*手作王様(IN岩田王国)*
イワッチ王国此処は箱庭電波な王様舞を舞う
イワッチ王国此処は戦場運命を変えよ彼が言う
イワッチ王国此処は楽園全てを赦せと君が言う
此処は熊本。5121小隊、スカウトの王様が居る場所。
*
「ふむ…」
サンドバックの前に立つ岩田が僅かに眉間に皺を寄せて動きを止める。それに気が付いた速水がどうしたの?声を掛けると、岩田は真剣な顔で言葉を発する。
「そうですね、速水君は『王様っぽい物』ってなんだと思いますか?」
「え?如何したの急に」
驚いて目を丸くする速水に、岩田は少し笑った。
「いえ、最近僕と一緒に居る人が増えて、『王国』っぽくはなったと思うんですが、肝心な僕が余り『王様』っぽくないような気がしましてね。…矢張り難しいですね…」
「君は十分王様だと思うけどなぁ…僕らの為に一生懸命だし」
「フフフ…王国を強くするのは王様として当たり前ですよ」
そう云うと岩田は少し笑って、気にしないで下さいと云って再び訓練を続けた。
此処5121小隊は少しずつだが岩田に好意を寄せ、付き従う人が増えていた。『王様ゲーム』の参加者が増えるに従って、スカウトである彼の為にあれこれ陳情する者や、仕事を熱心に行うものが増えているのだ。
スカウトとは非常に危険な仕事であるのは誰もが承知で、事もあろうにその職に就く王様を守る為には小隊の戦力を強化するのが手っ取り早い。
彼の歌う出鱈目な出だしが何時も同じな歌から付いた『岩田王国』の名は少しずつ、少しずつ小隊に広がっている。司令・速水もその名を連ねているのだから、いずれは小隊内全域、もしくは小隊そのものが『王国』になるのも時間の問題だと言う者も居る。
みっちり2時間訓練をすると、速水はじゃあ、と言ってプレハブ校舎の方に歩き出した。
「付き合わせて申し訳ないですね」
「いいよ。僕も司令だけどいざって時の為に鍛えた方が良いと思ってたし」
速水はニッコリ笑う。勿論言葉は嘘ではないが、岩田の訓練に付き合えたことの方が俄然嬉しい。既に岩田自身の体力は他の人を遥かに超えており、一人で訓練するには効率の悪い所まで来ている。
スカウトは自ら能力が全て。
戦場で死なせる訳にはいかないのだから少しでも役に立ちたい。
無論この考えは速水だけでなく、岩田シンパ…王国の人間は誰でも考える事である。
速水はプレハブ校舎前に行くと、そこに居る人間を確認した。
滝川・瀬戸口・若宮・原。
「よし、いけそうだな」
彼は息を吸い込むと大きな声で作戦会議の提案をする。突然の提案に一同は驚くが、直ぐにその提案を飲む。
「じゃあ、明日の朝に皆を…」
副委員長である原が言葉を発すると、速水はニッコリ笑って首を振る。
「?」
「違うんだ、これから小隊長室で」
「は!?お前さん…何をおっぱじめるんだ?」
瀬戸口言葉に速水は微笑を浮かべながら答える。
「第一回岩田王国作戦会議」
皆はやれやれと言ったような表情をするが、『王国』の会議であれば仕方がない。
此処に居るメンバーは一人残らず『王様』に心酔する者達なのだから。
*
速水達が小隊長室に入ったのを確認すると、詰め所の入り口で様子を伺っていた石津がそっと出てくる。彼女が大事そうに抱えているのは一冊の本。それを持って彼女は岩田が訓練しているであろう鉄棒の方へ走ってゆく。
「おや石津さん。如何したんですか?」
鉄棒にぶら下っていた岩田は彼女に気が付くと手を放し砂場に降り立つ。石津は黙って持っていた本を岩田に差し出すと小さな声でこれ…と云う。
岩田は受け取った本をペラペラ捲って中を確認する。
「…星の王子様ですね。どうしてコレを?」
「…王様じゃない…けど…参考に…なるかと思って…」
上目遣いに云う石津を見て岩田は笑い、速水君から聞いたんですか?と穏やかに訊くと、石津は小さく頷く。
「フフフ…今、実にスバラシィアイディアが浮かびましたぁぁぁ!!!実にイイ。フフフ…石津さんちょっと手伝って頂きたいのですが構いませんか?」
