*月に叢雲花に風*

 近所の神社で行われる夏祭り。今年は真選組も地域との交流を図る為になるだけ参加という事になり、そのメインイベントに出る為に一同は神社奥の鳥居の前に集まっていた。
「遅刻ですぜィ近藤さん。もう他のチーム決まっちまったんで3人で組んでいただきやす」
 くじ引きの箱を持った沖田は、一番最後に鳥居をくぐった近藤・土方・リンドウにそう言うと3人に紙切れを渡す。
「え?8時集合って沖田隊長言ってませんでした?」
 紙切れを受け取りリンドウが口を開くと土方は時計を確認する。8時に至るまでは又15分はゆうにある。遅刻といわれる筋合いはなかったのだ。
「俺も8時って聞いたような気がするな」
 近藤が首を傾げながら言うと、沖田はワザとらしくポンと手を叩くとすみせんと殊勝な顔をする。
「終わるのが遅くなるからってんで途中で7時半に繰り上げたんでした」
「お前ェわざと俺達の知らせなかったんじゃねぇか?」
 遅刻の濡れ衣まで着せられた上に、チームがこのメンバーと言う事に腹を立てた土方は沖田を睨みつける。はめられた。そう思ったのだ。しかしリンドウと近藤は、失敗は誰にでもあるよね、等と暢気に笑っている。
「俺は参加しねぇ」
「土方さん怖いんですかィ」
 吐き捨てる様に言った土方に間髪いれず沖田は食いつく。土方のイラつきを更に引き上げるのには十分すぎる沖田の人を莫迦にしたような顔を見て思わず土方は、ふざけんなと声を荒げ沖田の襟元を締め上げ睨みつける。
「とりあえず神社の裏側にある小さな祠に判子置いてるらしいですから、それポンと押してさっさと戻ってきてくださいよ。怖くないんでしょ土方さん」
 襟元を締め上げながらもニヤニヤと笑う沖田に舌打をすると土方は手を放し漸く紙切れを眺める。
 人間誰にでも苦手なものはある。
 実は土方は幽霊の類が苦手であった。人は切れるが幽霊は切れないので鬼の副長も打つ手なしなのだ。

──納涼肝試し。

 それが今回のメインイベントであった。

 そもそも主催である町内会の人間にさくらとして肝試しに来て欲しいという依頼があったのが発端であり、嫌われ者の真選組なりにイメージアップを図ろうという事で参加が決定したのだ。しかし話が急に来た為に、近藤はとりあえず側にいた沖田に隊員への連絡など丸投げしてしまい全ては沖田が好き放題にセッティングした形になる。つまり壮大な土方への嫌がらせ計画である。本人は隠しているが土方が幽霊の類が苦手なのを沖田は知っているし、肝試しなど下らないと参加しない可能性が高かった。だからこそ近藤とリンドウに土方を説得させ渋々でも参加させることにしたのだ。多分本人は認めないが土方は圧倒的にこの2人に甘い。
「流石に暗くなると怖いですね」
 ふぅっと憂鬱そうな顔をしたリンドウは近藤と土方にの方を見て更に言葉を続ける。
「でも3人だったら大丈夫ですよね」
 その言葉に沖田は思わず笑いを堪えた。コレなら絶対プライドの高い土方は降りられないと確信したのだ。此処でヘタレた発言は絶対にしないし、意地になって参加するに違いない。
「心配しなくてもトシがちゃんとゴールまで連れて行ってくれるぞハルちゃん」
「俺かよ!近藤さんじゃねぇのかよ!」
「よろしくお願いします副長」
「信じてるぞトシ」
「…嬉しくねぇなオイ」
 近藤は恥も外聞もなく土方に頼る気満々で言い放つ。その顔をみて土方は溜息をつき腹を括るしかないという事を悟った。多分ビビリの近藤と女のリンドウコンビでは絶対にゴールまでたどり着けない。
「それじゃぁ適当にスタートしてくだせェ」
 3人の様子を伺っていた沖田は土方が参加する気になったのを察しって3人をスタート地点に追いやる。余りグズグズしてると近藤辺りが怖気づく危険があったのだ。

 

