*戻ってるに決まってんだろ*
「よし。カグヤちゃんの所行こう」
「待てコラ、ふざけんな」
デコボッコ教によって性別転換を強要され隔離されたかぶき町。
万事屋と真選組は監視カメラをハッキングするために、手分けをして街に散ることとなったが、突然銀時がそう声を上げたのだ。
「いや、ふざけてるとかじゃなくてね、奴らの目を欺くにはとりあえず従順にしてた方がいいじゃん。カグヤちゃんとこ行って、こう化粧品とか、服とか借りたほうが不自然じゃないかなって思ったんだけどよ」
大真面目な銀時に言葉に、土方は思わず言葉に詰まった。秘密裏に事を運ぶならば銀時の提案もそう悪いものではない。
「まぁいいや。X子行かないんだったら俺だけ行くし。あ、ジミーもどうよ。お前カグヤちゃん所に座敷用の服とか置いてるんじゃね?」
「え?そりゃ置いてますけど、流石にそんな派手な服着物着て歩けませんよ。っていうか、旦那……先生どうなったか見に行きたいだけなんじゃないですか?」
やや呆れたような口調の山崎の言葉に、銀時は僅かにぎくりとしたが、まぁーちょっとぐらいな、と言葉を濁す。
その様子を土方は不快そうに眺めていたが、銀時だけを行かすのは気に入らなかった為に渋々と了承する。
「X子に合う着物あるといいけど〜」
「着物って縦は割りと融通効きますけど、横はねぇ……」
「うるせぇよ!」
「やだーX子!怒らない怒らない!ほら、女の子は笑顔笑顔!」
ぶん殴りてぇと心の中で呟きながら、土方はそれをぐっと堪え、彼等と共に三味線屋を訪れることにした。
三味線屋の勝手口に手をかけた土方を見て、銀時はそれを慌てて止める。
「何よ。会いに来たんじゃないの」
監視カメラを警戒して、一応女のように喋ってはいるが、心なしか口端がひくひくとする土方を眺め、銀時は大袈裟に首を振った。
「やだーX子。いくら恋人の家って言っても私達この格好じゃない?警戒されるかもしれないわよ。美女と地味と豚の組み合わせとか」
「誰が豚だ!!!!」
取っ組み合いの喧嘩になりそうになった所、勝手口の扉が開き、一同そちらに視線を送る。
「うるせぇよ銀時。入るなら入れ」
「高……」
扉の向こうから顔を出してきたのは、隻眼の煙管を持った男。思わず銀時と土方は刀に手をやり腰を落とすが、山崎は直ぐに声を上げた。
「先生?」
「正解」
よくよく見ると、顔はカグヤであるし、正解の声は先程聞こえた声とは違う。
「……似てた?銀さん驚かそうと思ってさ、練習してスタンバってた」
「声帯模写までかよ!ヅラ並のスタンバり具合じゃん!何してんの!」
思わず声を上げた銀時の口を山崎は慌てて抑えると、小声でカグヤに呟く。
「すみません監視の目があるかもしれないんで、中、いいですか?」
「どうぞ」
ぽかんとしたままの土方と、銀時を押し込めるように山崎はカグヤの家に入っていく。
「どうぞ、ちょっと散らかってるけど」
部屋の隅に着物が積んであるところを見ると、ご丁寧に高杉な好みそうな着物を物色していたのだろう。呆れた銀時はしげしげとカグヤの顔を見て、口を開いた。
「よく見たらあんま似てねぇな。アイツチビだし。つーか、背ェ伸びた?」
「うん。声帯模写がね、一番似てたからさ。辰さんは方言難しいし、ヅラちはほら、外見的な特徴以外似せにくくてさー。インパクトあるかなぁって」
お茶を入れながらそう言うカグヤを眺め、土方は大きくため息をついた。混乱しているだろうか、困っているだろうかとちらりと脳裏によぎったが、彼女は予想以上に図太かった。
「その煙管どうしたの」
「これ?さっき外でた時についでに買ってさ」
「外に出たのかよ!?こんな状況でか!?」
驚いたように土方が声を上げると、カグヤは彼を見て咽喉で笑った。
「だってさ、性別変わると色々困ることもあるじゃない」
「……まぁそりゃそうだけどよ……」
そもそも土方たちも着物やら化粧品を借りにここに来たのだ。そう考えれば、カグヤが何か物資を調達しに外に出たとしてもおかしくはない。が、ぱっと見、彼女の着ている着物も女物であるし、せいぜい買い足したのは煙管位であろう。
「パンツとかさー。股間の大太刀の収まり悪くて大慌てで買いに行ったんだけど、どっこも売り切れで参ったわー。これどうしたら良いの?いっその事ノーパンとかの方がいい訳?」
大真面目に聞くカグヤを見て、土方は茶を吹き出し、山崎は曖昧に笑った。
「大太刀とかふかし過ぎじゃね?」
「そんじゃさ……手前ェのその身体で試して見るか?ぶっ壊れるまで付き合うぜ」
銀時に言葉にそう返したカグヤを見て、土方と山崎は思わず固まる。