「…任せて」
酷く上機嫌な岩田は石津と共に整備員詰め所に戻る事にした。
*
「と、云う訳なんだ」
速水は先ほど岩田がしていた話を皆に伝えると、周りをも廻す。
「『王様っぽい物』ねぇ…相変わらず突拍子も無い事言い出すなあいつは」
瀬戸口が笑いながら云うと、原はでも彼らしいわね、と微笑む。
「取り合えずみんなの意見を聞こうと思うんだけど」
速水がそう言葉を発した時、突然小隊長室の扉が開く。
「そう云う事なら僕も協力するよ」
そこに居たのは狩谷。
「あら、狩谷君もう仕事上がったの?」
原が珍しそうに云う。狩谷は普段ならまだ仕事をしている時間なのだ。彼女の言葉に狩谷はフッと笑うと、膝に乗せていた工具箱を大事そうに撫でる。
「…彼からコレを貰ってね。お礼に『武尊』でも陳情しようと思って」
その言葉に速水がむっとした表情をすると行き成り大声で、委員長権限により君の会議への参加を却下す…!!!と云い掛けた所で若宮に止められる。
「まぁまぁ、此処は頭数が居た方が…」
う――――っと速水が唸るように上目遣いになる。
速水は開発技能がまだ2なので武尊を陳情する事が出来ない。仕方なく毎日可憐通常型を陳情していたのだが、狩谷は『開発3』を何時の間にか取り、発言力が貯まっては武尊を陳情していた。
質と量。
この二人は互いに水面下でライバル心を燃やして居るのだ。
「…本当仲悪いよなあいつら」
雰囲気を察するのが苦手だと廻りに思われている滝川ですら、2人の雰囲気を察する事が出来る。
「まぁね、でも良いんじゃないの…互いに競い合うっていい刺激になるし」
瀬戸口はへらっと笑う。
速水も、狩谷も、始めの頃に比べると俄然いい表情になってきた。飾ったような笑顔ではなく、本当に笑ったり怒ったりするのが実に人間らしい。
速水は気を取り直してメモ用紙を皆に配って意見を書き出してもらう。
回収されたメモに速水が目を通していたのだが突然彼の動きが止まる。
(…『ひげ』?)
確かに王様っぽい。だが、此処はこのボケに突っ込んでおくべきなのか?って云うか、誰の意見なんだ?一瞬滝川が書いたのかとも思ったが、字が綺麗過ぎる。
困り果てた速水がふと顔を上げると、何時の間にか隣に人が立っていた。
この大きな男が何時の間に部屋に入ってきたのかにも速水は気が付かなかった。
「…先輩?」
速水の小さな声に来須はこくっと頷く。
「俺は仕事に戻る」
「ええ、じゃあ皆で相談しておきますから。お仕事頑張って下さいね♪」
小隊長室を出る来須を手を振って見送る速水の姿を見て原が意外そうな顔をする。
「…貴方来須君には噛み付かないのね。彼も岩田君の為に陳情しに来たのに」
「先輩はスカウトだからね。仕事頑張ってらわないと。それに…先輩の陳情は40mm高射機関砲だから」
そう云った速水の表情は僅かにダークサイドに見えた。可憐より必要発言力が低い40mmはライバル視しないらしい。
(…岩田君の使わない物を陳情してる所はどっこいどっこいに見えるけどね…)
と原は声にださないまでも思ってみた。
武尊・カトラス・アサルトライフル・機関銃弾帯。
コレが岩田の使用装備で、山のように陳情される可憐も40mmも彼は装備した事すらないのが現状だ。しかし、陳情されれば岩田はそのお礼を云いに廻るので、更に陳情が増えると言う悪循環でもある。
取り合えず出された意見を検討してゆくが中々良いものが無い。
「まぁ、かぼちゃパンツとか、王冠とか、ひげとかはともかく…この『玉間』ってのは無理なんじゃないか?」
瀬戸口がメモを見ながら眉間に皺を寄せるが、速水は意外そうな顔をする。
「え?何で?」
「…お前さん何処に作る気なんだ?」
「此処」
速水の笑顔とは裏腹に、他のメンバーは思わずはぁ?と声をあげる羽目になる。
「此処を改装して、彼を司令にしてね、名実共に『岩田王国』にするの」
