*仮想王様(IN岩田王国)*

イワッチ王国此処は箱庭電波な王様舞を舞う
イワッチ王国此処は戦場運命を変えよ彼が言う
イワッチ王国此処は楽園全てを赦せと君が言う

此処は熊本。5121小隊、スカウトの王様のいる場所

*** 

 薄暗いハンガーの中で森は士魂号の整備をしていたがその手をぱたっと止めた。
 人類の最強兵器とも呼べる『士魂号』のその中枢部分は『ブラックボックス』として触れられる事はない。多分整備班の中でもその本来の姿を知っているのはごく限られた人間だけ…否、誰一人居ないかもしれない。
 芝村の科学力の結晶とも謳われる最強兵器に対して森は少なからず疑問を持っていた。
 本来、2足歩行の機械を作る事は不可能だと思われていた。人間は歩行の際に無意識にバランスを取るし、力加減も意識して行うことは少ない。機械にそれをやらせようと思えばその電脳に細かいプログラムを組み込まなければならないし、そのパターンも複雑となる。つまり、電脳に多大な負担をかける事になるのだ。廃熱の効率や、複雑なプログラムの事を考えるとどう考えてもこの士魂号の小さな頭部に収まり切ることは不可能に思えた。
 そして最大の疑問はその士魂号の操作だった。
 半ば半覚醒という夢見心地の中でパイロットは士魂号を操作する。パイロット自身が士魂号の部品に近い状態で乗り込むのだ。
 例えば、士魂号の電脳部分の仕事を半分パイロットが自身の脳で行うのであれば、複雑な行動を士魂号が行えるのも半分は納得できるが、結局はその人間の複雑な思考、そして無意識に行う行動を受け取り、その大きな身体に指令を出す『司令塔』に疑問が残る。
 この司令塔こそが『ブラックボックス』となる。

 士魂号の『ブラックボックス』の秘密を知った者は消されるという実しやかな噂が囁かれる中、態々危険を犯す人間も中々居なかったらしい。今までブラックボックスに対しての調査記録を見た事はなかった。
 が、なんとなく予想は付いていた。
 人間の思考を受け止められるのは人間の脳だけだという事。
 医療以外で人間のパーツを使用するのは法律で禁止されている。幾ら今となっては世界に多大なる影響を与える芝村一族とは言え、法を破って許される筈はない。それでは何の為の法なのか。

