*災難厄日(IN岩田王国)*
イワッチ王国此処は箱庭電波な王様舞を舞う
イワッチ王国此処は戦場運命を変えよ彼が言う
イワッチ王国此処は楽園全てを赦せと君が言う
此処は熊本。5121小隊、スカウトの王様のいる所
***
3番機のパイロットになってからどれ位たっただろうか。久しぶりの前線の仕事にも漸く慣れてきたある日。
善行が何時も通りにハンガー二階へ上がるとそこには滝川がいた。
仕事をしている訳でもなさそうなので何気なくその様子を伺うと、角の方になにやら空き缶を並べているので気になって暫く眺めている事にした。
綺麗に空き缶を並べ終えると、滝川は誰かが置いていったのか既に忘却の彼方であったバスケットボールを手に取ると、その空き缶から離れてそのボールを抱え暫く空き缶を凝視している。
そして滝川がそのボールを空き缶の方にに転がした時、漸く善行は滝川が何をしようとしているのか理解する。
アンダースローで投げらたボールは逆三角形に並べたれた空き缶に命中し、缶を全て倒す。
「ストライクですね」
「うわぁ!」
善行の声に驚いた滝川は大きな声を上げて振り返る。
それを見て善行は僅かに笑うと、滝川の倒した空き缶を再び綺麗に並べだすとボールを滝川に渡す。
「ボーリングの練習ですか?」
「…うん。この前速水達とボーリングに行ったんだけど、俺ブービー賞だったんだ。格好悪いから何とか巧くなりたいんだけど一位だった師匠は『俺は女性専属のコーチだから♪』って云って教えてくれないし…」
瀬戸口の言いそうな事だと納得しながら善行は思わず頷く。多分頼んだのが女性なら手取り腰取り…否、足取りコーチしてくれたに違いない。流石初めての自己紹介で『野郎共はさようなら』と豪語しただけある。
しかし、ブービー賞が格好悪いと云う位だから大人数で遊びに行った様だ。
「誰と行ったんですか?」
「えっと、速水が遊びに行くって言い出して…師匠と狩谷と岩田と行った」
そう云えばこの前の日曜日は岩田が石津とデートに行く様子は無いと原が云っていたような気がする。だから奥様戦隊の出撃は若宮と舞のデートに決まったのだ。野郎共のボーリングに原は興味なかったらしい。
「…岩田君に教えてもらったらどうですか?」
「駄目だよ。岩田が最下位だったんだもん」
「は?」
「お陰で狩谷が岩田の助言をあれこれしたもんだから速水と揉めて大変だったんだぜ…。何であんなに仲悪いのに狩谷も速水の誘いに乗っちゃうかな…」
速水と狩谷の揉め具合が安易に想像付くのが実に物悲しいが、多分狩谷は岩田がその提案を受理すると踏んで受けたに違いない。これで岩田が提案を却下した時の事など恐ろしくて想像したくない。
しかし意外なのは岩田がボーリングが下手であると言う事だ。運動神経も悪くないだろうし、何でもそつなくこなす彼がボーリングが苦手と言うのは想像し難い。それでも楽しそうにしていたと滝川が言うのだから嫌いではないのだろう。
「あーあ。何とか巧くなれねぇかなぁ…。空き缶ではストライクでも本番で巧くいかねぇし」
滝川はゴーグルに手を当てながら溜息を付く。
「…コーチして差し上げましょうか?」
「え?」
「こう見えても結構自信あるんですよ」
「良いの!?サンキュー!!岩田に頼めねぇしどうしようかと思ってたんだ!」
嬉しそうに云う滝川を見て善行は思わず顔が綻ぶ。こんなに喜んでもらえるとは思っていなかったのだ。原が何かと滝川に構いたがる気持ちが解らないでもない。手の掛かる弟のような物なのだろう。
「それでは日曜日に遊びに行きましょうか」
「よっしゃー!OK!」
「フフフ…テンション上げていきましょう」
「解ったわ。本気を出させてもらうわ」
あらぬ所から返事が聞こえて善行は驚いて辺りを見回すと階段の所に原、そして士魂号の影に岩田が上機嫌で立っていたので思わず頭を抱えたくなる。
「…立ち聞きしてたんですか?」
「あら。ハンガーに居るのは整備主任としてのたしなみよ♪」
「フフフ…国民の仕事の様子を視察するのは王様としてのたしなみ★」
…そんなたしなみは要らないだろう…と善行は心の中で突っ込むが多分口に出した所で彼等は涼しい顔で聞き流すに違いない。溜息を吐きながら眼鏡を上げると、岩田はウキウキと善行の側による。
「フフフ…僕にも手取り腰取り教えてくださいね★」
…日曜日が来るのが怖くなった。
***
日曜日。
正直言ってこんなに憂鬱な日曜日は初めてである。岩田の事だから約束など忘却の彼方だろうというかすかな希望も校門前にクネクネと挙動不審に待ち構える彼の姿をみて消え失せてしまった。
