*悠久色彩(IN岩田王国)*
イワッチ王国此処は箱庭電波な王様舞を舞う
イワッチ王国此処は戦場運命を変えよ彼が言う
イワッチ王国此処は楽園全てを赦せと君が言う
此処は熊本。5121小隊、スカウトの王様のいる場所
***
田辺は自分の足元にあるつい先刻まで純白のウエディングドレスであった布切れを見て呆然とした。
「ど…どうしよう…今日には納品なのに…」
今にもその大きな瞳から涙が零れ落ちそうだったが岩田はゆっくりとその布切れを拾い上げ田辺の方を向いた。
「フフフ…僕と貴方で直しちゃえば宜しいんですよ!!任せてください!!僕はこう見えてもお裁縫は得意なんです」
そういうと鼻歌を歌いながら岩田は布を抱えて詰め所の方へ足早に歩いていった。流石に驚いた田辺は暫くは岩田の背中を見送っていたが、慌ててその後について詰め所へ向かう。
田辺が到着する頃には岩田は何処から出したのか裁縫道具一式を広げで彼女の登場を待ち構えていた。
「ささっと破れた所を縫ってしまいましょう★」
催促するように岩田が田辺に針と糸を渡し、早速作業にはいる。しかし、縫い合わせたところがどうしても目立ってしまうので田辺は更に気分が滅入ってしまった。ゆっくりと縫い目をなぞりながら岩田は名案だと言わんばかりに田辺の方を見てリボンのきれっぱしを綺麗に纏め上げ花を作り上げる。
「フフフ…こうやってお花を作って縫い目に沿って飾り付ければさぞかし美しいでしょうね★フフフ…我ながら自分の裁縫のセンスが怖いです★」
その言葉に田辺は思わず目を丸くするが、すぐに頷き表情を明るくする。
「そうです…そうしましょう!!有難う御座います!!」
「礼には及びませんよ★全部縫い合わせが終わったらレースのリボンを買いに行きましょう★さぞかしゴージャスなドレスに仕上がるでしょう★」
出来上がり図を想像したのか、うっとりした表情で岩田は遠くを見る。納品用のドレスは2着あるので、無事だった方のドレスにも飾り付けをしようと岩田は偉くやる気で器用に縫い目を合わせてゆく。
田辺はそんな岩田を見ながら心のそこから感謝した。他の人なら呆れるだろう。放っておくだろう事だって岩田は付き合ってくれる。忙しいはずなのにそんな素振りも見せずに厭な顔一つしない。恐ろしくポジティブな岩田の存在は田辺にとってはとても有難い存在で、自分がどうしようもなく駄目な人間だと思ってもそれすらも凌駕する広いキャパシティを持つ彼と…この小隊とずっと一緒で居たいと思っている。
「ふぅ。我ながら仕事が速いですねぇ…」
出てもない汗を拭う仕草をしながら岩田は酷くご満悦の表情で出来上がったウエディングドレスを見る。縫い目は目立つが、これから花を飾り付けるのが楽しみなのか、財布を握り締め岩田は早速扉の方へ立ち上がり歩きだす。
が、
突如扉が開き、そこには2つの人影があった。
「「岩田君!!!」」
ほぼ同時に声を発したのは速水と狩谷の意外と言えば意外なコンビで、2人とも示し合わせたように手にはなにやら大きめの紙袋を持っていた。
「フフフ…どうなさいましたお2人とも★」
流石に少し驚いたのか岩田はごく普通のコメントを発するが、速水は瞳を輝かせて岩田にずいっと近づくと持っている紙袋を差し出す。
「実は…」
速水が何かを言おうとし掛けたのと同時に狩谷は岩田の手に自分の持ってきた紙袋を握らせ速水をあからさまに遮る様に口を開いた。
「有意義に使ってくれ」
流石に割り込みを図られ速水はむっとした表情を見せるが、気を取り直したのか自分の紙袋を岩田に渡すと満面の笑顔で、使って、と言った。
中に入っているの純白のレースのリボン。
恐らくたまたま通りかかり中の様子を伺った2人が猛ダッシュで買い物に行ったのだろう。岩田はそれの中身を確認すると、フフフ…テンションを上げていきましょう★と早速中のリボンを田辺に渡した。