 神社の境内はまともな明かりもなく薄暗く、所々に肝試しの順路を示す看板が小さな提灯と一緒においてあるだけである。その中をイカツイおっさんと、煙草をくわえた瞳孔の開いた男と、平凡な女が連れ立って歩く。この度彼等は真選組の制服では他の客には威圧的だという理由で浴衣を着用しているのでぱっと見は真選組に見えないであろう。しかし奇妙な取り合わせだと誰もが感じる。
 ちらりと近藤に視線を送った土方は大きく溜息をつく。真選組の局長とは思えないほどのへっぴり腰でしきりに辺りの様子を伺っているのだ。無論土方とて怖いものは怖いのでつい辺りの様子を気にするがここまで酷くはない。寧ろ女性であるリンドウはやや表情は硬いがしゃんと歩いているのが野郎としてなんとも情けない。
「大丈夫ですか近藤局長」
 心配そうに声をかけるリンドウに近藤はぎこちない笑顔を作ると大丈夫と短く返事をする。どこから見ても大丈夫ではなさそうであるがあえて土方は突っ込むのを辞めた。
「ハルちゃんは怖くない?」
「暗いのは平気ですけど場所が…お墓通るんですよね…」
 隠密・諜報と言う仕事柄暗闇には比較的慣れているリンドウであるが流石に墓での仕事はしたことがない。夜に通るのは流石に気分が滅入るのか少し表情を曇らせて視線を先に見える墓の方へ送る。この先の祠に行かねばならないので厭でも通る道なのである。
「ったく情けねぇな近藤さん」
「だってトシ!此処出るって噂あるし!」
「マジで?」
 近藤の言葉に土方はぎょっとすると思わず視線を道の先に送り息を詰めた。幽霊は流石に引く。というか無理だ。明らかに歩行速度が鈍ってゆくのを感じながら土方はちらりとリンドウの表情を伺う。
「…幽霊でたらどうしたら良いんですかね…」
 真っ青な顔で呟くリンドウはすがる様に土方と近藤の方をみて足を止める。
「帰っても良いんだぞ」
「いえ…あの、頑張りますから」
 頑張らなくて良いからそこ!と思わず心の中で土方は盛大に突っ込む。此処でリンドウが無理ですと一言言えば自分達は彼女を連れてさっさと引き返せる。しかし彼女は真っ青な顔をしながらも前に進むというのだ。
「あっそ」
 短く返答するしかなかった土方は溜息をつくと気は重いが足を一歩踏み出した。
 その時。

 ガラスの割れるような音と、オッサンと女の悲鳴が響き渡った。

「おい、ちょっと!落ち着け!」
 土方は咽喉まで出かかった悲鳴を無理矢理押さえつけるととりあえずパニックを起してギャーギャー悲鳴を上げる二人を落ち着かせようと声をかけるが一向にそれが彼等の耳に届く様子もなく、リンドウが涙目で近藤にしがみついた途端、近藤は土方の予測を越える行動にでた。
「うわっ!!!!」
 抱きつかれたのリンドウならこんな事態にならなかっただろうが抱きついてきたのが自分よりガタイの良い近藤だった事が災いして土方は盛大に転倒する。幸い尻餅をつく程度で済んだが、下手をしたら頭を打って死んでいたかもしれない。
「駄目だ!トシ!帰ろう!怖い!怖い!」
 オッサンの涙目など間近で見たくないだろうが近藤が土方を放そうとしないで問答無用で土方は近藤を引き剥がそうとする。
「離れろよ近藤さん!動けねェだろうがよ!つーか、アンタも落ち着け!」
 いまだパニックを起す近藤と、それにしがみ付いて離れないリンドウに声をかけながら土方は引き剥がしに四苦八苦する。無駄に力が強い近藤を剥がすのは至難のわざであった。
「厭だ──!トシ!手ェ繋いで!お願い!一生のお願い!もう無理!」
「ふ・ざ・け・ん・な!気色悪ィ!!!!」
 誰が好き好んでオッサンと手を繋いで歩くだろうか。いくら近藤の頼みとはいえそれは飲めないと土方は何とか近藤を落ち着かせようとするが一向にうまく行かず頭を抱えるしかない状態に陥る。そこで漸く落ち着きを取り戻したのかリンドウが真っ青な顔をしながら口を開いた。
「あの…近藤局長…」
「ほら!ハルちゃんからもトシにお願いして!」
「近藤さんは黙れよ!つーか、落ち着け!」
 言い合いになった2人を遮るようにリンドウはゆっくりと震える手を近藤に差し伸べると今にも泣き出しそうな顔を無理矢理笑顔にして言葉を続けた。
「副長ほど頼りにはならないと思いますが…私が近藤局長手を繋いでもいいですか?」
 それが予想外の言葉であったので土方は思わずリンドウを凝視する。泣き出しそうな程怖い癖に近藤の為に勇気を振り絞ったのだろう。差し出された白い手を近藤は暫くぽかんと眺めていたが、突然思い立ったようにしゃんと立ち上がりびしっと右手を差し出し45度に体を折る。
「よろしくお願いします!」
「…はい」
 プライドねェなオイ!といつもなら突っ込む所だが土方はあえてその言葉を飲み込んだ。近藤の素直さが今はどうしようもなく羨ましかった。それは自分には到底真似できない事。
──素直に甘えることが出来ればどんなに楽か。
──素直に甘えさせる事が出来ればどんなに楽か。
 それは今更考えても無駄なことだと自分に言い聞かせながら土方は漸く近藤から解放されたのを思い出し立ち上がろうとする。すると自分の目の前にも白い手が差し出されているのに気がついた。
「副長」
 それは無理だと心の中で呟き土方は目を細める。手を払いのける事も取る事も出来ないと。震える手で近藤どころか土方まで気をかける目の前の女は莫迦だと思った。好きな男の手を握っているのにどうでも良い男まで助けようとしているのだ。どこまでも優しくて損な性分。土方にはその優しさがどうしようもなく辛くて泣きたくなった。彼女に優しくされる度にどうしても諦めきれなくなる自分を自覚して自己嫌悪に陥るのだ。
「アンタは近藤さんの面倒を見てろよ」
 手を取る訳でも払いのける訳でもなく言葉を放つと土方は立ち上がり着物の埃を払う。リンドウは少し困ったような顔をしただけで手を素直に引っ込めるとじっと土方が準備を整えるのを待っていた。近藤も少しは落ち着いたのかリンドウの手を握り締め大丈夫かと土方に声をかける。
「大した事ねェよ。つーか、近藤さん一人で大騒ぎしてたんじゃねぇか。手前ェの心配しやがれ」

