*蜜柑王国(IN岩田王国)*
イワッチ王国此処は箱庭電波な王様舞を舞う
イワッチ王国此処は戦場運命を変えよ彼が言う
イワッチ王国此処は楽園全てを赦せと君が言う
此処は熊本。5121小隊、スカウトの王様のいる場所
***
何時も下を向いている子だった。
ハッキリ物を云えないその態度が気に入らなかったのか、それともあの男が彼女と話す機会が多かったのに腹を立てたのかもう忘れてしまった。
どちらにしろ些細な切っ掛けだったのだろう。
「先輩。眉間に皺が寄ってますよ」
3番機の整備員であり、後輩の森が少し笑ってそう云った。
「そう?癖になるから気を付けなくっちゃね。でも、こうも仕事が溜まると思わず怖い顔になるわよ」
山の様に詰まれた書類。原がこの小隊に配属されてから仕事が増える一方で、一向に楽になる事はない。手間の掛かる士魂号の整備主任として整備班を纏め、更に指揮を取らねばならない。
「あ、この書類今日までに指令に渡す分じゃないですか?」
森が日付を確認しながら原に渡すと、彼女はそれを受け取って立ち上がる。
「そうね。一寸小隊長室に行って来るわ」
小隊長室には事務官の加藤が机に向かって電卓を叩いていた。彼女は小隊長室に入ってきた原に気が付くと、司令なら今さっき出て行きましたよと言う。取り合えず書類を机に置くと、原は小隊長室を見回す。殺風景で何もない。配属されてから間もないのだから、私物さえ殆ど持ち込まれていない。
「殺風景な部屋ね」
「そうですか?仕事する場所やし、華やかでもなんだか可笑しいと思いますけど」
「…それもそうね」
華やかさなど必要ないのは確かだ。此処は戦場へ行く者達の居る場所なのだから。
そんな事を考えながら、原が小隊長室を出ると、丁度整備員詰め所から善行司令が出て来る所だった。
「…あら、仕事中にのんびり石津さんとお話?暇そうで羨ましいわ」
原の刺のある言葉に僅かに善行は表情を曇らせるが、眼鏡を上げて仕事の話をしてたんです、と酷く無表情に云う。
「そう。別に私には関係ないけど。書類机の上に置いておいたわ」
***
もう、どんな言葉を彼女に浴びせたのか覚えていない。
覚える価値もないほど陳腐な言葉だったのだろう。
言葉の刃で彼女をどれだけ傷つけても満ち足りることは無かった。
彼女は黙って俯いているだけ。
逆らう事も、許しを請う事も無く、沈黙を守る。
チラリと視界の端で白い何かが横切った。
…別に誰に見られて困る事はない。ので、忘れる事にした。
「原主任。一緒にお仕事しましょう♪」
何時もおかしなテンションを保つ、小隊の名物男が仕事時間が始まってすぐに突然原に声をかけて来た。
同じクラスであったのは1日目だけで、翌日からはスカウトの職につき1組に行ってしまった変わり者。好き好んで戦場に立つ…ましてや使い捨ての職であるスカウトに自ら志願する脳の作りは理解できない。
「…珍しいわね岩田君。貴方整備が厭でスカウトに行ったんじゃないの?」
「フフフ…ダイエットの為に決まってるじゃないですか!あの、体にジャストフィットの武尊を着こなす為に僕は日々涙ぐましい努力をしてるんです★最近ではかなり脹脛が引き締まって来てるんです!見ますか?」
「結構よ。まぁいいわ。丁度仕事も溜まってるし手伝って貰うわよ」
断らなければ岩田は多分その自称・引き締まった脹脛を晒しそうだったので、原はさっさと話を切り上げて岩田を連れハンガーまで向かった。岩田は何時も通り出鱈目な歌を歌いながら上機嫌で原の後を揺ら揺らとついて行く。
「それじゃぁこの書類分けてくれる?士魂号のデータが全部ごっちゃになってるから面倒だと思うけど」
原は椅子に座った岩田に書類の山を渡す。彼は2、3枚ペラペラと捲ると、何も思ったのか、うんうんと頷き、恐ろしいスピードで書類の区分けをしていった。1枚の書類にかける時間はほんの僅かで、見る間に一つの山だった書類が三つの山に分かれていく。
「…岩田君ちゃんと書類見て区分けしてるの?」
「失礼ですね!僕はこれでもそろばん1級なんですよ★これくらい朝飯前です!」
「関係ないでしょ、ソロバンは」