「…まだ…興味があったんですか?」
 後ろから突然声をかけられ森は驚いて後ろを振り向いた。
 そこには改造白衣を纏った岩田が困った様な表情を浮かべて椅子に座っていたのだ。森は思わず身構えると岩田をにらみつけた。以前士魂号のブラックボックスについて調べている時にやんわりと止められたのだ。又邪魔されるかもしれないと脳が判断したのだ。
「不正は裁かれるべきです」
「…仕組みを知らなくても自動車は動くし、水道から水は出ます。僕達はそうやって生活をしているんです。…それでは駄目ですか?」
「詭弁です」
 森の撥ね付けるような返答に岩田は肩を竦め士魂号へ視線を移す。
「もう少しだけ時間を頂けますか森さん。…自然休戦に入るまで」
 岩田の言葉に森は僅かに眉間に皺を寄せた。不正は一刻も早く暴かれるべきであるし、無駄に時間が経過する事によって不正自体が隠されてしまう恐れだってある。岩田の言う自然休戦までの基準も理解しかねた。
「芝村であるから法を犯して良いということはありえません!貴方もどんなにこの小隊の『王様』振っても所詮は『芝村』の味方なんですね!!」
 そこまで言って森はしまったと口を噤んだ。多分それは岩田に対して言ってはいけない言葉だと思ったのだ。
「貴方は真っ直ぐな方ですね」
 それは岩田の本心だった。人の好奇心は人を成長させる事もあるが、その身を滅ぼす事もある。こと、士魂号に関しては軍の上層部からの緘口令が敷かれているのだ。危険は少ない方が良い。
「…僕は…貴方に生きていて欲しいんですよ。貴方は小隊に必要な人間なんですよ」
 表情を消したまま岩田は森に小さな声で呟いた。多分岩田の言葉に嘘はないと森は感じたがそれでも自分の中にある芝村一族への拒絶感と不正への嫌悪感で引く事は出来なかった。
「あ、岩田君。此処に居たんだね」
 重苦しい沈黙を破ったのは森と同様に3番機の整備士である狩谷だった。彼は今までの重苦しい雰囲気を払拭するようなにこやかな笑顔で、善行君と速水君が探してたよと岩田に告げた。
「…速水君と善行君が?」
「ああ。多分小隊長室に居ると思うけど。急ぎの用だったらアレだし行ったら?」
 岩田は少し名残惜しそうな表情を見せたが狩谷にせかされハンガーを後にする事にした。森に対してもう少し念を押しておきたかったのだろう。
 それを見送ると狩谷は何事も無かったかのように3番機の整備を始める。その行為が逆に森の居心地を悪くした。多分岩田とのやり取りを聞いていたのだろうがそれに対して何も言わないのが正直気味が悪かった。
 彼が岩田至上主義で敵対しようものならどんな目に遭わされるか小隊中の人間が暗黙の了解の中肝に銘じているので正直森もひやひやしていたのだ。狩谷自身の事は決して嫌いではないが、小隊中に感染している『王様第一』の風潮の筆頭であるのはどうにも理解しかねる。不真面目で、誠実さの足りない岩田にどうして人がついて行くのかが正直首を傾げる所があるのだ。
 暫くの沈黙の中狩谷は持っていたスパナを軽く握りなおし士魂号の装甲を軽く叩いた。金属音がハンガーに響き森は思わず身体を固くした。
「…十分過ぎる性能だけど、まだまだ性能を上げられるね」
 狩谷は僅かに口元を緩め3番機を見上げる。小隊…否、熊本にある士魂号の中でも最高の性能を持ってる3番機は今だ被弾記録すらない最高の出来だった。原整備主任曰く、とっくに士魂号の限界値を超えているらしい。狩谷・若宮・森が整備担当を行っているが、狩谷は司令・速水との岩田への陳情合戦の為に仕事を熱心にこなし発言力を貯めるし、若宮は恋人の芝村がパイロット言うこともあり整備に余念は無い。森とて手を抜いているわけではないがこの2人には適わない所がある。
「既に人の領域を超えてるんだろうけどね」
 その言葉に森は瞳を大きく見開いた。狩谷は矢張り先ほどの話を聞いていたのか。それ以上に『ブラックボックス』についても知っているのではないかとそんな疑惑が心の浮かぶ。
 その様子を見ると狩谷は僅かに瞳を細め士魂号の冷たい装甲を撫でながら森の方を向く。
「…何が言いたいんですか」
 森は狩谷を睨み付け厳しい口調で声を放った。
「簡単な事だよ…僕達にはまだ士魂号が必要だ。余計な詮索はしない事だね」
「岩田君の肩を持つんですか?」
 厳しい表情のままの森を見て狩谷は呆れた様は表情を見せた。
「君の振り翳す正義が僕等を殺すって話をしてるんだよ僕は」
「殺すですって?」
「…考えても見なかったかい?岩田君はそこまで言わなかっただろうからね」
 僅かに肩を竦めるしぐさをした狩谷は明らかに森に対して敵意を見せだした。
「士魂号の『ブラックボックス』の事が問題なればコレは前線から外される。そうなれば勝てる戦争も勝てなくなるって事だよ。…それだけじゃない。僕達整備班も不要になる。君は良いかもしれないけど僕の様に他に行く場所が無い人間がこの小隊の大半だって事ぐらい幾ら君でも解るだろ?」
 狩谷はまるで予め準備されていた台本を読むようにスラスラと言葉を吐いた。その言葉を聞きながら森は背筋が寒くなるのを厭というほど痛感していた。普段岩田と居るときは絶対に見せない狩谷の酷く冷たく暗い一面。顔にかかる前髪が表情はよく見えないが見ない方が良いかもしれないと森は本能的に察した。
「…わ…私はただ…」
「岩田君が君を必要だと言ってくれている事に感謝すべきだよ。君は君の気が付かない所で彼に守られているんだから。そんな事にも気が付かず自分が正しいといい放つ所は…随分と滑稽だよ」
 狩谷の言葉に森は思わず顔を紅潮させると狩谷の方を睨み付けるが狩谷は涼しい顔でそれを受け流し更に言葉を放った。