「さぁ田辺さん頑張って仕上げちゃいましょう★」
「は、はい!!」
田辺は慌てて頷くとリボンを順番に切ってゆく。岩田はそれを丁寧に束ねて綺麗な花を作る。
「僕も手伝うよ!!」
速水が岩田の隣の席を陣取り早速作業にかかろうとすると、狩谷は鼻で笑うような仕種をみせ、仕事は良いの?司令とあてつけの様に言葉を発する。
「じゃあ君は仕事したら!!僕は仕事より大事な…そう、小隊のメンバーの為に時間を使いたいんだから!!」
狩谷を睨み付けながら速水が言うと、とうの狩谷は速水と逆の岩田の隣を陣取り既に花を作る作業に入っていた。
「やるなら手を動かしたらどうだい司令。ああ、司令は命令出すのが仕事だっけ?」
流石に我慢の限界を越えたのか速水ががたっと立ち上がったので狩谷は思わず身構えたが、その間に入っていた岩田がきょろきょろしながら、ハサミを見ませんでした?と言い出したので燃え上がった対立の炎は一瞬で鎮火し探し物をする体勢に入った。
「あ、わ…私のハサミ使ってください!!」
田辺が差し出したハサミを受け取ると岩田はチョンと糸を切る。漸く一つの花がウエディングドレスに飾られたのだ。それをうっとりと岩田は眺めると、さぁさぁ頑張りましょう★と俄然やる気を出した。
「何をしておるのだ?」
芝村は詰め所の前で洗濯物を抱えて立ち止まっている石津を発見し首を傾げた。
「もしかしたら荷物が多くてドアを開けられないんじゃないか?」
そういうと若宮は小走りに石津の傍へ行き事情を聞くが石津は首を振るだけだった。
「違うの…中で…岩田…君が取り込み中…だから…」
岩田の名前が出るや否や芝村は露骨に怒った表情を見せ石津に向かって言葉を発する。
「あやつに付き合っておったら終わるものも終わらぬではないか!!気など使わず入るが良い!!」
そういって芝村が扉に手をかけた瞬間ガラッと扉が開き、中なら噂の本人が顔を出した。岩田は3人を見ると今にも小躍りしそうな位喜んで、ささ、どうぞ中にお入りください★と無理矢理背中を押しながら中へ3人を押し込めた。
流石の芝村も岩田の『取り込み中』が予想外のもので口をぽかんと開ける羽目になった。白い布とレースのリボンが散乱した部屋で黙々と作業をする面々。
「何してるの?」
早速洗濯物をたたみ出した石津を尻目に若宮が取り合えず言葉を発することの出来ない芝村に代わって質問をした。すると田辺が顔を上げて事の発端と現状を説明し、最後に済みません!!と平謝りをした。
「…洗濯物が…片付いたら…手伝う…わ…」
石津が手際よく洗濯物をたたみながら言ったので、若宮もそれに同意し、早速何をしようかと岩田に聞き出したので芝村は目を大きく見開いて若宮のほうを見る。
リボンを切る作業を賜った若宮は小さなハサミを使い、チョンとリボンを切る作業に入った。細かい作業は若宮には向かないと判断しての采配は同意できるが、この状態で芝村は自分だけ手伝わずに帰るという選択肢をカダヤによって一瞬で消されてしまった。
歯軋りをしながらも芝村は結局手伝うと言う選択肢を選んだのは、若宮のが楽しそうにその大きな手に小さなハサミを握ってリボンを切り続けているからだろう。石津も洗濯物をたたみ終え、どの作業を手伝おうか思案している所の様だった。
「…石津は若宮を手伝ってリボンを切るがよい。私は花を作るのを手伝う。よいな、私が手伝うからには夕方までに終わらせるぞ!!作業効率を落とすことは許さん!!」
そう言い放つと芝村は互いに牽制しあいながら花を作る狩谷と速水の間に割って入り、手際よく一つの花を作り上げる。流石天才技能のなせる業か、その花は今まで狩谷たちの作ったどの花よりも出来がよかった。それを見た岩田が大喜びをし、狩谷たちは更に負けじと花を作り出した。