ソロバン1級の真偽以前に、その技能は必要ない書類なのだ。士魂号の調整を整備班や、パイロットがする度に弾き出されるデータで、それは機体毎に一括して弾き出されない。2番機だろうが、3番機だろうが、調整すればその上に弾き出されるのだ。1日放置しただけで膨大な量になる。その大量の書類の中に書かれる固体識別番号を探し出していちいち分けなければならない。
「フフフ、任務完了です★イワッチの脳内スーパーコンピューターに掛かれば大した事じゃありません」
綺麗に分けられた書類を満足げに見ると、岩田は出ても無い汗を拭う真似をして清々しい顔をする。
流石の原もそのスピードに驚きの色を隠せない。
「次のお仕事は何ですか?」
「…じゃぁ、火気整備頼める?」
「任せてください★この日の為に『危険物取り扱い免許』を取って置いたんです!」
原は呆れながら、整備の手筈を岩田に教える。珍しく黙って話を聞いていた岩田は、またもや、うんうんと頷くと早速仕事を始める。
岩田の纏めた書類をファイリングしながら原は彼の方を見る。
―─スカウトにしておくのは惜しい腕よね。
彼の整備技能は他の人間より良いのは事実で、原には劣る物の、少なくとも森と同じ位の整備の腕は持っている。整備班の中では危なっかしい整備をする人間も居ると言うのに、彼はその心配が無いのだ。
鼻歌を歌いながら整備をする岩田は絵に描いたような上機嫌さだった。
そもそもこの男が不機嫌そうな顔をしているのを見たことが無い。
何時も歌を歌いながら学校中を走り回っているし、人に話し掛ける時もオーバーアクションで、初めこそそんな岩田を敬遠する人間が大半だったが、何人かとは打ち解けているようだった。例え相手が彼に対して冷たい言葉を放っても、彼はめげる事無く再び話し掛ける。それを延々と繰り返すのだ。
「貴方何時も上機嫌ね。何がそんなに楽しいの?」
原が何気なく聞くと、岩田は作業中の手は止めずに返事をする。
「電波の指令ですよ」
「おめでたいのね、電波の送り主は」
「…多分。でなければ僕に電波なんて送らないでしょう」
原は嫌味で云ったつもりだったのに、岩田は真面目な顔で返答する。本当に電波などと言う物があるとは思えないが、彼は『電波』を本当に送られているのかもしれないというきに少しなってしまった。
「電波の送り主は何て云うの?私の仕事を手伝えって?」
原は最後のファイルを纏めると岩田に再び聞く。
「…歌を歌うんですよ。延々と。だから僕も歌うんです」
イワッチ王国此処は箱庭電波な王様舞を舞う
イワッチ王国此処は戦場運命を変えよ彼が言う
イワッチ王国此処は楽園全てを赦せと君が言う
何時も彼が歌う出鱈目な歌は同じでだしから始まる歌。
誰でも知っているメロディーに乗せられ、彼はそれを飽きる事無く延々と歌っている。
「だから、王国を作るんです」
嘘なのか本当なのかなんて判断がつかない。
唯、彼はそれをあたかも真実のように語る。
馬鹿正直に『王国』とやらを作るつもりなのか。
「お仕事完了しましたよ」
岩田の言葉に原は我に返る。彼は油の付いた手をタオルで綺麗に拭くと立ち上がって原の方を見る。
「…ご苦労様」
「原主任」
「何?」
「一緒に訓練しましょ」
再び持ちかけられた岩田の提案に原はポカンと口を開ける。
「ダイエットも一人でやっても中々効果は出ないんですよ★一緒にスリムな体を目指しましょう!!」
結局それから日付が変わるまで、訓練やら、仕事やらに引っ張りまわされ、原はクタクタになって再びハンガーへ戻る。
「原主任★」
「待って」
岩田が再び何かを言いかけた時に原はそれにストップをかける。
「何ですか?」
「私もうクタクタなの。今日は此処でおしまい。良いでしょ?」
「そうですね。続きは明日にしましょうか。そうだ」
岩田は思い出した様に左手を原の前に出す。理由が解らない原が、取り合えず差し出された岩田の左手をじっと見ると、彼は少し笑って手を出してくださいと言う。云われたままに右手を出した原の掌に岩田は右手に持っていた物を乗せる。
「ミカン?貴方の左手は何だったの?」
「そう、ミカンです。左手は気分です。気にしないで下さい」
「…くれるの?」