 

「オイオイ。ありゃ真選組のゴリと多串君じゃね。つーか、何あの女の子。ゴリの手引いて歩いてるよ。調教師?飼育係?」
「銀さん、多分真選組の人ですよ。時々制服着て歩いてますから」
「きっとゴリの飼育係として雇われたネ」
 真選組一同から少し離れた場所でゴソゴソと隠れて双眼鏡を覗いているのは万事屋一同であった。彼等は仕事としてこの肝試しの脅かし役を請負い、先程素晴らしい成果を上げた所である。他にもいくつか脅かし役のチームは居るが、このブロックは万事屋担当となっている。
「よーしお前等、さっきの感じからするとあいつ等は良い具合に驚いてくれそうだ。とりあえずゴリとお嬢ちゃん引き離して多串君集中攻撃で行くぞ」
「どんだけ私怨バリバリで仕事するんですかアンタ!」
 銀時の容赦ない指示に思わず新八は突っ込みを入れるが、とりあえず脅かすのが仕事なので反対する理由もない。
「神楽あれ、コンニャクの仕掛けだせ。ちゃんと教えたとおり作ったんだろうな」
「バッチリネ!」
 胸を張って神楽が取り出した仕掛けを見て銀時は思わず微妙な顔をする。確かに言ったとおり作っているがアレだ。問題はコンニャクである。
「神楽ちゃん。何で糸コンニャク。ふつー此処は板コンでしょーが」
「コレしか売ってなかったネ」
 釣竿の先に付けられた糸コンニャク。見た目は微妙であるがこの際贅沢は言ってられない。寧ろこっちの方が気持ち悪いかもしれないと思い直し銀時はそれを新八に渡す。
「そんじゃそこの木から新八宜しく。ちゃんとゴリ狙うんだぞ。神楽は次のポイントで仕掛けのスタンバイしとけ、ゴリと多串君引き離すからゴリに追い討ちかけろ。そんで終わったら多串君に集中攻撃するから戻って来い」
「アイアイサー!」
 びしっと敬礼をすると神楽は忍び足で駆け出し、新八は木にかけられたはしごを上る。それを確認すると銀時は又双眼鏡を覗き込み3人の様子を伺うことにした。
 歩くスピードは余り速くないようなので多分新八でもうまく近藤にコンニャクをヒットさせることが出来るだろう。多串君にはどの仕掛けをつかうかなぁー等と思わず鼻歌が出てしまうほど楽しげな事を考えながら銀時は草むらに潜む。

 