「それでは僕らもテンション上げて行きましょうか」
岩田の言葉に田辺は頷きせっせと花を縫い目に沿って飾り付ける。
「ウエディングドレスってのは白がいいのかな?」
「何!?白が良いのか!?」
「いや…俺が聞いてるんだけど」
若宮の小さな独り言に裏返った声で返答した芝村は恥ずかしそうに顔を赤らめる。それを見て若宮は僅かに首を傾げると、芝村は更に顔を赤らめる。
「僕にしてみれば何色でも良いんですけどねぇ」
「そなたには聞いておらぬ!!」
岩田の言葉に芝村が怒った口調で返答したので岩田は眉をへの字に曲げて怒らなくてもいいのに…と口を尖らせる。そんな子供のような仕種を見て田辺は微笑を浮かべ言葉を発した。
「白色っていうのは、『貴方の色に染まります』っていう意味とか、純白の衣装で新しい道を歩みますって意味なんですよ…その…私も聞いた話なんですけど…」
それを聞いて石津は小さく頷き芝村のほうを見る。
「芝村さんは…よく似合うと…思うわ…」
「ぬ…そうか?」
石津の言葉に芝村は暫し手を止めて白いウエディングドレスを凝視する。今は無理でもいずれ着る時が来るかもしれない…いや…何を考えているのだ私は!!と一人で思考を先行させ表情をクルクルと変えてゆく。
「僕も昔はお嫁さんになるのが夢だったんだよー」
ぽやーんとした表情で速水が言うと、それに水を差す…否、寧ろぶっ掛けるように狩谷が鼻で笑い皮肉気に言葉を発した。
「ああ、君は昔から頭が弱かったんだ」
「何で君にバカにされなきゃいけないのさ!!」
「僕は事実を述べただけだよ。あ、客観的な意見かな?」
今にも取っ組み合いを始めそうな2人を尻目に岩田はウエディングドレスを抱えて僅かに微笑を浮かべる。
「何色でも良いんですよ。その人の好きな色で。それがその人の『個性』とか『色』なんですよ。今まで見てきたその人を染め直さなくても…僕はいいと思いますよ」
岩田の言葉に一同が彼に視線を送る。彼が至極まともな意見を吐いたような気がしたのだ。それに気が付いた岩田は僅かに瞳を細めて困ったような表情を見せる。
自分にはそんな事には縁はないと知っていたからなのだろう。止まった虚構世界で未来は得ることは出来ない。エンドレスの世界で自分は永遠の道化を演じながら『介入者』を導くのが役目で、どんな結末を迎えても同じスタートラインへ帰還する。その世界で蓄積されたその記憶は自分だけが抱えて生きてゆく。痛みも、悲しみも、絶望も…希望さえも全てリセットされ、終わりない永遠の世界。
誰が僕の事を覚えているのだ。
誰が僕の心を知るのだ。
過去を消すことがどんなに残酷な事か。
―――どうかそのままで。
そんな簡単な事が望めないからこそ岩田はそんな言葉を吐いたのだろう。
田辺は僅かに岩田の表情を伺うように視線を上に向けたが、岩田は一瞬だけ見せた表情を消し去り、いつも通りの能天気な明るい表情を向け田辺に向かい笑いかけた。
「さ、さっさと終わらせてしまいますか」
そういうと何事もなかったように手元に視線を送り山の様に積まれた花をせっせと縫い付ける。
ぼんやりと田辺が感じるのは岩田に見え隠れする寂しい瞳の色。何処か虚無感に包まれたそれはほんの一瞬見え隠れしそれに気が付く度に田辺は自分の無力さに歯痒くなる。彼の何がそうさせるのかは解らないが、彼はそんなものを晒す事無くいつも誰かの為に戦う。誰かの為に笑うのだ。時折感じるのは自分に何が出来るかと言うこと。
出来上がったドレスを満足げに一同で眺めると、納品の為に岩田は轟天号を出動させ、田辺はナビの為に後ろに乗り込む。
「フフフ…皆さん有難う御座いました。コレで無事に納品できます★感謝します」
岩田の満足げな言葉に一同はそれぞれの反応を見せたが、それに次いで田辺は深々とお辞儀をする。