顔はカグヤだ。けれど声色と口調を似せただけでこんなにも別人の様になるのだろうか。土方は思わず彼女の顔を凝視する。元々あった彼女の華やかさは、男性になることによって女性らしさが削ぎ落とされ、研ぎ澄まされた刃物のような鋭さを持った。
「……ぷっ……」
黙る土方の横で、銀時が肩を震わせて吹き出したのに釣られるように、カグヤもまたぷーっと吹き出す。
「あははははははは!やべぇ!すげーいいそう!腹痛ェ!!!!」
「似てた!?似てた!?あははははははは!」
ゲラゲラ笑う二人をぽかんと眺めていた土方は、少しだけホッとしたような顔をした後に、拳を震わせて銀時の頭に振り下ろした。
「急いでるんだろ!?」
「ちょ!なんで俺!?今のはカグヤちゃんが悪いだろ!?」
「煩ェ!」
怒る土方を眺め、カグヤは素直に謝罪すると、何しに来たのさ、と言葉を放った。
「服と化粧品貸してくれ」
憮然と言い放つ土方を眺め、カグヤはニンマリ笑った。
とりあえず事情を話、カグヤから着物やら化粧品を調達する。
「こうさー、お目目ぱっちり系のーかわいい感じにしてよー」
「はいはい」
銀時に化粧をしながらカグヤは呆れたように返事をする。一方山崎はカグヤの家に置いてある自分用の化粧品を引っ張り出し、いつもよりは薄めに化粧をする。
「あんま変わんねーじゃねぇか」
「君菊みたいにバッチリする必要もないですよ。とりあえず化粧してれば、それなりですから」
ガッツリと化粧した所で、街中走り回れば剥がれる可能性もあるし、逆に浮く。それを考えて原型が残る微妙さ加減で仕上げているのだろう。
「兄さんの着物どうする?合うの無いわよ」
「そっちはいい。面倒だが化粧だけ頼む」
「カグヤちゃん。兄さんじゃなくて、X子ね。X子ちゃん」
銀時に言葉にカグヤは不思議そうな顔をして口を開いた。
「なんでX子?トシ子とかじゃないの?」
「うるせぇ、聞くな」
定着してしまい、もう修正も面倒くさくなった土方が投げやりに言うよ、カグヤは咽喉で笑う。
そんな中、土方は先程から気になっている事に漸く口を開いた。
「あのよ。さっきから携帯ピカピカしてんぞ」
卓に放置されている携帯の光がさっきから気になっていたのだ。何度か震えているが、彼女は一向に取る気はないらしい。
「いいのいいの。眼鏡からだから」
「眼鏡?新八?」
「違うわよ、モノクルの方」
銀時の言葉にカグヤは心底嫌そうに返答すると、銀時のまつげを上げながら更に言葉を続ける。
「例の光のあと速攻でメールきてさー。何か、かぶき町隔離されますが、無事なら助けに行きますが、みたいな感じ」
幕府でも中枢にいる彼は政府の方針を知っていたのだろう。忌々しそうに土方は舌打ちすると、それで、と話を促した。
「無事じゃないから放っといて、って超キメ顔でメール送ったわ。自撮りって難しいのね、何回もやり直したわぁ」
そう言うと、カグヤは携帯を開きそれを土方に放り投げる。
そこには、やや煽り気味で、見事に高杉と見紛う如くキメ顔の彼女の写真があり、思わず土方はため息をついた。
「で?」
「\(^o^)/って返事来たわよ」
「この写真のために包帯と煙管か」
「そうそう」
今は化粧を施すのに見えにくいという事で包帯は外しているが、このイケメン顔で微妙な女口調はオネエ以外の何物でもなく、土方は微妙な顔をする。しかし、ここで男らしい口調にしろと言えば、きっとまた高杉を真似るのであろう。ただ、今は、例の宗教団体に目をつけられないに越したことはない。
「……あんま出歩くな。監視の目がある」
「はいはい。パンツだけ調達したら大人しくしてるわよ」
「いいだろパンツ!」
「生装備でいろっての!?そっち方面に開眼したらどうすんのさ!」
「……心配しなくても俺達があいつらの本拠地抑えて直ぐに元に戻る」
土方の言葉に、カグヤは少しだけ驚いたような顔をしたは、直ぐに笑った。
「そっか。じゃぁ頑張んなさい。私が役に立てるのは化粧位?」
「十分だ」
「……あれだよなー、カグヤちゃん美男子なのに、X子残念すぎんだろ……絵になんねーだろ」
「旦那!」
二人のやりとりを眺めていた銀時が口紅を薄く塗りながらそう零すと、山崎が窘めるように声を上げた。
「聞こえてんぞ」
「やだー!X子ちゃん!怒らない怒らない!女は愛嬌よ!」
キャピキャピした口調が癇にさわるが、そうも言ってられず土方はムスッとしたような表情を作る。
「はい、X子ちゃんもおしまい。まつげ擦らないでね」
「おう」
しゃべっている間に化粧も仕上げたのだろう。カグヤの言葉に土方は返事をすると立ち上がった。
「着物調達してくるわ」
すると、カグヤは少しだけ考え込んだ後に同じように立ち上がる。
身長が縮んだ土方とは逆に、背が伸びたカグヤは土方を見下ろすと、瞳を細めて笑った。
