*仮面呪縛(IN岩田王国)*
イワッチ王国此処は箱庭電波な王様舞を舞う
イワッチ王国此処は戦場運命を変えよ彼が言う
イワッチ王国此処は楽園全てを赦せと君が言う
此処は熊本。5121小隊、スカウトの王様が居る場所。
*
3番機パイロットの速水厚志は熱心にグラウンドで走り込みを続ける岩田を眺めながら小さく溜息を吐いた。
彼と共にいると自分の中の何かが段々と姿を現してくるのが解る。最近それがはっきりと自覚できる様になってきた。
嘗て、
研究所に自分はいた。
そこを出る為に自分が行ったのは、今まで自分を苦しめてきた薬物での研究員の虐殺。
余りにも簡単に事は運んだ。
皮肉な話だ。
強運は、
常に自分の元にある。
その気になれば世界さえ変えられるかもしれない。
小隊に来ると同時に嘗ての自分は捨て去った筈だった。
穏やかに日々を過ごすために。
それは、捨てたのではなく押し込められていただけだと気が付いたのは最近の事だ。
力が必要だ。
この楽園を守る為に。
力が必要だろう?
この男を守る為に。
「如何したんですか?速水君」
先ほどまでグラウンドを走り回っていた男は何時の間にか側に立っていた。
整備員上がりのスカウト。
誰もが彼を笑っていたのは何時の事だっただろう。自殺願望があるとしか思えないその行為を。
「…君を見てるとね…何もせずにぽややんとしてるのが馬鹿らしくなるよ」
「そうですか?僕は好きで色々やってるんですから貴方が気にする必要は無いんですがねぇ」
「僕はね…一度全てが厭になって研究所を飛びだして来たんだ…研究員を全員殺して」
少しは驚くだろうと思ったのにも関わらず、彼は一言知ってますよと云っただけだった。
…ああ、何でも知ってるんだね君は。知ってて僕を友達だと云っていたんだ…受け入れたんだ。
僕を見る彼は何時もと変わらず挙動不信で妙に笑えた。
「…ねぇ岩田君。君の望みは何?」
「フフフ…秘密です」
「教えてくれないんだ…ちょっと残念だな」
彼は何の為に王国を作ったのか。
彼は何の為に王様をやっているのか。
彼は何の為に戦うのか。
知りたいことは沢山あった。
「速水君。君の望は何ですか?」
彼の言葉に一瞬寒気に襲われた。
僕の中で…青い悪魔が笑った。研究所を出た時のように…また囁きだした。
「…僕は…」
青い瞳、青い髪、うっすらと微笑を浮かべた僕は何時でも僕を見ていた。
可笑しいだろう。
僕が穏やかに過ごしていた日々が。
可笑しいだろう。
望めば全てを手に入れられるのにその手段に目を背けていた事が。
「貴方は望めば幻獣も…人類さえも滅ぼす力があります」
彼の言葉に思わず顔を上げるが、表情は全く読めない。
まるで違う誰かが其処にいるような気がしてきた。
少なくとも『王様』であった筈の彼は何処にもいない。
…ああそうか…君も僕と似てたんだ。
沢山の自分を飼っている。
統合されない幾つもの自分。
君は僕と違ってそれを完璧に制御できている。
思わず目を細めると急に笑えた。
自分は何を迷っていたのだと。
どちらが本当の自分か迷う必要はない。
どちらも本当の自分なのだ。
青い悪魔も。今此処で迷っている自分も。
「…僕は国の守護者になる。君を守るよ岩田君」
君と居れば僕は自分を否定せずにいられる。青い悪魔も飼っていられる。
『王国』の維持を君が望むなら僕はそれを守ろう。
『戦場』に赴く事を君が望むなら僕も其処へ行こう。
一緒に歩いてゆこう。君の望む世界へ。
「フフフ…僕は世界の裏切り者です。貴方まで巻き込まれますよ」
「僕は望めば全てを滅ぼせるんでしょ?巻き込まれても問題ない」
あの時青い悪魔…否、僕は自分の為だけにその力を振るった。
自らの願望の為に振るわれた力は余りにも強大で一瞬にして等しく滅びを齎した。
一つ枷をはめるだけでいい。
王国と言う、君と言う枷を。
尽きない自らの願望の侭に力を使えば本当に全てを滅ぼすだろう。
だから君が望む選択を消す事がない様に、力を振るう事にしよう。
それで良いだろ?
青い悪魔が微笑を浮かべた。
『その答えはYesである』
そう…一緒に行こう。
これから『青い悪魔』は僕に必要なんだ。
彼を守る為に。彼の望みを守る為に。
僕が僕である為に。
*
岩田は屋上に佇みグラウンドを眺める。
『少しえらくなる事にするよ。その方が何かと便利でしょ』
そう云った速水は翌日には恐らく少しと言うにはかけ離れた地位に就くだろう。
少しずつ、穏やかに世界は変わっていく。
『史実』と呼ばれる未来予測では彼は『青の速水』として世界を恐怖に晒す。
誰にも縛られない彼は『魔王』と呼ばれ、失った最愛の少女の幻影を追って全てを無に帰す。
「確かに似てますかね…」
失った少女の幻影を追っているのは自分も同じだと笑う。
自分には速水のような力はない。
だが、何も出来ない訳ではない。
世界に僅かな歪みを生じさせればいい。
本来流れるであろう方向を僅かに変えてやればいい。
岩田は瞳を細めると、薄く笑う。
此処は箱庭。
此処は戦場。
此処は楽園。
『彼』の作った大掛かりな舞台の上で更に『舞台』を仕掛ける自分に笑えた。
全ては『彼』の計画通りなのだろう。
そう思いながら首を振る。
「…コレも貴方の計画ですか?ユーリ」
>>後書き
岩田王国速水編でした。
久々に一人語りっぽく書いたんで何だか読み難いような気がします…。うむ…。
本編には殆ど登場せずに、番外編で岩田への心酔を発揮した彼はこんな感じで王国に入りました。
…心酔しすぎですな速水…。
コレは次の善行編に続きます。…善行は王国入ってないんで勧誘話ではないんですが、岩田の核心に僅かに触れます。
一応速水の台詞もチェックしたんですが、国の守護者になるってうちの場合だと真剣に『岩田王国』の守護者になるつもりではないかと疑ってしまいます(笑)…ある意味守護者か…。
どちらが本当の速水なのか。
どっちもでしょ。覚醒もぽややんも。人の多面性が顕著に出てるだけで、問題ないと思うんですがね。
例えば『君がそんな人だったなんて』って云う人が居るとすれば、それは唯単に知らなかったか、思い込んでいただけの話で、それを否定するのは間違ってると思うんですがね…。うちの岩田なんて『王様』だったり『芝村』だったり『世界の裏切り者』だったりと大忙しだし★
で、
速水はポヤヤンである自分と青の悪魔である自分の差を何とか埋めたいと思ってたんですよ。
ポヤヤンである事への甘えと疑問。青の悪魔への恐怖。
でも、岩田を見てたら別に埋めなくても良いか★って思って今に至ります(笑)
題名の『仮面呪縛』は某カードゲームのシリーズから(笑)
『スペル・オブ・マスク』と書けばCMで聞いた事あるかしら…今はもう新しいCMに変わってますが。
で、お詫び。
『仮想女王』と『仮想王様』すっ飛ばしてます。
途中まで書いてるんですが話が長くなってしまい、途方に暮れております。もうしばしお待ちを。
では、次回続編『仮面道化』でお会いしましょう。格好良い善行にしたいなぁ…。
>>HP移転に伴い一部改行等調整。大筋変更はありません。