ウットリとした速水の表情に一同呆れるが、直ぐに滝川が反対意見を出す。
「…改装はともかく、司令ってのは拙いんじゃないか?なぁ?」
滝川は若宮に同意を求めると、若宮も頷きながら言葉を発する。
「岩田は此処に赴任そうそうスカウトに自分で行ったし、滝川がスカウトに廻された時も翌日に又スカウトになった位だから何か理由があるのだと思いますが…」
現に若宮はスカウトの職ではなく、岩田から貰った整備技能を活かし3番機整備に。
滝川はスカウトから外された後に、岩田から戦車技能を貰いめでたく2番機パイロットになったのだ。
岩田は取り合えず『スカウト』が良いらしい。
「それに、岩田が司令になったらお前さん無職じゃないか」
瀬戸口が笑いながら云うと、狩谷がニッコリ笑って言葉を発する。
「ああ、それなら僕が速水君をスカウトに廻してあげるよ」
「…そう云えば君が滝川をスカウトに廻して岩田君を『押し出し無職』にしたんだっけ?気にしなくて良いよ、僕発言力は有り余ってるから」
狩谷も速水も笑顔で会話するが、雰囲気は否応無くピリピリする。
その雰囲気耐えかねた滝川が、飲み物でも買ってこようか?と提案を持ちかけるが、これもまたコーヒーと紅茶で意見が別れ更に二人の睨み合いが続く羽目になる。
「…うわぁ…俺の所為で余計…」
おろおろした滝川が原に助けを求めると、彼女はすました顔で若宮と瀬戸口に飲み物のリクエストを聞く。
「自分はジュースで」
「俺は日本茶…って行きたいが売店には無かったな…。紅茶のノンシュガーで」
「じゃあ、私はコーヒー。行ってらっしゃい滝川君」
原が自分の財布からお金を出し滝川に握らせると、滝川は言い出しっぺの自分が奢るつもりだったのできょとんとする。
「…へ?奢ってくれるの?」
「たまにはね。余ったお金でお茶菓子も買ってきて」
滝川は嬉しそうに笑うと、お金を握り締め小隊長室を出てゆく。
その後ろ姿を眺める原に対して瀬戸口が茶化したように声をかける。
「あれ?原主任はあーゆーのが好みでしたっけ?」
「馬鹿ね。ちょっと可愛いなと思っただけよ。あの子もパイロットになってから張り切って頑張ってるしね…。昔は雰囲気が読めない子だと思ってたけど、何とかしようと思った所を見ると全然解らない訳じゃないみたいね」
「…まぁ、速水と狩谷の険悪さが解らないのは岩田ぐらいでしょう」
若宮の言葉に原と瀬戸口はそうだね、と笑う。
*
売店に向かう滝川は途中で舞の姿を視界に捉える。小走りに舞の方に向かうと滝川は若宮なら小隊長室にいるぜ、と聞かれもしないのに云う。
一瞬舞が呆けた顔をしたので、滝川は慌てて違った?と聞くと舞はフッと溜息をつく。
「…顔を見ただけで用件が解るのかそなたは」
「あ、いや…何となく。最近一緒にいる事が多いからさ、そうじゃないかと思って…良かった。さっきも余計な事云って失敗したんだよ俺。…今は小隊長室に行かない方がいいかもよ…狩谷と速水がピリピリしてるから…」
バツが悪そうに滝川が云うと、舞は恐らく余計な事は速水達に云ったのだな察する。
「…岩田シンパが集まってるのか?」
「え、ああ。ちょっと相談中。じゃあな。俺買い出しあるから!」
そう云うと滝川はクルッと方向を変えて売店の方に向かう。それを見送りながら舞は如何した物かと思う。若宮が小隊長室にいるのはテレパスセルで確認済みだったのだが、なにやら大勢居るので入りにくい。…しかも岩田シンパが集まってるとなると尚更だ。
舞は舌打ちをして取り合えず小隊長室に向かう事にした。
岩田は自分と何故か距離を置く。
理由は解らない。
此方からの提案は受けるが、向こうからの提案は皆無に等しい。
…他の人間には発言力が尽きるまであれこれ云うのに…。
少し打ち解けてきたかと思うと、行き成り怒らせるような事を云ってみたりする。
さっぱり解らない。
だから自分は『王国』に入る事は出来ない。…入りたいとも思わんが。
