*真琴小隊*

 その日蓮沼時雨はTT作戦と呼ばれる作戦へ参加していた。ドランジ・タキガワ救出作戦への参戦を決め、今回は整備班として夜明けの船へ乗り込んだのだ。元々参戦自体には悩んだ蓮沼だったが、友人がタキガワを助ける為に動いたのを見てその重い腰を上げた。嘗て約束したのだ。その人が困った時は助けると。その人が大好きなタキガワに何かがあったら自分も微力ながら何かすると。余りにも漠然としたその約束を果たす日がこんなに早く来るとは思ってもいなかったが、約束を破る無様な人間では在りたくなかった。
 蓮沼は整備班への参加願いを提出すと、小隊長からの連絡を待ち、作戦当日迄他のメンバーとの顔合わせも済ませた。詳しくは知らないが某騎士団のメンバーが殆どだそうだ。自分だけ素人かと少し落胆したが、小隊長は関係ないと少しだけ笑って言ったので救われた。
 小隊長は火岡真琴。整備班は便宜上『真琴小隊』と呼ばれる所以は此処にあった。外見こそ絵に描いたようなおっさんであるが、その指導により素人同然の蓮沼が作戦当日迄に何とか整備班として働ける様になったのだから素晴らしい整備技術の持ち主であるという事は言うまでもない。的確な作戦を練り、当日迄に整備班を1つに纏めた辺りは班長としての資質も備えている証拠であろう。
 そんな中、当日のギリギリになって嘗てより検討されていた整備班の増員が決定した。増員メンバーは2名。1名は兼ねてより真琴小隊長が声をかけていた者で、もう一人はその人の連れだという。

 作戦前の準備作業の中、ふとバンダナがトレードマークの如月篤子が顔を上げたのを見て蓮沼はその視線の先に注意を向けた。流石というべきか如月の通称『おっさんレーダー』が的確な反応を示した様で、真琴小隊長が丁度部屋に入ってきた所であった。如月が表情を輝かせて小隊長に向かい敬礼をしたのを皮切りに、他の隊員も習って作業の手を止め敬礼をする。
「集合」
 真琴小隊長の声を聞き、隊員は素早く小隊長の前に整列し一番最初に並んだ天野忠人が点呼を取る。現状副隊長は藤宮もえぎがその任を請け負っているが、彼女に負担が掛かり過ぎないように分担できる作業は分担するのが暗黙の了解であり、点呼など誰でも問題なく出来る作業は1番最初に気が付いた者がする事になっている。因みに茶坊主も作ろうかと言う話が以前出たのだが、真琴小隊長に『そんな事してる暇はねェ』と一蹴されてしまった。その所為もあり、茶坊主も気が付いた隊員がする事になっている。手の空いている人間が率先して動くのがこの小隊の数少ないルールである。
 点呼が終わり全員揃っているのが確認されると真琴小隊長は後ろからついて来た2名を前に出るように促す。1名はおさげの女性で、もう1名は狸…この世界の言葉でいうなれば『狸知類』であった。おさげの女性は良く通るアルトの声で卯木ひのえと名乗り深々と頭を下げて挨拶をした。そして短い足で1歩…人間でいうなれば半歩程度前に出た狸知類は聖二郎と名乗り可愛らしい耳を少しだけぴくっと動かせ自己紹介をした。それを聞きながら、女性隊員で副隊長であるもえぎは小声で隣の隊員に声をかける。
「この隊の癒し系は二郎さんに譲らないとね」
 その声を聞き、トレードマークである中途半端に整えられたもみ上げを撫でながら山前靖也はほんの少しだけ笑った。今まで癒し系はもえぎが担当していた事もあり、コレで彼女の負担も減るという笑いだったのかもしれない。蓮沼もそれを聞きながら右手をワキワキさせる。
 一応帽子をいつも深くかぶり比較的無口な設定を現状皆に公開している訳であるが、本人は生粋の関西人であるから突っ込みを入れたい衝動を抑えてることもあるし、本当は大の胸キュンアニマル大好きっ子だったりもする。無論もえぎには日々癒されているが、彼女に触れようモノならセクハラで訴えられた上に火星の海に沈められるであろう。しかし目の前にいるのはふわふわの狸知類である。腹は矢張りレッドカードか?いや…尻尾ぐらいならもしかしたらイエローカード程度で済むかもしれない…そんな事を考えながら目の前の胸キュンアニマルを眺める。二郎の尻尾がふわふわ揺れる様など誘惑全開である。しかしながらいきなり触るのは『あの女が挑発的な格好をしてたから悪いんだ!』という痴漢の言い訳と同レベルであると真剣に蓮沼は思考をめぐらす。多分口元が緩んでるだろうと我に返り帽子を深くかぶり直す。
「今回はRBと船、どっちを直すかわからねェ。両方の整備の準備しとけ。俺はこれから上との連携がメインになるから藤宮もえぎ、後適当に頼む」
 指名された副隊長のもえぎは姿勢を正すと敬礼する。

