*昔話秘話(IN岩田王国)*
イワッチ王国此処は箱庭電波な王様舞を舞う
イワッチ王国此処は戦場運命を変えよ彼が言う
イワッチ王国此処は楽園全てを赦せと君が言う
此処は熊本。5121小隊、スカウトの王様のいる場所
***
「ふえぇぇぇぇぇ」
教室の前を通りかかった岩田は、突如教室から聞こえてきた悲鳴とも泣き声とも判断のつかない声が聞こえてきたので中を覗き込むと、そこには東原と舞という珍しい取り合わせの2人がいた。どうやら声の主は東原だったらしい。
「フフフ…どうしたのですか娘達!!この母にお話して御覧なさい★」
「何故母なのだ!!!」
先刻までは東原の悲鳴にオロオロしていた舞だが、岩田の言葉にすかさず突っ込みを入れ華麗に大パンチを放ってくる。無論岩田はそれをかわすと、くるっと体を捻りながら東原の目の前の椅子にスタンと座る。
「で、如何したんですか?芝村さん」
東原の頭を撫でながら岩田が聞くと、舞はうっと言葉を詰まらせそっぽを向く。
「…解らん。ののみが昔読んだ絵本の話をしろというのでその話をしただけだ。…そうしたら『その話は違う』と急に泣き出したのだ」
「何の話をおねだりしたんですか?」
まだ両手で涙を拭いている東原に聞くと、彼女は鼻を啜りながら小さな声で『笠地蔵』という。すると岩田は眉をへの字に曲げて舞の方をむく。
「…作り話したんですか?」
「違う!私が子供の頃に聞いたまま話したのだ!自慢ではないが作り話を出来るほど器用ではない!」
舞の言うことはもっともだ。岩田は作り話は得意だが、舞に限ってそれはない。岩田は溜息を吐くと、東原に僕がお話してあげますよと云う。すると東原は漸く泣き止み上目使いに岩田の方を向き頷く。
岩田としては別にこのまま放って置いても良かったのだが、困り果てている舞をそのままにしておくのも気が引けたので話をすることにしたのだ。実際に本を読んだことがある訳ではないが『笠地蔵』位なら幸い話を知っている。
「ふえぇぇぇぇぇ!!」
本日二度目の東原の悲鳴が教室に響く。
流石の岩田もこの反応に眉をへの字に曲げて舞の方に視線を送るが、舞も如何して良いのか解からないと言う様な表情で岩田の方を見ていた。舞が話の最中、頷きながら話に聞き入っていた所を見ると、舞と岩田が話した内容はほぼ差異はないらしい。しかし、東原は只管違うと首を振りながら泣く。
「…僕のお話間違ってました?」
「いや。私の知っている話と相違はない。そもそも『笠地蔵』は私も幼心に脅えた物だ…東原の反応は間違ってはいないとは思うが…何が違うのだ」
「何やってるんだよ。煩いな」
東原が泣き喚く教室に入ってきたのは意外にも茜だった。それに気がついた岩田は天の助けだと云わんばかりに表情をぱぁっと明るくし、茜の方に体を向けると微笑った。
「ナイスタイミング★大ちゃん!僕は今非常に大★ピンチです!」
「困ってるのは見ればわかる。それよりもその呼び方は止めろ」
相変わらずのぶっきらぼうな物言いだが、彼が態々中に入ってきた所を見ると、困り果てている岩田を助けてやろうと云う意思が僅かに見られる。茜はため息を吐き東原の顔を見る。
「で、何が問題なんだ」
「大ちゃん『笠地蔵』のお話をご存知ですか?」
先刻その呼び方を止めろと云われたのを聞いていなかったのかの様な物言いで岩田が言うが、茜は大して気にしていないのか頷く。
「僕の知っている『笠地蔵』のお話が違うと泣き出したんですよ。芝村さんも僕の知っているお話と同じ物を知っていたんですが…」
「ふん…どう違うんだ?」
茜が東原に聞くと、彼女は鼻を啜りながら顔を上げる。
「あのね。かさじぞーはひろちゃんのはなしみたいにこわくないの。いいおはなしなの」