「フフフ…美容には睡眠とビタミンが重要!今日はそれ食べてぐっすり寝ちゃってください!!それでは僕はこれからスカウトのお仕事に行きます!アデュ―─★」
相変わらずの可笑しな歩き方でハンガーを出る岩田を見送りながら原は呆然とする。何故ミカンなのだ。そして、彼はこれからまだ仕事をすると言うのか。
***
原は辺りを見回しながら小隊長室に入ってゆく。
何時もの指定席で仕事をしている善行は顔を上げると、原から書類を受け取る。
「相変わらず早いですね」
「…こっちは数日岩田君に突き合わされてクタクタよ」
「捗って良いじゃないですか。彼事務作業早いでしょう?これ、新しい書類です」
善行から書類を受け取った原が、封筒の中身を確認していると突如小隊長室の扉が勢い良く開く。
「原主任★今日も仲良くお仕事しましょう★」
もう顔を見なくても誰が入ってきたのか解る。自称・王様スカウト・岩田裕だ。思わず頭を抱えたくなる原を見て善行は口元を緩める。
「明日には出せそうですねその書類」
「貴方岩田君とつるんでるの?何で毎日ここに来る度に彼に捕まるのよ!!」
「彼の電波が貴方の居場所をキャッチするんでしょ」
しれっと云う善行を思わず睨み付けながら原は踵を返すと、行くわよ岩田君!と怒ったような口調で彼に向かって云う。
「…彼と仕事するのが厭なんやったら断れば良いのに…何で提案受けるんやろ」
奇妙な2人組みを見送りながら原に対して、加藤は不思議そうな顔をする。
「何だかんだいって仕事が捗るのが良いんでしょ彼女は」
「そんなもんでしょうかねぇ」
毎日渡される1つのミカン。
毎日日付が変わるまで続く仕事。
兎に角忙しい。
なのに岩田は疲れた顔を見せもせずに上機嫌に仕事やら訓練やらに明け暮れる。
何が彼をそうさせるのか。
何気なく昼休みに屋上へ行ってみた。昼休みが終わればまた彼と一緒に仕事をする事になるのだろう。
すると其処には意外な人物がいた。
石津萌
一人でお弁当を広げ昼食を取っている。
―─彼女は何時も一人でお弁当を食べているのだろうか。
此処数日よく考えたら顔もろくに見ていなかったのではないか。元々クラスも仕事場所も違う。彼女はお弁当箱を片付けると、足元に置いてあった巾着袋から何かを取り出した。
―─ミカン?
それを見て急に笑いがこみ上げた。彼女も岩田にミカンを押し付けられたのか。そもそもこの私でさえ断る間もなく押し付けられているのだから、引っ込み思案な彼女は断ることなどままならないだろう。
そんな事を考えていると、彼女がゆっくりと此方を見た。彼女は少し驚いた様な顔をしたが、少し頭を下げ視線を再びミカンへ戻す。
「…岩田君から貰ったの?」
原が穏やかな口調で声を掛けると、彼女は小さく頷いた。驚いた事に、彼女は傍にあった椅子を引き寄せると、…座る?と聞いてきたのだ。今まで彼女が何かを提案すると言う事を見たことが無かった原は少し驚いた表情を見せるが、そうさせてもらうわ、と彼女の傍の椅子に腰を掛ける。
「…私…そばかすが…多いの…その事…を、彼に…言ったら…くれたの」
先に話を続けたのは彼女の方だった。手に持ったミカンを頻りに手の上で転がしながら小さな声で言葉を紡いだ。
「そばかす?」
原の言葉に彼女は小さく頷く。彼女の顔にそばかすがあるなんて気が付かなかったのだ。そもそも、彼女は普段から俯き加減なので余り顔がよく見えない。もしかしたらそれを気にして自然に俯き気味になっているのかもしれない。
「それでミカンね。美容にはミカンって信じてるのかしら」
原は少し呆れたように云う。余りにも短絡過ぎるのではないか。
「私…人…から…何かを…プレゼント…された事…無かったから…嬉しくて…お礼を云ったの。そしたら…」
「そうしたら?」
「…次の日…に…木箱…一杯の…ミカンをくれたの…」
安易に想像出来るミカン箱を抱えた岩田。さぞかし彼女は困ったであろう。木箱一杯のミカンがあれば一冬越せる。
「…毎日食べてるけど…減らなくて…痛ませて捨てるのも嫌だから…詰め所に来た人に…渡したの…そしたら…皆お礼を言ってくれるの…少しづつ…皆と話を出来るようにも…なった…」
初めは滝川陽平だった。