 作戦開始は真琴小隊長の声によって確認された。しかしながら実際はRBなりが動かない事には整備班の仕事はない。始めの方は短い休息、及び戦況を眺めるのが仕事である。
「総員準備しとけ」
 真琴小隊長はそういい残すと自分の末端を小隊長及び中隊長連絡回線に繋ぐ。こうなると小隊長の注意は隊員に余り向かなくなるので他の隊員は独自の末端を使い情報を拾ったり、他の隊員との話等に時間を裂く。無論準備も怠っている訳でもなく、号令が掛かればどんな状況にも対応できる準備はしっかりとしている。この辺の下準備は真琴小隊長からの指示が徹底している。BALLSが使えない状況で最後にものを言うのは本人の努力である。
「卯木さんお茶下さい」
 そう声を発したのは狸知類の二郎であった。それを皮切りに他の隊員も次々注文を繰り出す。食べれる時に食べ、寝れる時に寝るという整備班のお約束を忠実に守り今後の耐久戦に備えて食事をしていた松本裕也ももぐもぐと口を動かしながらお茶を催促する。資材の確保担当だった野口元俊は手を止めコーヒーを催促する辺り多種類の飲み物を調達する苦労を全く持って無視した発言であったが、卯木はおさげ髪を揺らしてせっせとお茶の準備をしだす。ほうじ茶・緑茶・レモンティーなど本当に好き勝手言い放題である。
 既に木々ヒロユキ等はお茶を勝手に拝借し、おいしそうに飲んでいたのでその空いている手に柊優はちょこんとチョコレートを乗せる。この辺は持ち寄りの非常食で賄われている訳であるが、それを受け取り木々は少しだけ笑って柊を見る。持ち前の菓子交換が出来る程度にはこの小隊はまとまっているのだろう。

