*生誕記念(IN岩田王国)*

 その日来須はいつも通りに仕事をこなしていた。
 日付がもう直ぐ変わろうとする辺りで、グランドを校門の方に歩いてゆく石津の姿を見つける。来須はきりの良い所で仕事を終えると、整備員詰め所に足を運ぶ事にした。それは衛生官である石津が帰ったのなら、休憩が取れると判断しての事だった。

 しかし来須の予想に反して、詰め所の電気が付いていた。一瞬、石津が付けっぱなしにして帰ったのかとも思ったが、几帳面な彼女がそんなミスをする筈がないと思い直す。

…しかし、こんな夜更けに一体誰が?

 取り合えず詰め所に入る事にする。誰かが仕事をしていたのならば出てゆけば良いし、単に電気が付いているだけならば休憩も取れる。
扉を開け中に入るとパソコンの前に誰かが座っているのが見えた。
 一瞬で誰だか解る。こんな格好をしているのはこの小隊に一人しか居ない。

岩田裕

 今日は珍しく仕事をしていないと思ったらこんな所に居たのかと溜息をつく。彼は来須に気が付かないのか、鼻歌を歌いながらパソコンの画面を目で追っていた。あんなに体を揺らしてディスプレイを見ても何ともないのかと周りは不思議がるが、彼にしてみれば何ら問題は無いのだろう。
 来須は岩田の仕事を邪魔するのも悪いと思い引き返そうとするが、それを岩田に止められる。
「フフフ…休憩ですか?どうぞどうぞ。もう直ぐ終りますからね」
 岩田の言葉に来須は従う事にし、隅においてあった椅子に腰掛ける。
 職業が同じスカウトと言う事もあって一緒に居る事が多いが、これと言って話す事も無く普段は一方的に岩田が話すことが多い。
が、この日に限って岩田は何を話す事も無く熱心にパソコンを見ていた。

 画面に『完了』の文字が浮かんだ瞬間、岩田は時計を見て、フフフ…予定通りですねと満足げに呟くと、行き成り来須の方にクルッと向きを変え花束を差し出す。
「何だ?」
 岩田の突然の奇行に来須は面食らうが、岩田はそれを無視するように花束を来須に握らす。彼の同調技能のなせる技であろう。
「お誕生日オメデトウ御座います」
 来須は時計を見ると納得する。今さっき日付が変わり、3月21日になったのだ。
 そもそも、岩田が来須の誕生日を覚えている事が驚きである。
「まぁ、貴方の本当の誕生日なんて知りませんからね。書類上ですがお祝いしときましょう」
「…もう…ずっと誕生日なんて祝ってない」
 来須の言葉に岩田は意外そうな表情を見せる。
「祝ってない?祝ってもらってない?どっちですか?」
「…」
 岩田は来須の返答を待たずに喋りだす。コレが何時もの彼のペースなのだ。
「そもそも誕生日は周りの人間が祝うものであって、本人が祝うものじゃありませんよ。
『生まれて来てくれて有難う』と他人が貴方に感謝する日なんですから」
「…お前が俺に感謝する事があるのか?」
 岩田の言う通りであるのなら、岩田は来須に感謝する事があるからこの花束を渡した事になる。
「フフフ…貴方が居る事で変わる人も、世界もあるって事ですよ。まぁ、こうやって僕がスカウトの仕事をサボってる時も、貴方が仕事してくれてますからねぇ…感謝感謝ァァァ!!!!」
 途中から急にテンションが上がり、岩田は満足そうに笑うとパソコンの電源を落とす。
「…悪くない」
 来須は花束を見ながら呟く。

すっかり忘れていた、自分の誕生日など。
そもそも、誕生日の認識にそんな形があるのも思いつかなかった。
当たり前だが、誕生日は他人に祝ってもらうもので、よほどの事が無い限り自分では祝ったりはしない。
『生まれて来てくれて有難う』
そう思うと、誕生日も悪くないと思えた。
人は、
複雑な糸が絡み合うように互いに影響を及ぼしあう。
良い影響も、悪い影響も。
『生まれて来てくれて有難う』と言う事は、出会って良かったという事だろう。

 過去の痕跡を消し、世界を渡り歩き続ける中どれだけの人間にそう云われるだろうかとぼんやりと思う。

「何時か此処を去る時に消してしまう思い出かも知れませんがね。今は祝っておきます」
 岩田は目を細めて笑う。
「…お前の誕生日は?」
「さぁ?…祝いたい時に祝って下さい。貴方が僕に会えてよかったと思う時に。…そうですね、僕が強いて言うならば…僕が望みを叶えた時位が丁度良いですかね」

世界を変えるその瞬間。
自分が此処に来た目的を果たす時は、彼の望みが叶う瞬間と同時に訪れるであろう。
そう、
その時が良い。

「…プレゼントは精霊手が良いですね」
 岩田は笑いながら部屋を出て行った。これからスカウトの仕事に戻るのであろう。来須は岩田の背中を見送りながら再び花束を眺める。

あの男も目的を果たせばこの世界を去るであろう事を思いながら。
全てを知り、世界を裏切り続ける者が歩む道を共に行く事を心に決めて。


>>後書き

 銀河部の先輩お誕生日企画に投稿しようと思ったものに手を加えたものです。…周りが舞ちゃんとか萌ちゃんに誕生日を祝ってもらっているのに、うちの先輩だけイワッチだし、投稿しにくかったんですよ(笑)

 結局岩田王国のキャラ別サイド話の中に突っ込みました(別名*王国勧誘話・笑)取り合えず、速水・狩谷なんかも計画しておりますが、先輩のものと比べて長くなりそう。
 久々に短い話でちょっとウキウキです(笑)
検索エンジンなんか見てると、結構短い話が多いから気にしてたんですよ。うちの話取り合えず長いし…。

 で、イワッチの誕生日も結局解らなかったのでこういうオチになりました。…本当に解らないんだもんなぁ(涙)先輩がちゃんと祝ったかどうかは知りません。

 で、誕生日の認識は私の独断と偏見です。他人に祝ってもらう事が当たり前じゃないですか。そもそも、何がオメデトウなのか解らないって人だったので、
『貴方に会えたことに感謝して』
 って事にしました。
 少なくとも神様に感謝するのは御免なので(アンチ・神様)

 …しかし、相変わらず先輩台詞少ないなぁ…。

>>HP移転に伴い一部改行等調整。大筋変更はありません。