東原の言葉に茜は思わず半眼になる。茜の知っている『笠地蔵』も田舎くさいが結構良い話だったと思う。一体岩田の知っている話はどんな話だったのだろうか。以前『グリム童話』は本当は怖い話だったという本があったが、日本の昔話にも原典の様な物があってその話は怖いのかも知れないと思った茜は取り合えず岩田に話をしてもらう事にした。
が、岩田の話を聞き終えた茜は思わず半眼になる。東原が泣き出すのも無理はない。と言うか、話をしている途中何度思わず突っ込みを入れそうになった事か。
要約するとこんな話である。
―─昔々ある所にお爺さんとお婆さんが住んでいました。お爺さんは正月を迎える為に、笠を編んで町へと売りに行きましたが猛吹雪の中6体のお地蔵様を見つけました。
頭に雪を積もらせたお地蔵様を気の毒に思ったお爺さんは売り物の笠をお地蔵様に被せてあげました。しかし、笠は5つ。お地蔵様は6体。お爺さんは持っていた手ぬぐいを最後のお地蔵様に被せると、深々とお辞儀をし帰路につこうとしました。すると、
「何でワシだけ手ぬぐいなんじゃい!!」
と突然最後のお地蔵様がお爺さんに襲い掛かりました。驚いたお爺さんは命からがら逃げると、その話をお婆さんにしました。するとお婆さんは笠を売らずに帰ってきた事を責める事無く、
「お爺さんが無事で良かった」
と暖かくお爺さんを迎えてくれました。
―─一方その頃
先刻お爺さんを襲った地蔵は頭を寄せながら地蔵会議を繰り広げていました。
流石にいくら腹が立ったとはいえ、お爺さんが好意で被せてくれた手ぬぐいに不満を漏らしたことを深く反省し、他の地蔵とお爺さんに恩返しをしようという話が纏まったのです。
いかにも貧乏そうなお爺さんだったので、きっとろくな正月を迎えることを出来ないだろうと思った地蔵たちはお爺さんに有意義な正月を迎えてもらう為に作戦を練り、村一番裕福な庄屋の家へ向かいました。
「大変です!!」
「何だ騒々しい!」
転がるように入ってきた使用人を怒鳴りつけると、庄屋は何が大変なのか聞き出した。
「じ…地蔵がうちの蔵を!!!」
「何!?」
そう、お地蔵様達は庄屋の蔵を襲い、ありったけの食料を強奪したのです。
空になった蔵を見る庄屋は吹雪の中…何故地蔵が…とうわ言の様に呟きなが呆然とするしかありませんでした。
「?今何か外で物音が」
夜中物音で目が覚めたお爺さんがそっと扉を開けると、そこには正月を迎えるに十分な米や野菜が並んでいました。お爺さんは慌ててお婆さんを叩き起こすと、遥か彼方に見えるお地蔵様の背中を拝んだのです。その背中はとても大きく見えました。
そうしてお爺さんとお婆さんは幸せなお正月が迎えられたとさ、めでたし、めでたし。
大方東原は蔵を強襲する地蔵の姿を思い浮かべたのだろう、ガタガタと震えている。こんな話を聞いた後ではうっかり地蔵に手を合わせることも叶わないだろう。
「…で、その話の教訓は?」
日本の昔話は教訓が含まれている事が多い。『貧しくても正直に』『情けは人の為ならず』とかそういう物なのだが、一体この話の何処に教訓があるのか理解し兼ねた茜は取りあえずそこに突っ込んでおくことにした。
「うむ、『過剰な富は身を滅ぼす』という教訓だ」
舞が自信満々に胸を張って云うので茜は思わず肩を落とした。…心優しいおじいさん云々ではなく、庄屋がメインなのか…とそれに対して疑問を抱かない舞と、岩田に思わずあきれる。
「僕が知っている話とは違う」
「え!?」
岩田と舞がほぼ同時に声を上げたので仕方なく自分の知っている笠地蔵の話をしだす。それを話している間は東原は元より、岩田と舞もまるで子供が初めての話を聞くように茜の話に聞き入る。茜にしてみれば、岩田は専門知識等については人一倍知っているくせに、こんな話を知らないことが意外でもあり、驚きであった。東原は岩田の隣で頷きながら満足そうに微笑んでいた。
「…めでたし、めでたしで終わりだ」