 そんなのどかな時間も直ぐに過去り戦況は一転した。第二種警戒態勢になったのだ。アラートがなるのを確認するや否や総員持ち場に戻り、最終点検を行う。無論二種に切り替わったからといって直ぐに出番ではないがこの辺の準備活動を怠ると後が怖い誰もが知っているのだ。
「野口さん、そこのオイル取って下さい」
「ほい、オイル」
 如月の声に野口は側にあったオイルを投げる。それを受け取った如月は満面の笑みを浮かべて目の前の機械の最終調整をする。自分の愛用システムの点検をする山前や柊を尻目にほんの少し離れた所に立つ天野を見つけて蓮沼はそちらに視線を巡らせた。ああ、祈りだ。そう思った蓮沼は手を止めている天野を咎める事もなく自分の工具を取り出した。祈る時間などもう取れないだろう。寧ろ『祈る』という行為をこんな状態でも忘れずに行う天野に関心した。だからといって一緒に祈る気にならなかったのは自分が神様にすがる余裕も無いほど精神的に追い詰められているとい事だったのかも知れない。たまらない緊張感だと蓮沼は苦笑するとふと視界の端を通り過ぎたふわふわの毛玉を探した。
 小さな手で工具を持ち、とことこと卯木の後を追う姿を見て蓮沼は緊張した神経を僅かに緩めた。
「二郎君」
 小さな声で呼んでみると流石に耳が良いのか、ぴくっと耳を動かせ此方を向いた。呼ばれた理由が解らないのか、きょとんとした顔が余りにも可愛くて蓮沼は表情を緩めて手招きをしてみると、工具を持ったまま二郎は蓮沼の前に立つ。そして小首を傾げて蓮沼の言葉を待った。
「…死ぬ前にお前の尻尾一回でもええから触りたいんやけど」
 遺言にしては余りにも間抜けなお願いをしてみた。滑稽だだったがもしもこの尻尾に埋もれて死ぬなら本望かも知れないとその時本気で蓮沼は考えていたのだろう。どうせなら他の女性陣に『君の胸で死にたい』と行った方が何ぼかスマートである。それを受理されるかどうかは全く持って別問題であるが。
 二郎は蓮沼の何の前触れも無い提案に少し首を傾げたが、くるりと後ろを向いて軽く尻尾を振った。OKか!!OKなんか!?と蓮沼は心の中で大きくガッツポーズをすると、右手をそっと伸ばす。丁度良い触り心地に否応無く表情が緩む。ふわふわのもこもこである。いやぁ、第六世界にきてよかった…ほんま幸せやわ、とつぶやきながら蓮沼は無心に二郎の尻尾を撫でまわる。当の二郎は少しくすぐったいのかもぞもぞと体を揺らすのでそれがまた堪らない。
「癒されたか?蓮沼」
「あ、見てました?松本さん」
「あんまりなでくり回すとはげるぞ尻尾」
 松本が少し意地の悪い笑いを見せたので、驚いて二郎は蓮沼に預けていた尻尾を引っ張り抜くと慌てた様子で卯木に助けを求めに行った。その後ろ姿を眺めながら蓮沼は少し笑った。
「緊張なんぼか解けましたわ。如何せん初めてなんでね」
「まぁ、心配しなくても俺らが死ぬ時は全滅の時だわな」
 不穏な事を言いながら松本は少し笑った。そして愛用の末端を取り出しどこかにアクセスを始める。
「それは?」
「中央のサーバーが各所のアクセスでパンク状態だからな。柊程じゃないが俺もあちこちににつてがあるんでね。まぁ、情報収集」
 蓮沼の質問に答えると松本は各所の情報を収集し始める。本来末端の部隊に与えられる情報は若干タイムラグがあるのでリアルタイムで情報を得るには小隊長である真琴の情報を待つしかない。無論蓮沼も集めようと思えばあちこちにアクセスするのは可能であったが、自分の旧型の末端ではそれこそ末端の方が酷使の所為で先に逝く可能性があったので控えていたのだ。この辺の情報収集は松本と柊が得意とする仕事である。柊は各所の情報を拾いながら随時他の隊員に教えてくれるので非常に蓮沼としては有難い限りだ。