気が付くと小隊長室の前についていたので意を決して中に入ろうとすると、奇妙なものが目に飛び込んできた。
『岩田王国詰め所』
本来小隊長室と書かれていなければならないプレートにはそう書いてあった。大方速水が作って貼ったのであろう。
…余計に入りにくくなった。
中からは楽しそうな声が聞こえる。滝川が帰ってくるまでは雑談でもするつもりなのであろう。
(うう…気になる…)
若宮は中で楽しそうに話しているであろう事を考えると急に気になりだした。ましてや、岩田シンパにあの原が入っている。個人的に仲は良いが、如何せん若宮がファンクラブに入っている事を考えると…。
舞は何かを思いついたのか、突然整備員詰め所に向かって走った。
仕事時間は終了しているが、石津は割と熱心に仕事をするからまだ居るかもしれないと思いながら扉を開ける。
「…何をしておる」
思わず舞はそう訊かざるおえなかった。詰め所の床には所狭しと布が広がっており、石津は針を持ってなにやら作業をしていた。
問題はこの男だ。
「フフフ…何の御用ですか芝村さん」
持っていた布を床に置くと岩田が無駄なポーズを取って話し掛けてきた。
「僕たちは今スバラシィ計画の準備で大忙しなので用件は手短にお願いしますよ」
人の話など聞いちゃいない岩田はマイペースに話を進めてしまう。
「…踏み台になるような箱を貸して欲しい」
「壁の修理でもするんですか?」
そう云いながら岩田が持ってきたのは大きな木製のミカン箱だった。
「フフフ…コレなら頑丈ですから若宮君と乗っても壊れませんよ。まぁ、士魂号が乗ったら壊れるかも知れませんが」
訊きもしない事まで喋って岩田は舞に箱を渡す。
「何故こそで若宮が出てくる!!!」
彼は軽々と持っていたが中身が空とは言え結構重い。
「何だったら運びましょうか?」
「…そなたは大忙しなのであろう…自分で持っていく」
そう云うと舞はさっさとその箱を持って部屋を出てしまった。
「…フフフ…怒らせてしまったみたいですね」
「わざと…でしょ?」
今まで黙ってやり取りを見ていた石津が小さな声で呟く。
「フフフ…僕は舞の『母』ですからね!親の気持ちは子供には解らないもの!僕は影ながら子供の成長を見守る母!!!」
妙なハイテンションで岩田は切々と語る。
「…何時か…子供は親の気持ちが…解るように…なるわ…」
「そんな日が…」
石津の言葉に岩田は少し困った顔をしながら何かを云い掛けるが口を噤む。そして、続きをやりましょうと云って床に置いた布を拾って作業を進める。
*
「玉座は!?」
滝川が買出しから帰ってくると、話は又始まる。玉間の意見を却下された速水の新しい意見は『玉座』だった。
「…玉座ねぇ…まぁ、それなら何所においてもいい訳だし…」
原がコーヒーを飲みながら速水の意見を検討する。何所に置いても良いが、何所に置くかが問題になる。そもそも岩田が一箇所にじっとしてる事が無い。精々授業中位である。
「おいおい待ってくれよ。教室にそんな大きな椅子作ったら…」
此処で瀬戸口が話しに待ったをかける事になる。
「え?何か問題ある?」
「大有りだよ。お前さんも1組だから知ってるだろ?岩田の座席」
瀬戸口の言葉に滝川がアッと声をあげる。
「そんな大きな椅子作ったら俺が黒板見えないじゃん!!!」
岩田の席は最前列、教卓の正面。そんな所に大掛かりな玉座を作ったのならば、後ろの人間の授業の妨げになる。
「あら、滝川君真面目に授業受けてるの?」
「いや、受けてないけどって…ひでぇなその言い方!」
原の突っ込みに滝川は怒ったような様子で返すが、余り気にはしてないようだ。確かに、真面目に授業を受けている者の邪魔になるのは確実だ。
「…本当に考えなしだね君は」
「!!」
狩谷の穏やかな口調の裏にある刺を敏感に察した速水が再びむっとして交戦状態に入る。やれやれと言った様子で2人を見ていた若宮が突然立ち上がったので原が声をかける。