お腹を空かせていたのか彼は目ざとく詰め所の隅に置いてあった木箱を発見し、石津に声をかけた。
「美味しそうなみかんだな…そういえば今年はまだ食べてないなぁ…」
「…いる?もらい物だけど…沢山あるから…」
「え!?いいの?サンキュー!!」
嬉しそうに箱の中を覗き込み、大きいみかんを選んで滝川はそれを手にとる。早速一つの皮をむき口に入れる。
「結構甘いなぁ。でもいいの?本当に」
「痛んで捨てるのは…嫌だから…本当は…他の人にも…配りたいんだけど…」
そう言うと、石津は俯いてしまう。元々話すのは苦手な上に、小隊の中で親しい人間も少ないのだ。滝川がそこまで察したかどうかは謎だが、そうかー、と言いながら残りのみかんをほおばる。
「じゃぁさ。速水とか、師匠とかにも声かけようか俺。師匠なんかコタツに入ってみかんなんて似合うだろうなぁー。結構年寄り臭い所あるしなー」
「…いいの?」
「え?別にここでみかん余ってるって言うだけだろ?余り広げたら俺の分なくなっちゃうかなぁ。あ、岩田にも声かけよう!!」
そう言うと、滝川はごちそうさまー、と言って早速速水たちの所へ走ってゆく。石津は驚いてそれを見送っただけだったが、暫くすると、何処から聞きつけたのか小隊のメンバーが順々に顔をだしにきたのだ。滝川に声を掛けられたであろう瀬戸口に至っては、『コタツも無料配布してくれないかなぁ』などと言いながら帰っていった。
そうしてるうちに、色々と話をする機会も増えていった。田辺は財布を落として昨日から何も食べていないから家族の分も持っていっていいかと言っていたし、中村はそのうちみかんを使ったデザートを作ってくれるといっていた。芝村は入り口でだいぶ長い間ウロウロして、結局若宮と一緒に恥ずかしそうに詰め所へやってきた。
一人になった時に。大分減ったみかんを眺めている時に。瞳を伏せて彼の事を思い出した。
最近は忙しいのか以前ほど頻繁に遊びに来なくなったが、それでも、私はもう十分に彼良くしてもらった。
…だからこそ、私は変わりたい。
少しづつでも変わって彼の為に何かしたい。
「私…彼の役に立ちたいの…」
石津がぎゅっと小さな手に力を入れるその様子を見て、原は空を仰いで椅子にもたれ掛かると片手で顔を覆う。
―─私は…なんて浅ましいのだろう。
彼に感謝などしただろか。
仕事を手伝ってもらっても、みかんを貰っても、それが当たり前のように思って居た。
何時しか、
私は人より優秀である事が当たり前になってしまった。
昔は人より出来るように努力して、達成感を噛み締めて、目標に向かうこと自体が楽しかった。
到達してしまったの知らないうちに。
止まってしまったのだ気が付かないうちに。
到達してしまえはそこには何も無い。
遠回りする事だって出来たはずだろうに。もっと遠回りを楽しむ事も出来ただろうに。最短距離で到達してしまったのだ。そして私は完成され何もなくなってしまった。
原はゆっくりと視線を石津に戻すと、彼女の俯き加減な顔を見る。
―─彼女は変わろうとしている。私は…まだ変われるだろうか。
イワッチ王国此処は箱庭電波な王様舞を舞う
イワッチ王国此処は戦場運命を変えよ彼が言う
イワッチ王国此処は楽園全てを赦せと君が言う
彼の歌う出鱈目な歌は電波の指令だと彼は言う。
けれど…彼はその歌を歌いながら王国を作っている。笑われても、馬鹿にされても、無駄とも思える努力を続けて彼は踊り続ける。そしていつかその楽園に到達する為に。王国を完成させる為に。
「…赦してなんて…図々しいわよね…」
原が呟くように言う。もっと沢山の物を見ればよかった。もっと沢山の事を知ればよかった。岩田が王国を完成させる為に何でもやるように…自分の為だけに最短距離で走るのではなく…。
「私…貴方の事…嫌いじゃないわ…」
石津の言葉に驚いて原は彼女の顔を凝視する。嫌われていない筈が無いのに。私は貴方を傷つけたと言うのに。
「…原さん…責任感…強いもの…それは…大事な事で…小隊を…運営していく事には…不可欠…だわ…。仕事が…遅れているのを…注意しても…仕方ない…もの。今は…まだ…駄目だけど…もう少し…私が…仕事が…出来るようになったら…貴方に…教えて欲しいこと…沢山…あるの…。だから…いつか…」
