*序章*
「春雨・第七師団阿伏兎。俺に用があるのはお前さんかぃ?」
「拙者は鬼兵隊・河上万斉。夜兎の特性について教えて欲しいでござる」
万斉の言葉に阿伏兎は怪訝そうな顔をした。そんなもの聞いてどうすると言った様な表情を見せたので万斉は僅かに眉を上げると短く夜兎を拾ったとだけ言う。辺境の土地で一人で暮らしていた夜兎を先日万斉は連れて帰ったのだ。
「拾ったって…飼うつもりか?止めとけ。夜兎は飼えねぇよ」
宇宙最強と謳われる戦闘種・夜兎。それを手元に置いて飼おう等正気の沙汰ではない。いつか咽喉笛を噛み切られるのがオチだと阿伏兎は思ったが、その拾ったという夜兎には興味があった。正直な話ただでさえ数の少ないうえ戦闘を好む夜兎が辺境の土地でひっそりと暮らしていたなど信じられないのだ。
「しっかし本当に夜兎なのか?ちょいとその夜兎の顔見せてくれねぇか?」
阿伏兎の言葉に頷くと万斉は一度後ろを振り向き手招きをする。恐らくモニターに映らない所にその夜兎を置いていたのであろう。
「…こりゃたまげた。よりにもよってとびっきりの希少種じゃねぇか」
モニターに映った夜兎を見て思わず阿伏兎は言葉を零した。
透けるような白い肌、白い髪、そして赤い瞳。
夜兎の中でも一段と日に弱い特性を持つが血統としては最高種であるとっくに滅びたと思われていた白兎。彼女は万斉の影に隠れるようにしてモニターを見上げていた。
「夜兎…でござるな。本人は自分が夜兎族だと知らなかったようでござるが」
万斉の言葉に阿伏兎は瞳を細めると再度同じ言葉を繰り返した。夜兎は飼えないと。
「うちに寄越せよ。悪い様にはしない」
「断る」
交渉は一瞬で決裂し阿伏兎は情けないような困った様な顔をしたが万斉は表情を動かさず夜兎の特性について知りたいという最初の質問に対する回答を催促した。
夜兎ヒロイン前提設定
200903 ハスマキ