「ちょっと外の空気吸ってきます。いい考えが浮かぶかも知れませんから」
「そうね、行ってらっしゃい」
原に見送られ、若宮は小隊長室の外に出ると、建物の裏手に廻る。
「中に入ったらどうですか?」
「わ、若宮!?」
ミカン箱に乗って窓から部屋の様子を伺っていた舞は、行き成り後ろから声をかけられどもる。その様子を見て若宮は笑いながら、その箱何所から持ってきたんですか?と尋ねる。
「コレは詰め所から借り…そ、そんな事はどうでも良いだろう!べ、別に盗み聞きしてた訳じゃないし、興味も無い!」
舞は顔を赤くして上目使いに若宮を見る。格好の悪いところを見られて恥ずかしいのであろう。
「…一緒に行きませんか?」
「私は岩田の事などに興味も無いし、『王様っぽい物』など考えてはおらん!」
興味がないと云いながらも、話をちゃんと聞いていたようだ。その様子に若宮が笑うと舞は、う〜〜っと唸って箱にストンと座る。
「貴女なら何を彼に送りますか?」
「興味はないといっておろう!くどい!」
「…参考までに聞きたいんですよ。中のメンバーは煮詰まってしまいましたからね」
そう云うと若宮は舞が腰掛けたミカン箱に同じように座る。舞は驚いて顔を赤くする。
あれだ、一人で座るには広いが二人だと窮屈で自然と体が寄ってしまう。岩田の云った通り、若宮が座ってもこの箱は全然問題ないらしくしっかりと二人分の体重を支えている。
(岩田――――!!何でこんなに丈夫な箱を渡したのだ!!!!)
恥ずかしくて思わす下を向く。カダヤなのだから気にすることも良い筈なのだが如何せん慣れない。
舞は自分を冷静にする意味も込めて喋りだす。
「…王とは…血筋でその地位に就く者と、そうでない者がいる。…後者は他の人間に望まれて王になる者の事だ。…岩田は…後者であろう。望まれるという事は、周りがその者認めたという事…。軍人である我々が認められた時に贈られるものといったらそう多くはないだろう…」
「…勲章…ですか?」
「私ならそれを贈るというだけの話だ」
若宮は少し考えた後に、それにしよう!と立ち上がるが、舞がそれを慌てて止める。
「だ、駄目だ!!参考にするだけの約束だ!!!それに…私は奴のシンパじゃない!」
「良い意見だと思ったから皆に教えたいんですが…駄目ですか?」
若宮が少し悲しそうな顔をしたので、舞は慌てて言葉を発する。
「全く…全く駄目という訳ではないが…う〜…」
困った。非常に困った。
こんな顔をされて駄目だと撥ね付けることが出来なくなってしまった。舞は結局自分の意見だと云うのを伏せるなら良いと妥協案を出した。
「そうですか!」
若宮はぱっと表情を明るくして笑う。
「…私は適当に時間を潰すから話が終ったら仕事を手伝え。いいな」
「え?中に入らないの?」
「…断る」
若宮は残念そうな顔をするが、なるべく早く片付けると言って部屋に戻っていった。舞は再びストンとミカン箱に座るとふぅと溜息を吐いた。
酷く鈍感なのだあの男は。
漸く舞の心拍数が正常に戻りつつあった。
*
「あら、いい意見ね」
原は若宮の持ってきた意見に賛成の色を見せた。
「勲章なら邪魔にならなしね…僕もいいと思うよ」
狩谷が言うと、若宮は安心したような表情を見せる。
「じゃーさ、早速デザイン考えて作ろうぜ!」
滝川は既にその辺に置いてあった紙とペンを自分の所に寄せて準備万端である。
「じゃぁ…委員長、ご決断を!」
「…本意見を委員長権限により可決する!」
原と速水のお約束の台詞と同時に、勲章作りが始まる。
その中で瀬戸口が若宮に耳打ちをする。
「あれ、芝村のお姫さんの考えだろう?」
「…どうして解ったんですか?」
若宮は驚いて瀬戸口の方を見ると彼は笑ってそっと窓の方を指差した。
「ちらちらと可愛いポニーテールが見えてたんでね」
瀬戸口は若宮が舞に気付く前から彼女が窓から覗いていたのを知っていたらしい。