「岩田君は僕が守る」

 司令速水が屈託の無い笑顔でそう言い放ったので傍に立っていた善行は思わずぽかんと口を開ける。今以上に何を守ると言うのだ。そんな事を考えながら遠い目をすると、岩田は相変わらずの挙動不審さでクネクネと身体を動かし、流石心の友と書いて『心友』!!とオーバーアクションで喜びを表現した。しかし、直ぐにその動作をぴたっと止めて速水に向き合うと僅かに瞳を細めた。
「…取り合えずもう少しだけ森さんの直訴状は保留してください。僕の我侭だということは解ってます。ちゃんと全てが終わったら上に…」
「そうなったら貴方もただじゃ済まないでしょう。『芝村の工学者』が士魂号の開発に携わっている事は明白なんですから」
「フフフ…僕の心配は無用ですよ善行君★望みを果たしてしまえば後は野となれ山となれ★」
 岩田のあっけらかんとした返答に善行は思わず心配した自分自身を呪った。岩田が動じるはずが無い。しかしながら、森の直訴状は実に厄介な物だった。何処までこの小隊で森を庇えるかも先行き不安であるというのが正直な話だった。士魂号の秘密を知ってるのはごく限られた人間で、例えば整備主任の原が嘗ての整備士学校で開発に携わった『茜・フランソワーズ』からその事を聞いて知ってるが、彼女の場合はそれを別に公にしようという意思が見られなかった為に善行の監視下で加護されている。彼女も薄々その事は知っているだろう。
「潔癖症な彼女らしいね」
 速水は机の紙切れをひらひらと振るとそれを破り捨てた。先刻森が持ってきた直訴状だったものはただの紙切れとなってゴミ箱へ消えた。善行は無言でその紙切れを視線で追ったが、岩田は些か驚いたような表情を見せた。
「ダメですよ速水君。それは後でちゃんと上に出して頂かないと★」
「あ、御免。でもね岩田君。戦争が終わる頃にはこの紙切れはきっと効力を発することは無いよ。だって法は人を守る為にあるんでしょ?今の法で僕たちを守れないのなら…法が間違ってるんだよ」
 速水が最後に声のトーンを落とした為に善行は思わず身震いをした。『僕達』ではなく『岩田』を守り、いずれ法さえ変えると言うような雰囲気が痛いほど感じられたのだ。本気だと。穏やかな表情からは気が付かない何かを彼は間違いなく飼っていると漠然と感じることは出来た。
「…民に守られるようでは僕も『王様』としてはまだまだですね★…傾国の王として日々精進いたします★」
「『傾国の王』か…やだなぁ、僕達の王国は土地とかそんな物じゃないだろ?この場所が例えなくなっても王国は…消えない。王国が傾くのは君が居なくなった瞬間だよ。でもその瞬間に人類も滅んでるだろうけどね」
 笑顔で恐ろしいことを言う速水に善行は思わず後ずさりをする。小隊そのものが現在は岩田の王国となりつつあるが多分それは速水の言うとおりに土地を失っても、小隊がなくなっても失われないだろう。ある意味宗教に近いのかもしれない。形にならない何かを抱えてそれぞれが生きていて、その中には必ず『王様』の存在がちらつく。
「で、森さんの説得はどうするんですか?何時までも直訴状を握りつぶす訳には行かないでしょうに」
 多分森は速水に対してまだどこかで『司令』という立場上物事を公平に見てくれると考えているようだった。だからこそバカ正直に直訴状を上に上げる伝を持っている速水に直訴状を渡したのだ。それとも、岩田に関係のない直訴状なので速水が上に上げてくれるとでも思ったのだろうか。彼女は多分ただ単に不正を許せないという『正義の心』でこの告発を思い立ったのだろうが、それが及ぼす影響までは考慮に入れなかったと見える。一番厄介な免罪符である『正義』は速水の前では無力な戯言にしか過ぎないのだろう。
「…僕がもう一度お願いに上がりますよ★僕の熱意が伝わると良いのですが」
「岩田君は優しいね。彼女の気が収まるように直訴状の握りつぶしは僕に頼まなかったし、それによって被る影響を彼女の為に話さなかった。僕には真似出来ないよ。…それでこそ『僕の王様』」
 速水は僅かに瞳を細めて笑った。岩田の為になら法をも変えると言い放った少年は『王様』に従順な『竜』である。しかしそれは現在の話でいつか主を亡くした竜が何をしでかすのか想像するだけで恐ろしくなった善行は眉間に皺を寄せた。
「…ともかく…私の方から芝村には手を回しておきます。司令は森さんの上告の処理をお願いします。あくまで穏便に」
 善行の提案に岩田はあからさまに不満そうな顔をしたが、それは無視する事にした。現状士魂号を失うのは得策ではない。幾ら小隊の最高撃破率を誇るのがスカウトである岩田であっても、限界は必ず来る。人類にとってもこの土地が実質最後の砦なのだ。本土に戦火を広げてしまえばそれはもう負けを意味するのにも等しいのは良く解っていた。
「穏便にねぇ…岩田君はそれで良い?」
 笑顔を向けた速水に向かって岩田は仕方がないというように肩をすくめて見せた。それを確認すると速水は解ったよ、穏便にねと見ていた善行がぞっとするような綺麗な笑顔を作った。
「自然休戦までで結構ですよ」
 岩田の付け足した言葉に速水は頷き作り物のような笑顔のままで口を開いた。

