*閑話休題03*

 我が目を疑うと言うのはこのような事を言うのだろう。ふと我に返ると折角の休日は既に終わりかけており、ぶっ飛んだ記憶を埋めるべく部屋や財布をひっくり返した。
 記憶が飛ぶ時は大概トッシーに体を乗っとられている。また散財されていたら厄介だと思ったが、出て来たのは映画の半券位で安堵した。恐らく現在公開中のアニメ映画を見に行く程度でトッシーの休日は終わったのだと納得して煙草に火をつけたが、ふと、携帯電話のブックマークに見覚えのないアドレスを見つけ、それの中身を確認した。
 別に携帯でネットにアクセスする位はなんら問題はなかったのだが、それを削除する前に怪しいサイトでないか確信しておきたかったのだ。おかしな請求が来たらたまらない。
 某大型匿名掲示板に繋がり、その内容を読み進めて行くが、怒りより先に血の気が引いた。

 

──人生初デートのオタク男に助言求む
1 :トッシー侍◆toMOE5000:2009/05/08(金) 22:31:18
おまいらちょっと相談に乗って欲しいんだが。

 

 反射的に思わず『ネタだろ』と書き込んだが、携帯電話に残されたクッキーが弾き出したハンドルネームに膝をつくしかなかった。
 深呼吸。
 再度掲示板を確認。
「マジで?」
 もしかしたら全てトッシーの妄想かもしれない。むしろ妄想であってくれ。意味が解らない。
 昨日の夜からトッシーはこの掲示板にアクセスして、あれこれと助言を得て、つい数時間前に礼を述べてそのスレッドは一応終わっている。
 スレッドでトッシーが一緒に遊びに行くと言っている人間は仮称・菩薩と呼ばれており、その特徴を見る限りほぼ100%リンドウだと思われる。そもそもアイツ以外にトッシーが親しい女は存在しない筈だ。
 もしもこのスレッド内に書かれている事が奴の妄想でないとしたら、菩薩…リンドウとトッシーは今日一緒に遊びに行った事になる。しかもアニメ映画を見にだ。財布に残っていた映画の半券を眺めながら新しい煙草に火をつけ、煙を肺に入れた。
 昨日までのリンドウの様子を思い出すが普段と変わりない様に見えたし、一緒に出かける話など一切聞いていない。
 再度部屋の中をひっくり返すが、トッシーがリンドウからプレゼントされたと言うトモエのストラップとやらは見つからなかった。俺に捨てられるのを恐れて、どこかにトッシーが隠したのかもしれないし、そんなものハナから存在しないのかもしれない。寧ろ突っ込むべきは、スレッドの住人に誰に似ているか聞かれて『土方十四郎似』とぬけぬけとトッシーが書き込みをしている事だろうか。一応体は本人だし。似てる以前の問題だし。
 他にも突っ込むべきところは山ほどある。ファンサイトとかなんだよ。キメェし。何で俺が飯食ってる写真とか普通に晒されてるんだよ。
 態々トッシーを見に映画館まで突撃した奴も呪われろと思いながら再度スレッドに目を通す。
「…」
 道場に行ってみる事にした。
 年末に買ったモップがまたくたびれたので新しいのが欲しいとアイツが言っていたのは事実だ。映画の半券とこのスレッド以外に事実を確認するにはモップが新調されているかどうか以外にないと突然思い立ったのだ。
 携帯を握り締め猛ダッシュで道場に向かう。時間が時間だけに幸い人はおらず、がらんと広い道場の片隅にある掃除道具入れの前に立つと、一瞬躊躇った後勢いよく扉を開けた。

…モップどころか洗剤まで補充されてるんですけど。

 思わずその場で泣き崩れそうなるのを堪えながらパタンと扉を閉めた。
「…意味がわかんねーよ」
 そもそも、アイツとトッシーがどこで接触して遊びに行く約束を取り付けたかも解らない。誕生日祝い云々書いてあったのでアイツがトッシーを見つけて誘ったのかもしれない。しかも俺に内緒でだ。知ってたら全力で妨害したが。
 暗い道場の中で再度携帯を開いてスレッドを読む。

 

209 :トッシー侍◆toMOE5000:2009/05/09(土) 18:39:43
>>207
フラグ…はよく分からん(´・ω・`)
でも、また一緒に遊びに行きましょうね、って言われた!
これはまさか…?

 

 目が留まったトッシーの書き込みを3回読み直して俺は溜息を吐いてその場に思わず座り込んだ。
「またっていつよ。勘弁してくれよ」
 またいつか似たようなスレッドが立つのだろうか。俺はこれから毎日この掲示板をチェックしなければならないのか。
「トッシーの野郎…」
 絶望的な気分のまま俺は自分の部屋に帰る事にした。明日アイツはいつも通り俺と接するのだろうが、俺はどんな顔をして会えば良いのか全く解らなかった。


日暮れて道遠し土方編。
トッシーが立てたスレッドに興味がある方は、下をぽちっとして下さい。
寧ろこっちがメインです。
某大型匿名掲示板に似せて作ってますので、不快な方は回れ右でお願いします。

人生初デートのオタク男に助言求む

オオアザ殿協力の元、出せる力を全て出し切って作りました。

200905 ハスマキ

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