「敵いませんね…貴方には」
「女性の事で俺に勝とうなんて100年早いぜ」
二人は顔を見合わせて笑う。
「こら!勝手に字を書いて!!!」
「ほら、だから止めたじゃないか滝川」
「ずりーぞ速水!全然止めなかったじゃねーか!!!」
勲章に『えらい』と書いた滝川が原に怒られるが、瀬戸口は味があっていいと笑う。
「良いものだね…こうやって騒ぐのも」
「そうですね」
狩谷がしみじみと言うと若宮が同意する。学生らしいと言えば学生らしい当たり前の日常が送られる。怒ったり、笑ったり、騒いだり。戦争下でも満更じゃない生活が送れる。
勲章が完成すると、若宮は油性ペンのお陰ですっかりシンナー臭くなってしまった部屋を換気する為に窓を開ける。
「終りましたよ。仕事に行きましょうか」
若宮が未だに窓の下のミカン箱に座る舞に声を掛けると、舞はこくっと小さく頷く。
*
翌日、昼休みに岩田に『手作り勲章』を渡す事を決めた一同は、大概午前の授業が終ったらさっさと訓練に行ってしまう岩田を同じクラスのメンバーが捕まえる事になった。
「え!?」
ほんの一瞬、ほんの一瞬だったのだ。
速水が号令をかけ、顔を上げた瞬間には隣に居る筈の岩田の消失していた。それには瀬戸口・滝川も我が目を疑った。滝川が慌てて多目的結晶体で原にメールを送ると、隣のクラスから原が駆け込んできた。
「何をやってたの貴方達は!!!」
「号令かけたらもういなかったんだ」
速水は原の勢いに押され、慌てて弁解する。後から来た若宮と狩谷は既にプレハブ前には居なかったとだけ言った。
「…もう訓練に行ったのかしら…」
原は爪を噛む。訓練しているのなら邪魔をする訳には行かない。結局ぞろぞろと教室を出ると、若宮に舞が声を掛ける。
「あやつは詰め所だ。今しがたテレパスセルで確認したから間違いない」
「!?」
若宮だけでなく、周りにも舞の声が聞こえていたので一同舞に向かって感謝の視線を送る。
「…ついでだ、ついで…」
舞は恥ずかしいのか、よそを向きながら小さな声で云う。
行き先も決まり、狩谷を手伝いながら階段を下りる最後尾に若宮と舞が居た。
「有難う御座います」
「…そなたたちが大騒ぎするのが煩かったのだ…」
「しかし、珍しいですね…詰め所に行くなんて」
若宮の言葉に舞も頷く。昼間は訓練をすることが多いし、岩田が詰め所に行くのは大概明け方が多い。
漸く狩谷を下まで連れて行くと、詰め所の入り口の扉に原が手を掛ける。
「フフフ…皆さんおそろいですね!!」
突然詰め所の扉が開いたかと思うと、そこには岩田がポーズを取って立っていた。
問題は格好だ。
絵に描いたような王様ルック。
マントに王冠、何よりも目を引くのがかぼちゃパンツと白タイツ。
おまけに一体何に使うのか解らない杖を持っている上に付け髭までしている。
昨日皆から出た意見そのままであった。
「フフフ…デザインはこのイワッチ!そしてマイラバー石津さんに手伝ってもらって完成したこの『王様ルック』どうですか!?かぼちゃパンツのふくらみなど中々大変だったんですがね!!スバラシィ出来だとは思いませんか!!!!!」
皆がぽかんと口を開ける中、舞は昨日の岩田達が埋もれていた大量の布を思い出す。どうやらコレを2人で作っていたらしい。
「…石津さんも手伝ったの?」
辛うじて口を開いた原が、詰め所の扉の影に隠れていた石津に向かって云うと彼女はこくんと小さく頷いた。
そのさなか、速水がよろりと倒れる。
「どうしたんだ速水」
滝川が驚いて速水に声を掛けると何か小さな声でブツブツといっている。
「…った…」
「は?」
「知らなかった…彼女が居たなんて…石津は40mmだったからノーマークだった…」
「あら、私は知ってたわよ」
「原主任は『奥様戦隊』だからでしょう!」
速水は悔し泣きをしながらキッと原を見る。無論、同じく奥様戦隊の若宮も知っていたのであろう。