「誰にも邪魔はさせないよ」

 狩谷の言葉に森は恐怖で顔を引きつらせる。気が付くべきではなった。彼の狂気にも信仰に。
「わたしは…間違って…な…」
「あれ?アンタ此処に居たんだ」
 漸くしぼりだした森の言葉を遮ったのは、この小隊では珍しい黄金色の髪を持った少年だった。森の義弟である茜大介。狩谷は視線だけ彼の方に移したが、大して興味無さそうに何?と気のない返事をした。
「司令が呼んでた」
 更に興味を無くしたのか狩谷がふーんとだけ云うと工具箱を片付ける訳でもなく、また整備を再開しようとしたので茜は狩谷の傍へ寄って行き肩に手を乗せ耳元に唇を近づける。
 森には何も聞こえなかったが、仕方ないというような表情を見せた狩谷が手を止め小隊長室へ向かった所を見ると茜は何か伝言を伝えたのだろうと察しはついた。
「…まぁ、彼が君を必要とするのなら仕方ないか。守られている事を知らずに箱庭を壊そうとするなんて自殺行為だよ…原始のヒトの様に君は荒野を彷徨うつもりかい?」
 すれ違う時に狩谷はそういい残しハンガーを出て行った。その言葉に森は顔を紅潮させ拳を震わせた。敵意と嘲笑を明らかに見せ付けて彼は去ったのだ。
 その様子を見て茜は僅かに口元を緩めたが、直ぐに森の方をみて少しだけ笑った。
「大分虐められたね義姉さん。それでこそ助けた甲斐があるよ」
「…見てたの?」
「最初からじゃなかったけど、分が悪そうだったからついね」
 確かに茜の登場は森にとっては幸いだった。あのままだったら多分狩谷にこれでもかというほど云い込められていたと思われる。ほっとしたのは確かだ。
「じゃぁ、司令が呼んでたってのは嘘?」
「半分ね」
 茜は狩谷の置いていった工具箱を弄びながら森の質問に答えた。自分の持っている工具箱と同じつくりのそれは蓋の端に小さな字で『狩谷』と名前が書いてあった。几帳面そうなその字は持ち主の字ではなく、送り主の字であるのは誰もが知っている事で、この小隊の工具箱には殆どその字で名前が書いている。
「…義姉さん…僕のママンの事知ってるよね」
「ええ」
 突然思わぬ話題を振られて森は面食らった表情を見せたが、茜が珍しくしおらしい表情で話を始めたのでその話を聞く体勢に入る。
「優秀な技術者だったママンはね…士魂号の秘密を知って…遠くに行ったんだ」
 その言葉に思わず森は息を呑む。茜の母親は死んだ。だから茜は森の家にやってきたのだ。つまり、茜の母親は『処分』されたのだ。森の表情を伺いながら茜は更に言葉を続けた。
「…義姉さんの云ってる事は正しいよ。でも…僕の我侭だと解ってるけど…義姉さんには…もう士魂号の秘密に関わって欲しくない…」
 決して視線を森に合わせることなく茜は士魂号を眺めながら言葉を紡いでいった。
「大介?」
「もう…家族を失いたくないって云ったら…義姉さんは笑う?」
 懐かない義弟が見せた、一瞬の翳りを察した森は黙り込んで俯く。茜にとって愛して止まない母親はもうこの世に居ない。一人ぼっちになった茜が漸く新しい家族である自分達に打ち解けて来ていたのだとしたら?と森はゆっくりと思考を動かす。どんなに背伸びしても茜はまだ子供だ。寂しい筈がないではないか。