「フフフ…貴方が最後ですよ。それでは張り切って行きましょうか★」
…何で馬鹿正直に来てしまったんだろうと後悔しながら善行はスキップで先を行く岩田の後を付いて歩いてゆく。
「ダブルスにしましょうか」
原の突拍子の無い提案に思わず口を開く善行だったが、ダブルスなら滝川にボーリングを教える事に集中できるだろうと思い受理するが、その後の原の言葉を聞いてから判断すれば良かったと海より深く後悔する羽目になる。
「私は滝川君と組むわ。滝川君も女の人に教えてもらった方が良いわよね」
「な!?滝川君は私が教えると約束を…」
善行が慌てて云うが、それを聞いた原は半眼になって善行を見据える。
「あらやだ。ホモの上にショタコンで生足なんて最低ね」
「…コレは制服なんですよ…」
涙で前が見えなくなりそうになりながら辛うじて反論をするが、原は聞く耳持たずに滝川と仲良くボーリングの球を選びに行く。
絶望の最中、善行の前では岩田がウキウキと荷物の中からボールを取り出すとそれを上機嫌に磨き始める。
「フフフ…心配しなくても僕は負けませんよ★今日はマイ★ボール持参ですからね!」
それを見た滝川は岩田のボールを珍しそうに眺める。
「いいなぁ。俺も巧くなったらマイボール欲しいなぁ」
「フフフ…見て下さい!バッチリイワッチ仕様ですよ!!」
高々と掲げられた岩田のボールには『王様専用』とでかでかと書かれており、それを見た滝川は瞳を輝かせる。
「はいはい。岩田君も絶好調みたいだし、勝った方が此処の代金奢るで良いかしら?」
「その勝負受けましょう!!」
原と岩田の勝手な賭けに善行は慌てて止めに入るが、岩田は心配ないですよ★と云うと椅子に座ってへらっと笑う。
滝川は原にあれこれと指示を受けながらボールを投げる。岩田仕込みの素直に人の行った通りにする性格の所為か、それとも原の教え方が良いのか中々の成績を収めてゆく。
「よっしゃー!!」
ガッツポーズで戻ってくる滝川を原は笑顔で迎えちらりと善行を見る。
「この様子だと私たちの勝ちね」
「…」
善行にはもう言い返す気力も無い。
一人がよい成績を収めても限界がある。
そう、
問題はこの男なのだ。
善行の視線の先にいる岩田はマイ★ボールをしっかり抱えレーンに立つとクルッと振り返り善行に手を振る。
「フフフ…このショットは貴方に捧げます★」
「ほらほら。手を振り返してあげなさい」
原は無理やり人形のように力ない善行の手を振る。彼としてはもうどうでも良いのだろう、反論も抵抗も無い。
「善行君に届け僕の愛!!!!」
そう云うと、岩田は勢良くボールを放つが、恐ろしく明後日の方へ行ったボールはガコンとレールに落ちる。
「バッチリ届きましたよ、貴方の投げやりな気持ちが」
「ノ――――。今のは無しです!!僕の溢れんばかりの愛が暴走したんですよ!」
善行の半眼の台詞に岩田がダッと立ち位置から走って大袈裟なゼスチャーを交え言い訳をすると、やれやれと云うように善行は立ち上がり、自分のボールをもつ。
中途半端にピンを倒されて狙い難いよりはましだが、そうそう完璧にストライクを出せる訳でもない。一度の失敗が相手との差を広げかねないのでどうしても慎重になる。
綺麗なフォームで投げられたボールは善行の手を離れ緩やかなカーブを描いてピンを捉える。
「ナイスストライク」
原はにこやかに善行に云うが、彼の表情は相変わらず曇ったままだった。
「フフフ…貴方の愛は確かに受け取りましたよ」
「…受け取らなくて良いですよ」
…ストライクの度にそう云われ続け既に言い返す気力も大分失せていた。
早く終われ…そればかり考える善行を意地の悪い笑いで眺める原はご満悦の様だった。
***
「清算よろしくね」
案の定大負けした善行・岩田コンビは清算をする為にカウンターまで行く。
それを見送ると、滝川は原の方を見てにこっと笑う。
「今日は有難う原姐。大分上達したし。でも、奥様戦隊はよかったの?」
そんな滝川の頭を原はグリグリと撫でると悪笑いを浮かべながら目を細める。
「抜かりないわ。気が付かなかった?若宮君と芝村さん此処でデートしてたのよ。仲良くって羨ましいわ」
滝川は驚いて辺りを見回すが、それらしい人は見当たらない。多分ゲーム中も原は彼等の事を観察していたの違いない。恐るべし奥様戦隊と思いながら滝川は原を見る。
「何でも出来るんだな原姐は」
「私は欲張りだから楽しい事は両方したいのよ。今日は有意義な1日だったわ」