「まぁ、密会3同士だしな…俺も知らなかったし」
滝川がやんわりと速水を慰めると、狩谷が鼻で笑うように僕は知ってたよ、と云う。
「!!」
速水がかなりむっとしたのを察知した瀬戸口が厭な空気が流れる前に、口を挟む。
「ともかく…『王様っぽい物』は自分で見つけたらしいな」
少し残念そうに云うと、舞が突然ツカツカと狩谷の前に行き彼の膝に乗っていた紙袋を取り上げる。
『手作り勲章』が入っている紙袋。
舞はその袋を開け、中から『手作り勲章』を出すと岩田の目の前にずいっと突き出す。
「?…コレは?」
王冠の描かれた勲章。リボンにはへたくそな字で『えらい』と書かれている。
「…そなたの為にこやつ等が作った『勲章』だ。そなたを『王様』と認めてコレを作った。出来は悪いが…一生懸命遅くまで掛かって作ったのだ。…受け取れ。コレを受け取ってよいのはそなただけだ」
岩田は一瞬驚いたような顔をするが、フッと笑う。
「フフフ…テンションあげて行きましょう!イィ、凄くイィ!!!コレならずっと付けていられるし実に『王様っぽい』!!!」
舞から勲章を受け取ると、誇らしげにそれを付ける。
「かぼちゃパンツで仕事は流石にきついですからねぇ…皆さん有難う御座います」
岩田の一言で皆安堵の色を浮かべる。頑張った甲斐があったと。喜んで貰えて良かったと。
「有難う、芝村さん」
原がニッコリ笑って云うと、舞はそっぽを向く。
「…そなたらがグズグズしているからだ…」
岩田は嬉しそうに『手作り勲章』眺めていたが、突然皆で昼ご飯を食べようと言い出す。
「俺、弁当持ってない」
「滝川君、僕も持ってません。しかし此処に焼きそばパンが2つあります。一つ差し上げましょう」
「いいの!?」
「ハイハイ!僕もお弁当ないーーー!」
焼きそばパンを滝川が受け取ったのを見て、速水が元気良く手を上げる。
「君はサンドイッチがあるだろ?それでも足りないのか?卑しいなぁ」
狩谷の一言に再び火花が散るが、岩田の屋上に行きましょう!の一言で休戦になる。
皆が階段を上がる中、舞が動こうとしないのに若宮が気が付く。
「行きましょう」
「私は奴のシンパじゃない」
王様に心酔する者達の中に如何して居れよう。
あやつは…多分私を嫌っている。
父と同じだ、からかって楽しんでいる。
「何してるんですか?置いていきますよ若宮君、舞」
でも、時々解らなくなる。
思い出したように名前で呼ぶ。
少なくともその瞬間は…嫌われてるとは思えないほど穏やかな表情で呼ぶのだ。
昔、
父と居た頃を思い出すのは何故だ。
そもそも私は何故父と重ねる。
『王国』はこれからも広がるのであろう。
『手作り勲章』を誇らしげに付けた『王様』は何時しかこの小隊になくてはならない存在になる。
…私は…私は永遠に辿り着く事の出来ない『王国』か…。
おしまい。
『手作王様』でした。ギャグって小説に向いてませんね…って事で、この話を原作に、ヤカナ姐が『王様の作り方』っていう漫画を書いてくれるそうです。ありがとー。
狩谷とか速水が仲悪くて話進まないし、恐ろしい事にこの話5ページもありました。たくさん削って此処まで何とか短くしたのですがどうでしょうか。岩田プレイの時に凄く嬉しかったんですよね『手作り勲章』って。
イワッチ魅力低いし、話術もないから大変でした。
今回出たメンバーは岩田王国初期メンバーです。この辺データにかなり忠実(笑)まぁ、大概好きなキャラから仲良くなるんで何時もこんな感じですが。
後に王国は小隊を巻き込みます(マジで・笑)舞ちゃんとか善行とか仲良くなると厄介なイベントが起こる人意外は殆どは行ってました。殆ど…此処ポイント(笑)
小説のギャグって久々なので疲れましたが、シリアスばっかりも重いしね。まぁ、こんな感じで番外編をこれからも出したいなぁと思ってます。
それではこの辺で。
>>HP移転に伴い一部改行等調整。大筋変更はありません。