 作戦も漸く本格的に動き始めたので、小隊のメンバーは一箇所に集まり、己の中央からのデータと柊・松本コンビ、及び真琴小隊長からの情報をすり合わせ一喜一憂する。
 否応無く上がるテンションを抑える為に柊はチョコレートを配り、テンションが上がりすぎてぶっ倒れそうな如月は松本から受け取った鎮静剤を注入しながら戦況をうかがう。現状比較的司令官小太刀のスマートな指揮のお陰で死人も出ることなく比較的順調に作戦は進行しているように思えた。
 しかし状況は一変する。
「アエリアに核攻撃」
 短い真琴小隊長の言葉に総員青ざめる。
「あぁ!? 都市船消滅させるつもりか!?」
 舌打ちした野口は慌てて末端を操作し情報を収集するが、核攻撃が事実である事を裏付けるだけで終わった。何千何万の人が死んだと野口が告げると全員空を仰ぎ言葉を失った。ありえないと思ったのだ。
 司令官小太刀の次の動きを待ちつつ、嫌な緊張感に包まれた所で柊が給湯室からお茶を持ってきた。結局自分たちには整備しか出来ないのだから仕事が来るのを待つしかないというのが現状である。柊から震える手でお茶を受け取った木々は漸く落ち着いたのか、お茶は人類の生み出した文化の極みだと少し笑って言う。他の面々の漸く緊張から解かれたのか、今のうちにと手洗い等へ駆け込んだり、自分の分のお茶を確保するなど漸く時間が動き出した。
 もえぎはお茶請けにクッキーを取りだし、如月は何処から調達してきたのか団子を配る。山前はクッキーとお団子両方口に放り込むと末端に視線を落とした。機関室のが陽動作戦にかりだされたのは先程確認したが、結果待ちのこの状況は矢張り心臓に悪いなと苦笑する。
「帽子犬小隊出撃した」
 末端で情報を追っていた松本がいきなり立ち上がると声を上げた。漸く本格的な戦いになって来たのだ。そして自分たちの出番ももう直ぐだと暗に言っている。
 その声を聞いた隊員は全員空を仰ぎ届くはずの無い応援の声を上げた。機関室頑張れ、帽子犬小隊頑張れと。敬礼して見送ると、真琴小隊長に視線を向ける。機関室が陽動に出たとなるとこの船自体の修理の仕事に入るかもしれないと言葉を放つと、真琴小隊長はすぐさま部下に指示を飛ばす。BALLSの復活はこの際無視して己の腕で仕事をしろと命令を出すと、踵を返す。恐らく他の小隊長との打ち合わせに行くのであろう。
 残ったメンバーは大型資材の準備をしながら手が空いたら末端を使って情報を集めてみるが、中央は全く持って情報が更新されない状況である。
「カメラ動いてないみたいだ。無線でしか最新情報が入ってこない」
 野口は末端を操作しながら柊に視線を送る。その視線を受けた柊は困ったような顔をして首を振るだけだった。恐らく殆どの末端で無線情報しか入っていない状況らしい。無論、無線すらも拾えない蓮沼は他の人の拾った無線内容を聞くしか出来ない状況である。
「タイムアップ。RBのうにょ小隊と雨中小隊も出撃完了してますね」
 おさげ髪を揺らして声を上げたのは卯木であった。その声に整備班は声を上げた。RB部隊も大分外に出た勘定になる。そろそろ本当に出番が使いのかも知れない。
「帰ってきてくださいよ、必ず直しますから!」
 木々はそういうと自分の愛用の工具を握り締める。柊の追加情報でいよいよ司令部本体が動いたのを確認できたのだ。
「無事のご帰還を、お祈りしています」
 そう山前が言ったのを切欠に整備班は全員敬礼してRB部隊を見送った。

「是空さんと海法さんが殴り合い始めた」
 呆然とする柊の周りに人が集まってきたので、柊は無線の音量を大きくする。丁度1R32秒で海法ノックダウンする所だったので皆思わず足ずっこけしそうな勢いでひっくりかえる。前後が解らないから何があったのか理解できないが、取り合えず我らの指揮軍団は元気だということは十分わかった。
「ぜっくっう!ぜっくっう!」
 思わず声を上げたのは如月であった。その声に対抗するように木々が立て!立ってくれ海法さ――――ん!と負けじと声を上げた。既に目の前の敵より是空VS海法の行方の方が気になりだしてしまった。
 そんな様子を横目に松本は少し笑って無線の音量を上げた。
「何処や?」
「今出てる連中の無線」
 蓮沼の質問に短く答えるとその戦場真っ只中の仲間の声をうまく拾う。
「って言うか、士気高い…」
 その無線から聞こえる声を聞きながら木々は呆れたように言う。もにゃ――――!と矢鱈と叫びまくってる所を見ると、某騎士団のメンバーが多い部隊なのかもしれないと蓮沼は僅かに苦笑する。
『…この通信回線が他の小隊に聞かれていないことを祈ろう…』
 そう無線から聞こえてきたのを聞いて隊員はどっと笑いだす。もう松本のお陰で垂れ流し状態である。それが妙に可笑しかったのだ。
 そんな最中、別枠で無線を拾っていた柊が声を上げた。
「大蝦天号と合流に成功」
「来たな!!」
 天野は歓喜の声を上げるとそれに習って他のメンバーも喜びの声を上げた。
「ディモールトっっ!」
「やりましたね!!」
 その声を聞きながら真琴小隊長が、そろそろだと立ち上がったので、メンバーは表情を引き締め各自深呼吸などをしながら神経を仕事に向ける。真琴小隊長も深呼吸をしている所を見ると、流石に緊張している様子であった。
「…もう、こうなったら、何でもこいですよ」
 そういうともえぎは真琴小隊長のほうを見て微笑んだ。やれることをやるしかない。それだけだった。お茶の片付けをした柊は再度末端で無線の調整を行う。長い深呼吸を終えた如月はゆっくりと視線をめぐらせ指示を待つ。無論他の隊員も同じくいつでも動けるように準備は万端であった。

