*会者定離*
絢爛舞踏
それは戦場で舞を舞うという化け物
人を超えて伝説となるべく定められた者
***
目の前に続くのは幻獣の群れ。
果てしなく続く戦いの日々。
銃声と咆哮と血の匂い。
3号機を繰る芝村舞は辺りを見回し、幻獣の規模が多いのを確認する。激戦区に回されてから数日、連日戦い通しで、仲間も士魂号も既に限界が近い。
「舞!!敵の増援が来た!!」
舞と共に3号機を繰る速水の声が聞こえる。
「解っている。弾丸の補充をするぞ」
言葉と同時にプログラムを走らせると舞は僅かに瞳を伏せる。
(・・・絢爛舞踏。私はまだ迷っている・・・)
一瞬の思考の余裕もなく増援が現れ、3号機は瞬く間に囲まれる。
「!?滝川が!!」
速水の声に舞が我に返り、辺りを見回すと、戦場で孤立していたスカウトである滝川が増援に囲まれて居るのが視界の端に捉えたれた。
「しまった!!」
舞は慌ててプログラムを書き換える。
スカウトでスキュラのレーザーを食らえば命の保証はない。しかも滝川はまだスカウトになりたてで戦闘に不慣れであるのは誰もが知ることである。
(間に合ってくれ!!!)
彼をフォローし切れなかった己のミスだと自分を責めながら舞はプログラムを流し込む。
(いや・・・私がまだ迷っていた所為か!?)
「厭だ!!俺はまだ死にたくない!!!」
沈黙するスピーカー。
最後に聞こえたのは滝川の絶叫。
「・・・滝川?」
速水が小さな声で彼の名を呼ぶ。
此処は戦場だから当たり前だけれど、戦場は沢山の命が散る場所。
速水は涙目になりながらも必死で3号機を繰る。
此処で気を抜くと自分も舞いもやられる。
奇妙な沈黙が流れる。
「・・・れ・・・」
「舞?」
後ろから僅かに聞こえる舞の声に速水は思わず速水は振り向く。
「おのれ!!!勝吏!!!!そこまでして絢爛舞踏を求めるか!!!そこまでして私たちを絢爛舞踏に仕立て上げたいか!!!!」
激戦区に回されたのはその為。舞は絢爛舞踏の候補であるにも関わらず彼女は迷っていた。
「落ち着け!舞!」
「黙れ!!私は常に冷静だ!!!」
速水の声を弾きながら新たなるプログラムを入力する。
<NEP>
「舞!?」
今まで決して舞が使おうとしなかった武器。
非エリンゴゲート砲
全ての異物を消し去る最強の武器。
「消え去れ!!!全て!!!!」
放たれる光は戦場を包み込む。
「おのれ・・・」
俯きすすり泣く舞に速水は声を掛けられなかった。
「私は・・・私は・・・」
自らの迷いが一人の戦友の命を消してしまった。
***
白い血液に塗れたウォードレスを纏って彼はそこに横たわっていた。
「なぁ知ってた?俺・・・アンタのことが好きだったんだぜ・・・」
不自然な呼吸をしながら滝川は舞に微笑みかける。
「・・・アンタみたいになりたかったけど・・・無理だったなぁ・・・」
舞は滝川の体を抱きかかえると涙を浮かべる。
急に重くなる滝川の体に、認めたくない現実を再認識させられる。
そっと彼にキスをする
刹那、滝川の体が青く光り、その光は舞を優しく包み込む。
「私は・・・お前の思いを継ぐ資格などないのに・・・」
何時かカダヤである来須が見せてくれた青い光を思い出す。
コレは思いだと、彼は教えてくれた。そして彼もまた何時かこの光になると・・・。
「!?」
突然側の瓦礫の下からスキュラが現れる。
既に虫の息ではあるが、舞を敵と見なしたのか照準を彼女に向ける。
「・・・」
舞は肩に背負っていたサブマシンガンを手にとると、スキュラの方に向けて構え、微笑みを浮かべて引き金を引く。
「!」
いきなり響くマシンガンの音に来須は顔を上げる。
「芝村万翼長が行った方じゃないのか!?」
来須と同じ場所で瓦礫の撤去をしていた若宮が声を上げると同時に来須はその方向に走り出す。
「・・・自分が行くまでも無いか・・・」
若宮は僅かに肩を竦めると来須の走っていった方を寂しそうに見つめた。
既にその体を霧散させかける幻獣に向かって狂ったように舞はマシンガンを放つ。
微笑みながら、涙を浮かべながら彼女は静かに壊れていた。
来須は後ろから舞をきつく抱くと、耳元で彼女の名前を呼ぶ。
「・・・銀河・・・」
舞は持っていたマシンガンをそのまま足元に落とす。
「・・・滝川は青い光になった・・・私にそれを継ぐ資格など無いのに・・・」
虚ろな声で呟く。
「・・・私が絢爛舞踏になるのを迷ったから・・・竜と戦いたくないと思ったから・・・」
舞は来須のほうを向き微笑う。
「・・・舞?」