奥様戦隊の仕事も、善行苛めも満喫した原は実に上機嫌だった。
岩田のほうに手を差し出した善行を見て岩田は意外そうな顔をする。
「何ですか?」
そう云って岩田は取りあえず差し出された手を握るが、善行は慌ててそれを振りほどく。
「お金ですよ!此処の料金貴方と私でワリカンでしょ!」
「ありませんよ」
「は?」
「僕は溢れんばかりの美貌と人望はありますがお金と力は無い色男なんです」
まるで瀬戸口が言いそうな言い回しに思わず善行は口をぽかんと開けるが、直ぐに半眼になる。
「…初めから私に払わせるつもりだったんですね」
「勝つつもりでしたよ」
仕方なく善行は4人分の代金を払い溜息を付く。岩田は階級も低く、給料も自分の半分以下だと知っていても何だかやるせない気分になる。
***
帰り道、原と滝川と別れた善行と岩田はコレと言って会話も無く、岩田の上機嫌な鼻歌を聞きながら歩いていた。
「…貴方昔ボーリング得意だったでしょ?」
「良くご存知ですね」
ぴたっと鼻歌が止み岩田は意外そうな顔をして返事をした。
その顔をみると善行は呆れた顔をして眼鏡を上げると溜息を吐く。岩田は元々科学者ではあるが運動が全く出来ない訳ではない。むしろ、今のスカウト職から考えれば昔より巧くなってる事はあっても下手になるなどありえない。
何よりもわざと下手な振りをしているようにしか見えない無茶苦茶な投げ方だった。
ずっと昔に、それこそ岩田がまだ芝村の科学者として研究所にいた頃に何かのボーリング大会…それこそ芝村の気まぐれで開催されたのだろうが、そこで彼を見かけた。
その時は岩田の名前などよくは知らなかったし、遠目で見ただけではっきり顔も確認していないのだが一緒に出た友人が岩田の事を教えてくれたのだ。その時遠目から見ても解る恐ろしく神経質な、そして綺麗なフォームは今でも良く覚えている。
「昔一度貴方がボーリングしてるのを見たんですよ」
「フフフ…僕は此処に来て『王様イワッチ』として生まれ変わったのです!昔の僕の事なんて忘れちゃってください★」
大袈裟なゼスチャーを交え岩田はくるりと歩きながらターンをする。
「わざとですね。今日のゲームは」
「…負けるのが楽しい人は居ないでしょ?」
「私は負けても良いんですか?」
「貴方と僕は運命共同体!」
「なった覚えはありません」
滝川がボーリングが下手なのを気にしているの知っていてわざと最下位に甘んじていたのだろう。途中から薄々感じてはいたが、問題はそこではない。何故自分が岩田に翻弄されなければならないのか。
「貴方なら躍起になって勝負を勝ちに行かないと思ったんですよ」
岩田はそう云うと再び鼻歌を歌いながら歩き出す。
…そう云う事か…
滝川がダブルスを組んで負ければ脚を引っ張ったと気にしかねないと思ったのか。
「…つくづく王国の人間には甘いんですね」
「僕は王様ですからね★それでは僕はこっちですから此処でバイバイです。それではアデュー★」
溜息混じりに善行が云うと岩田は笑いながら手を振る。
それを見送りながら善行は軽くなった財布と今日一日で磨り減った神経を思い肩を落とす。
明日には奥様戦隊の仕事が待っている。
精々ストレス発散に利用させてもらおうと心に決め、お空のお星様を数えながら岐路についた。
>>後書き
キリ番リクエストの善行SSで御座います。
王国話でも、エンゼル★イワッチ話でも良いということでしたので両方の要素を入れました。原v滝川チックな善行王国話。
…リクエストに答えてるのか?って云うか、善行さん苦労したおしなんですが(微笑)
本当は若宮v舞要素も入っていたのですが、それが入ると3ページに及んでしまったので泣く泣く削って微妙にニュアンスだけかもし出してみました★…奥様戦隊はストレス発散だったのね善行さん(笑)
岩田とボーリングに行ったことなかったんですが、この前エンゼル★イワッチプレイで『一緒に遊ぼう』提案を久々に使って行ってみたんですが…下手なんですね彼…(遠い目)善行さんはファーストマーチで舞ちゃんに誘われ3人で行ったので印象深く覚えてたんですが、結構そつなく何でもこなしそうなタイプですよね彼は。
善行さん好きなんですが、岩田と組ませるとろくな話が書けないので申し訳ないです。
いっその事王国に入ったほうが幸せだったかも(微笑)
それではこの話は17000ヒットと20000ヒットをダブルで踏んだラッキーガール・たちゃ様へvv
>>HP移転に伴い一部改行等調整。大筋変更はありません。