「投入指令。RB用要素を用意しろ」
 その声に短く返事をすると総員RB整備の準備に走る。此処からは時間との戦いである。
「青・海法・是空出撃」
 突如野口の上げた声に一瞬メンバーの手が止まった。そして一番最初に声を上げたのは青の厚志の乗る希望号を整備するのが夢である木々であった。
「青だ!青が出るぞ!」
 希望の戦士青の厚志はこの作戦に参加した皆の希望であった。無論それは整備班でも同じである。そして希望号は木々でなくても夢見る機体である。
「指がつるまで行きますよ!頼むよシステムちゃん!」
「指がつったって他の指で動かせ、死ぬ気で整備しろっ!」
 否応無くテンションの上がった山前の言葉に松本はすかさず言葉を返す。青の機体を整備したくて堪らない木々は奇声をにも似た声を上げながら準備の為に走りまくっていた。
「制空戦隊に最良の整備を行う」
 真琴小隊長の鋭い声に皆手を止め短く了解!と言うと颯爽と動き始める。こんなに長い時間待ち続けほんの一瞬の仕事だ。皆集中し無心で作業をし、終わった者から完了!と短く声を上げた。
「全員作業完了!」
 天野の声に総員思わずその場にへたり込む。
「人事は尽くした、後は天命を待て」
 出来ることはやったんだと松本はさらに付け足す。それを聞いて天野は祈るっきゃないですね、と笑って答えた。

 自分達の整備が戦況にどう反映したかは真琴小隊長の情報を待つしかない。そんな緊張の最中、漸く真琴小隊長は凝視していた末端から顔を上げ、不器用に微笑んだ。
「成功、だ」
「ひゃっほう!!!!」
 その言葉にメンバーは互いに抱き合い称え合った。如月や卯木は猛ダッシュで真琴小隊長に抱きつき、他のメンバーも此処まで引っ張ってくれた真琴小隊長に感謝の念を伝えた。しかし、真琴小隊長は少し表情を硬くし言葉を放った。
「で、悪いお知らせ」
 その言葉にメンバーは首を傾げるが、真琴小隊長はくっついたままの如月を引っぺがし、自分の末端を操作する。皆が不安そうな面持ちで眺める中、その末端から流れてきた情報は余りにも衝撃的だった。
「カエリアが崩壊中…」
 シールド突撃によりカエリアが浸水・崩壊中であるという情報。柊は思わず呆然と末端を眺める。しかし、直ぐに如月が別の末端で情報を引き出す。
「救難活動がでてる」
 その声に真琴小隊長は頷きながら言葉を続けた。
「2マホ隊突撃小隊投入…らしい」
 某騎士団同様、元々同じフィールドで集まったメンバーから構成される2マホ隊は士気も高いので活躍は非常に期待できるが如何せん都市船の人間の数が多すぎるし、沈む都市船をさせる力も足りない。
「真のZ兵器が投入された」
 真琴小隊長の声に一同、なんじゃそりゃ――――!!!と声を上げる。真琴小隊長の説明では根源力6000の超兵器らしく、是空氏はそれに乗って都市船を支えに行ったようだった。雷鳥号も無論それに同行し、都市船はかろうじて沈没を免れている状況である。
 その最中漸く歌唱部隊の投入となった。誰もが驚いたのはその応援の歌が第二世界からかだと言う事だった。敬愛する原と何処までもすれ違い名是空中隊長に涙しながらもメンバーは固唾を飲んで戦況を眺めていた。
 怒涛の展開であった。
 司令官小太刀・是空中隊長、そして海法氏の志、望み、そして指揮にメンバーは圧倒されながらも心から応援の言葉を送る。
「惚れるねえ…男だけど」
「男が男に惚れると高くつくで」
 思わず言葉を漏らした木々に向かい蓮沼は笑いながら言った。その横で、感動して涙が出そうだとつぶやいたもえぎに向かって真琴小隊長は少し肩を竦めて言葉を紡いだ。
「泣くのはもう少し後だ。勝ってからにしような」
「はい」
 鼻をかみながらもえぎは真琴小隊長の言葉に返事をする。その様子に満足げに笑うと真琴小隊長は小さな声で、なぁに、勝つからと呟いた。もう大丈夫だと他の小隊長も達も既に観戦体制に入ってる。後は指揮官を信じるだけであった。全ての戦力が投入された今、出来るのは本当に祈り、見守ることぐらいしかない。