「笑わないわよ大介。御免。私自分の事だけ考えてた」
 例えば自分が消されても…不正さえ暴かれればそれで良いと思っていた。残される者の気持ちなど考えていなかった。閉じた視界が急に開けたような気がして森はゆっくりと深呼吸をした。
 その様子に茜は少しでだけ微笑んだ表情を作ると更に言葉を紡いだ。
「解ってくれて嬉しいよ義姉さん…こんなご時世だからね…やっぱり少し不安なんだ。…皆も同じだろうけどね」
 顔を俯かせたので茜の表情は解らないが、言葉だけで十分だった。もう何も云わなくて良いわ…森は呟く様に云うとなるだけ明るい笑顔を作って笑った。
「それじゃ仕事続けるから。アンタはどうするの?」
「夕方にまた来るよ。その時は手伝うよ…義姉さん」
 少しだけ残念そうな表情を森は見せたが、義弟の心の内をほんの僅かでも見れた満足さがあってあえて何も云わないことにした。
 背中を向けた茜は途中まで歩くと思い出した様に振り向き微笑みを浮かべて言葉を放った。

「僕に任せてよ」

 小隊長室に入ってきた茜は瞳を細めて中に居る人間に言葉を放つと、ただでさえ狭い小隊長室に遠慮なく入り、所有者不在の加藤の席へ遠慮なく座り足を組む。
「…根拠は?」
 その様子を伺っていた速水は茜に冷たい視線を送り返答を無言で待った。
「僕が義姉さんに予防線を張っておいた。暫くは問題ないよ…ね、狩谷」
 話を振られた狩谷は、そうだねと短い返事をして速水に視線を送る。速水の表情は一見穏やかだが、多分茜に先手を打たれた事を腹の底では悔しがっている筈である。それを考えただけで笑いがこみ上げて来るのを感じながら、我ながら悪趣味だとぼんやりと考えてみる。
 先程茜が割って入った時は流石に腹が立ちはしたが、彼は狩谷にこう云ったのだ『適材適所。此処は僕に任せなよ。キングは守る』と。
 確かに森の性格を把握しているのは義弟という肩書きを持つ彼であろうと狩谷は判断した。王様を守れるなら…彼の望みが叶うなら手段は問わない。無論自分で叶えられるに越したことは無いが、今回に関しては上が絡んでくる事を考えると、早急に話を纏めた方がいい。悔しいが速水に頼らざる終えない状況での茜の提案は呑む他選択肢は無かった。
「…僕が…頑張ろうと思ったのに」
 案の定尋常ではない悔しがり方をする速水を無視して善行はやれやれとため息を吐き岩田に視線を送る。正直、茜までシンパに入ってるとは聞いていない…無論予想外の展開だったのだ。茜の様な生真面目な人間がもっとも嫌いそうな人種を演じているくせにどうやって彼に此方を向かせたのかに関しては純粋に興味があった。
「さて、問題も片付いたしゲームの相手しろよ岩田。それで、今回の貸し借りはなしだ」
「フフフ…僕とゲームがしたいならいつでも仰って頂ければお相手するのに。中々シャイ★ボーイですね大ちゃん」
「その呼び方は止めろ」
 岩田の反応に僅かに顔を顰めた茜だが、岩田は無論そんな言葉を聞きやしないと知っている為か余り強く否定はしなかった。
「それでは皆さん後ほど★」
 そう云いながら悠々と手を振って部屋を出た岩田の後ろから付いて行った茜は振り返ると勝者の微笑を浮かべてその場を去った。