「竜に会いに行く。今日の戦いで私は晴れて絢爛舞踏だ・・・化け物だ・・・」
「・・・」
「・・・私は竜を殺せない・・・彼の苦しみも、悲しみも知ってしまったから・・・だから私は・・・貴方を守る光になるよ・・・」
世界のループはもう一人の絢爛舞踏が解いてくれる。
私は罰を受けなければならない・・・。
迷いが儚い戦友の命を散らせてしまったから。
でも赦されるなら・・・永遠に貴方を守る光になりたい・・・。
***
「貴方の計画通りに芝村舞が絢爛舞踏になりましたね」
「!?」
背後から声を掛けられ思わず振り返ると、そこには岩田が立っていた。
「・・・何のことだ?」
「良いんですよとぼけなくても・・・彼女は絢爛舞踏になることを迷っていた、だから貴方はわざと滝川をスカウトにして戦場に送りだした・・・来須や若宮は強すぎますからね」
岩田は意地悪く微笑うと<彼>の表情を伺う。
「・・・お前は誰だ?」
「岩田裕」
彼は眉間に僅かに皺を寄せると岩田を見上げる。岩田はその彼の表情に満足そうに微笑むと更に言葉を続ける。
「本当は来須を戦死させれればベストだったんでしょうがね・・・結果的にはどちらでも彼女は絢爛舞踏になることを選ぶでしょうが」
「・・・彼女は絢爛舞踏に相応しい」
岩田は僅かに彼に哀れみの表情を浮かべる。
舞は竜に
彼は舞に
滅ぼされることを望んでいる
情が互いの思いを擦れ違わせる。
悲しい世界。
「彼女が自分のものにならないならせめて彼女の手で滅びたい・・・」
彼はそう云って寂しそうに微笑った。
***
竜の咆哮が響く。
舞と速水が絢爛舞踏を受賞した日に<彼>は<竜>へと変わった。
軋みを上げる3号機は既に限界を超えていた。
「クソ!!次が来たらアウトか!!」
速水が目の前の竜を見ながら呟く。
「・・・速水降りろ。竜の射程外に逃げるぞ」
舞は士魂号のハッチを開ける。
この機体にいるよりは最善だと判断して速水は直ぐに機体を降りる。
予備の機体が間に合うならばまだ勝算も見える。
「舞!!早く!!」
後退しながら速水はまだ機体に残る舞に声を掛ける。
(微笑った?)
一瞬舞が微笑ったきがした。厭な予感が速水を捉えて離さない。
「舞!!!!!!」
「これでいい・・・。絢爛舞踏が一人でも居れば・・・」
舞は瞳を伏せると穏やかな表情を浮かべる。
「・・・銀河・・・勝手を赦せ・・・」
「・・・そんな・・・舞・・・」
速水は呆然と大破した3号機を見る。彼女はもう居なくなってしまった。
3号機の中からぼんやりとした青い光が放たれる。
その光は行くべきところに迷わずに飛んでゆく。
突然竜が攻撃を止め咆哮する。
「りゅうがないてるの・・・」
ののみは小さな声で呟く。
その咆哮は竜の物なのか、それとも竜に食われた彼のものなのか。
「残念ながらループしますね・・・あの時点で既に彼女はループを解く資格を失っている・・・」
岩田は竜の中で泣いているであろう彼を思う。
速水では竜を赦すことは出来ない。
再び時はループし、芝村舞の魂は此処に帰ってくる。
それがせめてもの救いか・・・。
彼女の居ない未来を誰一人として望んでいないのだから。
大丈夫、次こそは・・・この未来無き世界を貴方は救える。
「また会いましょう。舞」
書き出したら書きたいことが山ほど出てきて困りました。
そして岩田の出番が多いって(爆笑)
一応ネタバレ全開の癖に、竜が誰かを書かなかった辺りが小心者め!って感じですね。
しかし、来須出したはいいけど、下手なこと喋らせる訳に行かないからかなり苦労しました。って云うか、台詞ないし(笑)
しかし、書きながら辛気臭い話だなと思います。
2周目やりながら考えた話なんですが、
先輩と恋人同士だったのに絢爛舞踏を貰う前日は<彼>とデートに行った薄情者です。
・・・いいなぁ愛ある戦い(爆)
めちゃめちゃ好感度高かったから、戦うの辛かったです。ほんま。
因みに滝川は殺してないからSランクでしたよ。
元々は滝川戦死イベント見て書きたい!!!って思った話を長くしたものなんですよ。
弟の速水データで滝川戦死イベント見て大泣きしましたって。
で、結局舞はループして次は迷わず絢爛舞踏になるんでしょうね。
竜を赦す為に彼女はHEROになると信じてます。
でもまた先輩の追っかけやってたり(笑)
<彼>には幸せになって欲しいですね。
好きだから。ヤッパリ。
今回は横恋慕で悔しい思いしただろうから、次は舞と巧くいけると良いね(他人事の様に云うなよ)