 エピローグに入る戦況を眺めながら蓮沼は少し躊躇いがちに真琴小隊長に提案を持ちかけた。
「小隊長殿を胴上げしてもよろしいですか?」
 いつもの関西弁ではなく出来るだけ失礼の無いように聞いてみたのだが、その気配りも虚しく真琴小隊長の返事を聞く前にメンバーがわーっと真琴小隊長の側に駆け寄りいきなり胴上げを始める。蓮沼は少し困った顔で笑うと、胴上げの輪に入ろうとしたが、皆の足元を手が届かない為にちょろちょろと右往左往している二郎を見て止めた。ひょいと二郎を持ち上げると、なるだけ高く持ち上げて真琴小隊長に触れるようにしてみたが、届いたかどうかは蓮沼には解らなかった。
 そんな中、アイコンタクトでなにやら合図を送りあっているメンバーを見つけ、蓮沼は二郎を抱えて少し輪を離れた、すると案の定、わぁっと今まで真琴小隊長を支えていたメンバーが蜘蛛の子を散らすようにその場を離れてしまったので真琴小隊長は派手に落下した…逃げ遅れた柊の上に。
「うう…鼻が痛い…」
 涙目になった柊の上から起き上がると、真琴小隊長は苦笑して自分の服の埃を払った。
「ふぅ。それにしても、皆生き残って一先ずは何よりだ」
 漸く起き上がった柊を見ながら天野が言ったので、木々は笑いながら1名死にかけましたけどねと言った。

 そんな様子を眺めながら蓮沼は作業服のポケットを探った。かれこれ5時間程前につまらない願掛けの意味で禁煙してみたのだ。願掛けも無事に達成したので、心置きなく煙草が吸える。安いライターで煙草に火をつけると蓮沼は手に握られたライターを眺めた。この作戦生き残ったら人並みの給料を払ってくれるって司令官が言ってたな…もう少し格好良いライターでも買おうかとそんな事を考えていたが、どうせ直ぐに無くしてしまうと思い思考を停止させた。肺に入る煙を知覚しながらゆっくりと思考を動かす。
 人とは凄いと思った。愛や、理想や、仲間の為にこんなに頑張れるのだから。見ず知らずの人とでも手を取り合って戦える…それはとても尊い奇跡だと思った。

『また戦場で!』

 戦場でしか会えないのが悲しいがそれも良いと思い蓮沼は瞳を閉じた。明日…いや、もう今日か…仕事が待ってる。本気で死ぬかもしれんと思いながら、その場を後にした。後は泥の様に眠るだけだ。次の戦場に立つ為に。


>>あとがき

 先日行われたTT作戦での真琴小隊をSSにしてみました。余りロールをやっていなかったのと、ログが不完全だった事もあり登場人物と実在の方との差はかなり大きかったと思われます。話を作る事に重点を置いたので、大分オリジナル要素が多いです。済みません。済みません。
 本気で死にそうになりながら作戦に参加したのですが、ご一緒できた方有難う御座いました。折角の思い出なのでつたないSS書かせて頂きました。少しでも楽しんで頂けたら光栄です。
 ログやキャラ設定とにらめっこして話書かせていただいたんですが、作戦長すぎてほんま難儀しました。人数も12人とか、今までそんな大人数の小説書いたこと無いので、出番にばらつきが出てます。何となく動かしやすそうな方が出張ってますね。大感謝です。

 中々時間が裂けなくて話UP遅くなって申し訳ないです。感想とか聞かせて頂ければ幸いです。

20060417