「フフフ…大ちゃんの説得で森さんが考えを変えるとはスバラシィ★美しき姉弟愛ですね★」
 上機嫌にくるくると回転しながら岩田は後ろを歩く茜に声をかけた。
「美しいかどうかは知らないけど、まぁ…あんな義姉さんでもこの小隊では重要な技師だからね」
「大ちゃんはテレ屋ですね」
「違う」
 岩田の言葉にムキなって反論した茜は云ってしまって恥ずかしくなったのか僅かに頬を紅潮させて外を向く。
「大事にしてくださいよ、家族。いなくなってわかる有難味なんて悲しいじゃないですか」
 その言葉にはっとなって茜は顔を上げるが、岩田はそれすらも気に留めない様子で更に言葉を続ける。
「守りますよ。貴方も、森さんも、皆も。僕はその為にいる『王様』なんですから」
「『クイーン』を守るついでに?」
「…フフフ…ついでではありませんよ。王国を守る事で最終的にクイーンが守られる。それだけです」
 その言葉を聞いて茜は少しだけ困惑した。結局岩田の意図が解らなかったのだ。
 そんな困惑を他所に岩田は上機嫌に詰め所の扉を開くとその片隅に置かれているチェス盤に手を置き口元を歪める。

「さぁ、決着をつけましょう茜君。僕は負けませんよ。相手が誰であっても」


>>あとがき

 久々の岩田王国ですね。つーか、ほぼ完成していたんですが放置プレイの刑に処されてました(苦笑)この話は『仮想女王』と対になる話だったので同時アップを狙ってましたが、結局『仮想女王』が思うように書けなかったので先行アップにしました。この手の放置プレイSSを今年は消化していきたいと思ってます。
 ガンパレを初めて早数年。アルファシステムサーガも出て、世界の謎も大分纏められた事もありますし、掃討戦に入りたいなぁとぼんやりと考えてます。

 でも、久々に岩田を動かしましたが楽しかったりします。ああ、やばいなぁ、岩田やっぱり好きだと思ってみたり。結局彼がどんな道を歩くか・歩いているのかは気になりますが、所詮はオーバーズ・砂神の虚構世界の『岩田王国』なのだし、好きにやろうと思ってます。アンチ・公式とまでは行きませんが、自分の道を歩いてこそ自分だと思いますので(苦笑)

 今回の話は森さんを始めて出しましたね。森さんは弟AIのご贔屓キャラなので大事にしたいなぁと思いながら、結局今回は大ちゃんを使って丸く収めました。っていうか、狩谷や速水だと穏便には程遠い結末になりそうだなぁと心配して大ちゃんを出してみたよ。大ちゃんも余り出演してなかったので丁度良いですかね。『仮想女王』も細々と書いていきます。コレは大ちゃんの岩田王国話の予定なんですが…予定は未定です。

 それでは又お目にかかれれば、おりゃぁもう奇跡かも(笑)

20040125

>>HP移転に伴い一部改行等調整。大筋変更はありません。