 手を繋いでも矢張りへっぴり腰で歩く近藤を見て土方は溜息をつく。余りにも情けない姿だが、リンドウはそれを気にする様子もなく、もう直ぐですよとしきりに近藤を励ましてゆっくりと歩いている。一方土方は近藤が余りにも莫迦騒ぎするので逆に恐怖など吹っ飛んでしまったようで、今は比較的落ち着いていた。
「トシ大丈夫か?」
 近藤が声をかけてきたのでああとだけ短く返答すると土方はゆっくりと思考をめぐらす。2人とも自分の事で一杯一杯なのに土方の事までいつも気にするのだ。2人とも莫迦だ。此処に沖田や山崎がいて、いつも通り莫迦騒ぎしていたら自分の心はこんなにも軋まないだろうかとぼんやりと考える。
 その時。
 またもや近藤の悲鳴が上がった。
 新八が近藤の首筋に糸コンニャクをクリーンヒットさせたのだ。
「ギャ──!!!!」
 思わず走り出した近藤に引きずられるようにリンドウが連れて行かれたので、土方は反射的に走り出し手を伸ばす。
「近藤局長っ!!落ち着いてください!」
 リンドウの白い手が土方の方に伸ばされる。土方だけはぐれるのを心配したのだろうか、更に声を上げた。
「副長っ!」

──諦めるか攫うかしたらどうですかィ土方さん。

 脳裏に沖田に言われた言葉が巡り、指先が微かに触れた瞬間土方はその手を掴む事を躊躇い立ち止まった。
 絵にかいたようなドップラー効果で離れてゆく2人の声を聞きながら土方は伸ばした手を暫く眺めると小さく溜息をつき、煙草に火をつけた。

 