茜が話を終えると、舞と岩田は驚いたというような表情で茜を見る。
「ひろちゃん。まいちゃん。これがおじぞーさまのおはなしなの。いいおはなしでしょ?」
岩田の方を見ながら東原が云うので、岩田は東原の頭を撫でて頷く。
「し…知らなかった…とても良い話ではないか…私は…父から聞いた話を鵜呑みにして…他の者にも話をしてしまったぞ…」
「安心しろ。大概は子供の戯言だと流してくれる」
舞が顔を赤くしながら、昔の自分の愚行を恥じていると、茜はそれに対して一応フォローをいれておく。恐らく話を聞いた人間で舞の話を鵜呑みにした人はほとんどいないだろう。
「ちゃんとおはなしおぼえてくれた?またののみにおはなししてね、ひろちゃん、まいちゃん。あとはね。ありがとーだいちゃん」
東原が2人の方を見た後に、茜に向かってぺこっとお辞儀をする。茜は僅かに頬を赤らめそっぽを向く。
「…もう泣いて岩田を困らせるなよ…」
ぶっきらぼうに、そして少し恥ずかしそうに云った茜は、仕事に行くといって立ち上がった。
「フフフ…僕もお供します。それでは可愛い娘達よアデュー★」
「ばいばい。ひろちゃん、だいちゃん」
東原は自分の望む話が聞けたのでご満悦なのか、上機嫌に手を振る。それを見ながら岩田は少し申し訳なさそうに微笑うと、東原の方を向く。
「今度図書館で昔話を勉強してきます。貴方が泣かなくて良い話を」
「うん。いっぱいおはなししてね」
岩田の言葉に東原は嬉しそうに頷くと、まいちゃんも一緒に聞こうね、と言う。本来なら付き合いきれない等と云いそうな物だが、東原の提案を邪険にするのも気が引けるうえに、自分の無知さ加減のお陰でかかなくて良い恥をかいてしまったという事もあって、舞はその提案を受理する。恐らく次に昔話を聞くまでに、舞は本を読み漁るのだろう。
「…誰から聞いたんだ?あんな怖い話」
仕事をしている茜が隣でくねくねと動く岩田に半眼で聞くと、岩田は漸くその奇怪な動きを止める。
「昔…怖い話を聞いて眠れないと駄々をこねた子がいたんですよ。その子から聞きました」
「…疑わなかったのか?」
「昔話は…余り知らなかったんですよ。作り話を出来るような子じゃなかったのでそのまま信じました。フフフ…イワッチったら馬鹿正直★」
最後の方は茶化したように云ったので、岩田の話が本当かどうかは信用しかねるが、多分岩田は本当に茜の話した傘地蔵の話を知らなかったのだろう。
「フフフ…次の東原さんとのお話会には大ちゃんも来てください★本日かいた赤っ恥を挽回させて下さいね!!」
「…暇だったらな」
茜が仕事を終えて帰った後、岩田はすっかり暗くなった空を見上げて苦笑する。
―─貴方が舞に話した話だったんですね…ユーリ。
彼から聞いた話だと解っていたらちゃんと調べて確認していたに違いない。大泣きした東原の顔を思い出し悪い事をしたと反省する。次は楽しい話をしてあげよう。そう考えながらゆっくりと次の仕事へ向かう。
>>あとがき
キリ番リクエストが岩田v東原だったので取りあえず2人を出そうと言うコンセプトで書いたのですが、恐ろしくラブってませんね(苦笑)後に開かれたであろうお話会ならもっとほのぼのだったんでしょうが…(汗)
笠地蔵の話は昔私が、地蔵は何処から野菜や米を持ってきたのだろう、とか、一人だけ手ぬぐいで不公平だと疑問に思っていた物を文章化したものなんですが、めっさ怖い話ですね…地蔵の蔵強襲は想像するだけで恐ろしい。って云うか、昔話に疑問を抱くなよ昔の自分(笑)
岩田王国では東原と茜が初登場ですな。茜は勧誘話が諸事情でUP出来ない状態なので此方が先となりました。…個人的には茜v東原推しなんですがね(微笑)
それではこれはキリ番21000を踏んだうに様へ。全然リクエストに応えてないような…(滝汗)
>>HP移転に伴い一部改行等調整。大筋変更はありません。