―─御免なさい。そして有難う。
石津の言葉を聞きながら原は声にならない言葉を吐いた。本当に愚かなのは私だと。貴方は私を悪く言わないのねと。その気持ちは懺悔にも似ていたかもしれない。彼女は知っているのだ。嘆いても、泣いても、何も変わらない事を。彼女は…自分でちゃんと歩こうとしている。私は立ち止まったままだというのに。
「―─私の授業料は高いわよ」
「…みかんじゃ…駄目?」
石津が差し出したみかんを原は笑いながら受け取る。そしてゆっくりと立ち上がると、石津の耳元に唇を寄せて小さな声で囁く。
「岩田君との事応援してるわよ。…私の息抜きとして貴方達のこと冷やかさせて貰うわ」
原の言葉に石津は顔を赤らめると俯いてしまう。
―─どうせいじめるならこっちの方が私も楽しいわね。
少し原は意地の悪い顔をすると、階段の方へゆっくり歩いてゆく。
折角だから今まで張り詰めていたものを緩めても良いかもしれない。此処はいずれ彼の王国になるのだから。
原が階段を下りると、そこには改造白衣を纏った岩田が此方を見ていた。
「ねぇ…貴方の作る楽園は…私にとっても楽園なのかしら?」
「…万人の楽園は僕は作れませんよ。でも…一緒に作った人にとっては楽園になるでしょうね…」
そう言うと、岩田はゆっくりと右手を原の方へ差し出す。
「一緒に来ますか?原主任」
―─甘い事を並べるだけの楽園ではない。彼はそこへ到達する為に変われと、赦せと、いうのだ。共に戦場を歩こうと。だからこそ…信じられる。
原は差し出された右手を派手に叩くと微笑む。
「楽しませて貰うわよ」
岩田は叩かれた右手を暫く眺めると、満足そうに笑う。
「フフフ…了解しました★王様として国民の為に頑張ることにしましょう★」
此処は箱庭。
此処は戦場。
此処は楽園。
変われない筈が無い。楽しめない筈が無い。又走ってゆける。王国完成のその日まで。
>>あとがき
原主任の王国話です。
この話から察するの、原姐が王国に入ったのはかなり初期のようですね。と言うことはあの王国でのお局様ボジションも納得できますねぇ。実は王国の影の支配者と巷では言われております。
原姐が『奥様戦隊』として活動するのはこの話の後からですね。息抜きしすぎです原姐…(遠い目)良く出来る女であることが当たり前で、何時しかその自分自身に退屈したみたいです。矢張り人生目標に向かって走ってる間が楽しいんですよねぇ。
原姐が石津を苛めていたと言う話はまぁ、有名なんですが、王国では結構仲が良いんですよね原姐と萌ちゃん。本編で岩田が原姐をさそいまくって石津に構えなくした事は書いたんですが、まぁ、そこを煮詰めてこの話にしました。萌ちゃんは初めこそ原の事が嫌いだったかも知れませんが、矢張り変わろうとする努力の過程で、原の責任感の強さとか、仕事が出来る事とか、原姐のプラス面をちゃんと見る事が出来たんだと思います。人間全部が好きって事は難しい。でも、評価すべき事は正当に評価すべきだと思う。
原姐は赦すって事が難しいと思う。自分にも他人にも厳しい人だから。
だから、萌ちゃんがあっさり赦してくれたことに驚いただろうなぁ。
この話去年の年末にかいててもんだから、パソコン壊れてる間色々話考えすぎてかなり長くなってしまったんで、最後の岩田と原のやり取りはカットしました。めっさ長い話があったんですけどね。あっさり『一緒に来ますか?』で終わってしまった。
原姐はいい女に書きたいと思った。
自分のことを『浅ましい』と言い切れる辺りは凄いよなぁ。あそこまで完成された自分を作っても、まだ足りないと思えば変わっていける、何処までもいい女になれる人であって欲しい。
メインの王国話も大分片付いて来たんですが、瀬戸口さんとか、微妙に終わってないですねー。って言うか、もう直ぐ岩田王国書き出して1年になるんですけど(滝汗)本人が一番吃驚してますよ。読んでくれる人がいて、感想を送ってくれる人がいて、まだ走っていけると思っちゃいます(笑)
>>HP移転に伴い一部改行等調整。大筋変更はありません