ゆっくりと振動を伝える自転車の後部座席で田辺は表情の見えない岩田の背中を眺めるとゆっくりと口を開く。
「あの…有難う御座いました」
「僕だけの力じゃありませんよ。皆さんに感謝しなくては」
「…私は…その…いつも足引っ張ってますけど…だけど…頑張ります。岩田さんがちゃんと…ちゃんと笑えるように」
その言葉に岩田はわすかに苦笑すると僅かにスピードを緩め川辺の夕焼けに視線を巡らせる。
「僕はね、貴方達に期待してるんです。それは自分勝手なモノだと知ってます。だけど…この世界この光景が一瞬しか見えないように…絶えず変化してゆく流れが…少しでも…ほんの少しでも『希望』へ向かうものになれば良いと思ってます。一人一人の僅かな変化が波紋を呼び起こし世界を変えてゆく…大きな変化を僕は…呼びたい。それは…僕自身の変化なのかもしれませんが」
沢山の人を…世界を巻き込んでの大舞台で自分自身はどんな最期を迎えるのだろうといつも思う。明日死ぬかもしれない境遇でもそれは世界の変革への先行投資で、何かが変わるならそれでいいかもしれない。見届けたいと思った。世界の変革を。自分自身の変革を。
降り立つ魔王が、竜が、いずれ自分を滅ぼすかもしれないと知っていても…それでも尚、彼らすら変革するかもしれないと言う希望を持つのは愚かな行為だろうか。
自分の歩いた軌跡が残ればそれでいい。
一瞬でも焼き付けばいい。
世界に。
彼等に。
最期は笑えるだろうか。
きっと降り立つ『介入者』に向かって。
岩田の腰を抱く田辺の手に力が入り岩田は現実に引き戻される。
「…何処にも行かないでください。私には…私達には…岩田さんが必要なんです…だから…」
「心配しないでも僕はずっと『此処』にいますよ」
此処は自分が何度も戻ってきた場所。
戻らないのは…貴方達。
岩田は僅かに瞳を細め思考を巡らす。何度だって帰ってきたのだ。何度も絶望したのだ。虚構世界に。期待も悲しみも捨てて。抱きかかえた痛みに目を瞑り『嘘』を携えて。でも…次は『思い出』を携えて此処へ帰ってくるだろう。何度もたったスタートラインで多分そんな事を出来るのは次の一回きりだろう。だからこそ…抱えられない程大きなモノ作っていくのだ。
『その答えはYESである』
誰かが笑った。それは自分をこの世界に放り込んだ男なのか、自分に痛みを返してくれた魔女だったのかは良く解らなかったが、自分が田辺と見たこの光景は二度と見る事のないモノだとぼんやりと考えているうちにどうでもよくなった。
余計なことを考える間がない位今は忙しい。
だから多分まだまだ踊っていられるこの舞台で。
終焉の時まで。
―─貴方達が帰らない『この場所』へ僕がたった一人で戻る日まで。
>>あとがき
岩田王国キリ番リクエストです。っていうか、全然田辺→岩田v石津じゃないわ!!御免なさい。
田辺はいつかこのエピソードで話を書きたかったんですよ。岩田は器用そうだからちゃんと直してくれたんだろうなぁって。で、気が付いたら大所帯になってます。いつもの事ですが。
さて、久々に岩田王国書きましたが、なんか速水と狩谷の友好度がMAX迄下がってますねぇ(微笑)怖いってばよ。岩田も気が付いてるのかどうか。舞と若宮は相変わらずですがね。
最近岩田が介入者の事を思い出すのが多いみたいですねぇ。多分終焉に向かってる所為でしょうが、いずれ介入者との出会い編も書きたいですねぇ。瀬戸口さん話でちらりと出ましたが。
この作品は4万キリ番ゲッター・探求者様へ。遅くなって申し訳ありません。これからもよろしくお願いいたします。
それでは又お目にかかれればそりゃぁもう奇跡かも(笑)
20021110
>>HP移転に伴い一部改行等調整。大筋変更はありません。