないですか?その、モモタロスそんなに悪いイマジンじゃないし…」
「良太郎って本当に甘いわよね」
 『そんなに悪いイマジンじゃない』という魔法の言葉で結局4体ものイマジンに憑かれているのだ。体も悲鳴を上げているのにそれに関してさほど文句を言うわけでもなく、最近はイマジンの方が良太郎の体に気を使う位である。
「モモタロスは…イマジン倒すのが楽しいんだよ。でもその楽しみ以上に大事な事があるなら、モモタロスが好きにすればいいんじゃないかな?ウラタロスもキンタロスもリュウタロスもいるし」
 馬鹿馬鹿しいほどお人よしの性格であった。デンライナー以外で中々暴れられる機会がないモモタロスがストレスを溜めない様に基本的に良太郎はモモタロスを優先的に呼ぶし、余りにもイライラが全開の時は平常時に自らすすんでモモタロスに体を貸す事もあったりする。基本的にイマジンを嫌うハナには考えられない事だ。
「…まぁ、良太郎が良いなら仕方ないけど…本当に役に立たないわね馬鹿モモは!」
 そう言うとハナは立ち上がり食堂車を出ようとする。
「ハナさん何処行くの?」
「今日倒したイマジンの報告よ。良太郎はゆっくりしてて」
 出来るだけ優しい声でハナは良太郎に言うと、踵を返して食堂車を後にした。

 丁度ハナがオーナーを見つけた時、モモタロスがオーナーからなにやら茶封筒を渡されている所だった。ハナを視界に捕らえたモモタロスはその封筒をひったくる様にオーナーの手から取り上げると逃げ出すようにその場を後にした。
「ちょっと待ちなさい馬鹿モモ!!」
「うるせぇ!俺は忙しいんだハナクソ女!」
「今日も時の運行を守れたようですね」
 2人の会話を遮るようにオーナーがハナに声をかけたのでハナは諦めたようにオーナーに向き合い報告をした。無論報告などせずともオーナーは全てを知っているので形式だけのものである。
「あの…馬鹿モモ何してたんですか?何渡したんですか?」
「バイト代ですよ。デンライナー清掃の」
「え!?お金を渡したんですか!?」
 その言葉にハナは思わず言葉を失う。イマジンにお金を渡すなどとありえない事だったのだ。しかも相手はモモタロスである。ろくな事に使わないとハナは判断したのだ。
「…良いんですか?その時の運行に…」
「大丈夫です。彼自身が使うわけではありません」
 オーナーはそう言うとモモタロスとのやり取りをハナに話し始めた。

 中々話を切り出しにくそうにしているモモタロスにやんわりオーナーは金額を聞く事から始めた。
「その…9800円位なんだが…」
「その金額の根拠と使い道をお願いします」
 モモタロスは良太郎に憑いて少しした頃に良太郎の財布から勝手にお金を抜いて服やらアクセサリーを買い込んだのだ。無論その後正当な労働でお金を返そうとも考えたのだが、引き受けた仕事が泥棒の用心棒であった為に逆に良太郎に怒られた上に喧嘩までしてしまった。
 使い込んでしまったお金の事は良太郎はモモタロスの謝罪の後何も言わずにいてくれたのだが、それはモモタロスには少々気がかりであった。本当に良太郎はカツアゲやらなんやらで所持金が常に少ないのだ。バイト代も少ない。
「良太郎に借りがあるのは癪だし何とか返してぇんだけどよ…アイツの体借りて稼いでもしかたねぇし…なんつーか、此処で稼げねェかなって…」
 段々声が小さくなるモモタロスを見てオーナーはデンライナーの清掃任務を任せる事にした。金額が思った以上に小額であった事と、今後モモタロスや良太郎自身が時の運行を守る上で、このようにきっちりとけじめをつけて折り合いを付けてゆく事もよい事だと思ったのだ。

「…馬っ鹿じゃないのアイツ」
 ハナは不快そうに眉を顰めた。己の時間軸を消し去ってしまったイマジンが嫌いなハナとして『良いイマジン』等ありえないのだ。なのに今自分が見ている…良太郎に憑いているイマジンはどうだ。契約者を守る為に自分が消える事を選んだキンタロス。過去を変えて未来を変える事より今を満喫したいウラタロス。良太郎の姉を慕う余り本来の目的である良太郎抹殺をあっさり断念したリュウタロス。馬鹿の癖に気を使って働いてまで良太郎にお金を返そうとするモモタロス。馬鹿ばかりだ。イマジンへの憎しみでここにいる自分の何かが崩れそうで非常に不快であった。
 そんなハナを見てオーナーは何も言わずにその車両を後にした。
 イマジンによって己の時間軸を失った『特異点』である彼女は何を思うのか。

「あ、モモタロスお帰り」
 暢気な良太郎の声にモモタロスは少しソワソワした様子で傍に寄ってきた。
「よう。今日はすまなかったな良太郎」
「いいんだ。忙しかったんでよね」
「あー、なんだ。お前に渡すものがある」
「え?」
 きょとんとした良太郎の目の前にモモタロスはオーナーから渡された封も切っていない茶封筒を渡すと、落ち着かない様子で食堂車の椅子に腰かけた。受け取った茶封筒を首を傾げて良太郎は開封するとそこからは新札の1万円が入っていた。
「ええ?なにこれ!どうしたのモモタロス!?」
「あーなんだ。この前お前の財布から借りた分だ。釣りは利子と言う事でとっておけ」
「利子ってたった200円じゃないですか先輩。まぁ、コレは先輩が地味にデンライナーの掃除をせっせとして手に入れた報酬だから貰っておけば?」
「うるせぇよ亀!」
 そのやり取りを見ながら良太郎は顔を綻ばせる。大好きなイマジン狩りを投げ出して一生懸命モモタロスが働いてお金を返してくれたのだ。金額云々より気持ちが本当に嬉しかった。
「有難うモモタロス。大事に使うよ」
「カツアゲされんなよ」
 恥ずかしいのかそっぽを向きながら言うモモタロスに良太郎はうん、と元気良く返事をすると、食堂車から見える時の砂に視線を移した。
 時の流れと共に流れる時の砂。
 延々と続くその砂漠を走るデンライナー。
―─きっと皆と電王として巧くやっていける。
 そう心で呟いた良太郎は封筒を大事そうにポケットへしまった。


あとがき

 やっちまった感一杯、夢一杯の仮面ライダー電王SS如何だったでしょうか。
 特撮好きだが二次創作として扱うのはほぼ初めてなのでドキドキです。つーか、此処まで萌えたのはモモタロスのお陰な訳で、もう萌えすぎてどの方向に発散すればいいか困ってます。今回は眞鉄っちも嵌ってくれたので話色々出来て楽しいです。そんな話の中ふと思いついた小説なんですが、リュウタロス出せなかったよorz
 ウラタロスは動かしやすいキャラクターなので良いんですが、キンタロスとリュウタロスな中々難しいですね。うん。機会があれば出したいと思います(笑)
 モモタロスに夢見すぎて何だか変な方向な話になってしまいましたが楽しんで頂けたでしょうか。3話ぐらいでモモが財布の残金使い切ってしまった話の続きみたいなものなんですが…。お金に関してはオフシャルの設定が探した限りではないので捏造ですがorz
 又ちょろちょろ話思いついたら書きたいです。需要は無いかもしれませんが、まぁ、需要無くても無駄に生産するのが私のスタンスなのでご容赦下さい。

それでは又、お目にかかれればそりゃぁもう奇跡かも(笑)

20070509

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