「凄いアル!新八大金星ネ!」
 興奮したように神楽が声を上げるので新八は慌ててシーっと口元に指を当てる。新八のコンニャクに続き、神楽のセットした発火装置や人形で近藤とリンドウははるか彼方へ走り去ったので神楽は大満足だったようだ。
「えっと、次はどうしましょう銀さん」
 新八が次の指示を待つが銀時は黙ったまま双眼鏡を握り土方の方を見ていた。それを不思議に思った新八は再度彼の名前を呼ぶ。
「銀さん?」
 その声を聞いて銀時は我に返るとボリボリと髪をかき回しヤなもん見ちまったなぁとブツブツ文句を言い出す。遠くだった神楽や木の上だった新八には見えなかったであろうあの土方の表情。ニヤニヤ笑って眺めてるんじゃなかったと銀時は激しく後悔した。人間気が付かない方が良いことや見ない方が良い事だってある。正にそれだったのだ。
「銀ちゃん次私がコンニャクやりたいネ!新八だって出来たんだから私にもできるヨ!」
「神楽ちゃん声大きいって!」
「あーもううっせぇな!静かにしろ!」
「何してんだお前ェら」
 突然頭上から降ってきた声にぎょっとした万事屋が顔を上げると、そこには不機嫌ですと顔に書いてるような土方が煙草の煙を吐きながら彼等を見下ろしていたのだ。段々ヒートアップ神楽を押さえつける為に新八と銀時の上げた声が仇になり見つかってしまった訳である。
「あ…ひ、土方さん。お仕事です。僕達お仕事でここにいるんです。ね、銀さん」
「そうそう。お仕事してんだよ俺達。別にゴリとお嬢ちゃん引き離して多串君集中攻撃とか計画してる訳じゃないから」
「偉く具体的だなテメー。つーか、土方だ」
 更に土方が何かを言いかけたが、神楽の声によって遮られる。
「銀ちゃん次のお客きたヨ!新八私にコンニャク渡すネ!」
「そんじゃ新八君、神楽ちゃん、お仕事配置についてくださいー。さっきと同じ様にお願いしますねー」
 ワザとらしく銀時が言うとこれ幸いにと新八などは大慌てでその場を離れる。怒り心頭という土方を目の前に耐え切れなかったのだ。彼等が走っていくのを確認すると銀時ちらっと土方に視線を送る。
「多串君座ってくれないかなー。目立つんですけど。つーか、営業妨害?俺達此処でちゃんと働かないと家賃払えなくて明日からニートなんですけどー」
「既にニートみてェなモンじゃねェかよ」
 文句を言いながら土方は銀時の隣にどさっと座り煙草をもみ消し、直ぐに新しい煙草に火をつける。
「禁煙なんですけどお客さん」
「うるせェ。仕事しろよ」
 銀時は土方の方をちらりと見ると足元においてある機械のボタンを押す。すると先程近藤をパニックに陥れたガラスの割れるような音が響き、それと同時に彼等の側を真選組隊士が悲鳴を上げながら駆け抜けてゆく。
「だらしねぇな」
「ビビッてた癖に多串君」
「土方だ」
「ところでさ」
「なんだよ」
「あの子何?ゴリの飼育係?」
 突然話がリンドウの方に向かったので土方は銀時を睨みつけるが、銀時は土方の視線を無視しボタンを順序良く押す。
「うちの隊士だ」
「へー。ゴリにべったりだしてっきり飼育係だと思ったぜ。ふーん、隊士ねー。刀なんか振り回せンの?」
「アイツは前線でドンパチやるのが仕事じゃねェよ。山崎の手伝いだ」
 土方は煙草の煙を吐きながら不快感を募らせる。銀時が彼女に興味を持ったのがどういうわけか気に入らないのだ。アレ?だったら俺情報流さなきゃいいんじゃね?と漸く土方は気がつきしかめっ面で黙り込む。
「まぁ、根性はありそうだなあの子。名前は?」
「…」
 無視をする事にした土方は沈黙を守るが、銀時はお構いナシに喋り続ける。
「まぁいいか。今度直接聞くわ。つーか、多串君いつまでここにいるの。腰抜けて動けないとか?」
「抜けてねェ!つーか、土方だ!いい加減ウザいわ!」
「副長!」
 土方が怒りに任せ立ち上がると同時に背後から声がかかり驚いて土方は声の主の方を見る。そこには近藤の手を引いたリンドウが心配そうな表情で立っていた。
「トシ──!無事だったか!?」
 半泣きになりながら近藤に抱きつかれ土方は再度転倒する羽目になる。
「…なんで?」
 先にゴールしてしまったと思い込んでいた土方はぽかんとした表情で2人を見るが直ぐに我に返り近藤を引き剥がしにかかる。するとリンドウは申し訳なさそうな表情で土方に先に行ってしまった事を詫びる。
「アンタの所為じゃないだろ。つーか、近藤さんいい加減離れろ!」
「もう会えないかと思ったぞトシ」
 涙目で見つめられても全く萌えない近藤を漸く引き剥がすと土方は大きく溜息をついた。莫迦な上にお節介な2人は怖いの我慢して土方を探しに来たのだろう。
「お迎えも来たんだしいい加減営業妨害やめてくれない多串君」
「ひ・じ・か・た・だ!」
 今にも銀時に掴みかかりそうな土方を見て安心した様な表情を浮かべるとリンドウは手を土方に差し出す。
「副長。行きましょう」
 差し出された手をぼんやり眺める土方を横目で見ると銀時はボソッと呟く。
「つーか、此処にいたいなら俺と仕事代わってよ多串君。俺がその子と手ェ繋いで帰るからさ。あと2時間クソ暑いのに仕事とかありえねーし」
「ふざけんな!誰が手前ェの仕事なんかやるか!帰るぞ近藤さん!」
 土方は声を荒げるとリンドウの手を取り立ちあがる。するとリンドウは少しだけ笑ってはい、と返事をした。
「それじゃぁえーっと、万事屋さん…ですよね。失礼します」
 リンドウが土方の手を放し丁寧に頭を下げたので銀時はつられて頭を下げる。
「今度お茶でもしない?」
「万事屋の方は新八さん以外と仲良くすると叱られますので」
 ニヤリと笑って言う銀時にリンドウは笑顔で、万事屋憎むべししかし新八君にだけは優しくすべしと言う局中法度を持ち出しさらりとかわす。本来は叱られるどころか切腹モノであるが、なんだかんだで接点が多い万事屋と真選組なので中々適応されにくいらしい。現に土方がグダグダ銀時と話をしてたのも厳密に言えば引っかかってしまうものである。
「それじゃ頑張っていくかトシ!」
「あんたの所為でグダグダだったんじゃねェかよ!ったく。早く帰りてェ」
 煙草の煙を吐きながら面倒臭そうに言う土方を見てリンドウは穏やかに微笑む。半泣きになりながら土方を探しに行くと言いだした近藤の目的が果たされて満足したのだ。
「近藤局長。副長がいるからもう大丈夫ですか?」
 リンドウが手を差し伸べたので近藤は少し恥ずかしそうに笑うと手を取る。
「ゴールまで行ったら厠までお願いします!」
「良いですよ」
「オイオイ。マジかよ近藤さん」
 呆れた様に言う土方の手を近藤は強引に取ると、コレで今度ははぐれないな!と満足そうに笑う。土方はそれを一瞬振り払おうとしたがああ、そうか、コレなら軋まないとうっかり納得してしまい結局そのまま3人並んでゴールまで歩いてゆく羽目になる。無論ゴールで待ち構える沖田が自分達を莫迦にするのは目に見えている。

──軋んで壊れちまうよりはましか。

 遠くに祭囃子を聞きながら土方は煙草の煙を一気に吐き出すと諦めたような顔をして歩き出した。


季節はずれで申し訳ありませんorz

200809 ハスマキ

【MAINTOP】