「ちょっとだけ時間頂戴」
「はぁ?」
言うやいなや、カグヤは土方の身体を抱きしめた。それに驚いたのは土方だけではなく、銀時と山崎も固まって二人の事を見る。
「……はぁー柔らかいー、超癒されるー」
「ばっ莫迦か!?」
腕の中でじたばたするX子を無視して、カグヤはむにむにとX子の駄肉を楽しむ。
「今なら、世の中のおっぱい星人の気持わかるわー」
「は・な・せ!」
「ああん」
残念そうに身体を放すカグヤを、顔を真っ赤にする土方。
「急いでるって言ってんだろ!」
「だからじゃないのさ。次に会う時は戻ってるかもしれないしさー」
ぶーぶーと不服そうな顔をするカグヤを眺め、土方は呆れたように口を開いた。
「あたりめぇだ。戻ってるに決まってんだろ」
「そっかー。一回ぐらい大太刀の切れ味試してみたかったのに」
「……間違っても外にでるなよ。絶対だからな!家にも誰もいれんな!」
「はーい」
この容姿でその気に慣れば大太刀の切れ味を試させてくれる人間などゴロゴロいるだろう。とっさにそう思った土方はしつこい位に念をおした。
「気をつけて行ってね。銀さんも、ザキさんも、ムリしないで」
そう言って彼女は彼等を送り出した。
結論から言うと、家でのんびりしていたカグヤはその後女の姿に戻り、地下で敵を追いかけまわした彼等は光を浴びることなく性別が戻ることはなかった。
絶望に打ちひしがれ、それでも生きていかねばならないと、真選組は松平の計らいで暫し休業をしている。幕府の命令で宗教団体を追い詰めた挙句の惨事なので、労災扱いなのだろう。一応彼等を戻すために行方を追っているとは話に聞いてはいるが、真選組の面々はそれでも日銭を稼がねばならず、かぶき町にて店を一時的に開いていた。
「元気だった?」
「元気に追い返された」
家で茶を飲むカグヤは、目の前にいる全蔵に茶を勧める。すると彼は少しだけ笑ってドーナツ型座布団に座ると、そう返答した。
「たまに周りに押し込まれて相手してくれるけどな」
「まぁ、接客向きの性格じゃないしねぇ」
「好みなんだけどなぁ」
話題に上がっているのはX子こと、土方の話で、たまたま全蔵が店でみつけてカグヤにその話をしたのだ。ウキウキとカグヤは店に出かけていったが、怒り狂った土方に追い返され、趣味と実益を兼ねて時折全蔵が通ってはカグヤに話をする。
「……で、X子は寄り付かないんだ」
「そうよー。遊びに来てくれればいいのにー」
不服そうに唇を尖らせるカグヤを見て、全蔵は咽喉で笑った。土方にしてみれば、男に戻れない上に、B専と名高い全蔵ドストライクの外見になったのだ、カグヤとは会いにくいのだろう。もっともカグヤは気にした様子はないのだが。
「こんな状況高杉にバレたら出戻りじゃね?」
「どうかしらねー。私のところじゃなくて、X子ちゃん見に行くんじゃない?」
想像するとなんだか笑えて、全蔵は口端を緩めるとお茶を飲む。
「そんじゃ、見廻組の方は?」
「メールは阿呆みたいに来るけど、真選組がいないからそれなりに忙しいみたいでね。態々家までは来ないわよ」
実際、休業中の真選組の代わりに忙しく働いているのか、メールは仕事が忙しくて休みがないだの、エリートの仕事ではない地味な仕事を肩代わりしているだのそんな内容が多いのだ。
「そんじゃあれだ、俺がこうやって姫さんとゆっくりお茶出来る一人勝ちか」
「いや、勝ち負けの意味解らないけどね」
呆れたようなカグヤの言葉に全蔵は咽喉で笑うと、お茶を飲み干して立ち上がった。
「そんじゃお仕事行ってくるわ」
「ピザ屋?」
「いや、別件。つーか、姫さんさ、副長さんでもX子でもどっちでもいいのか?」
「兄さんの引き締まった身体もいいし、X子ちゃんのふくよかな身体も超癒されるし捨てがたいわよねぇ。あばたもえくぼってね」
その言葉に全蔵は驚いたような顔をしたが、直ぐに笑った。相変わらず変わった女だと。あばたどころの話ではないだろうに、それでも構わないとさらっと言い切れる辺りカグヤはやっぱりどこかネジが飛んでいる。
「……じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
こうやって気兼ねなく彼女と話せる時間が取れないのは残念だが、コレも仕事だと、全蔵は音もなく姿を消した。
カグヤの家の前をウロウロする土方。挙動不審であるし、今までなら呼び鈴を鳴らすこと無く勝手に入っていたというのに、何度も勝手口に設置されているブザーがなるだけの安っぽい呼び鈴に触れては放すの繰り返し。
一度大きくため息をついた後、意を決したように呼び鈴を押す指に力を込めようとするが、それより早く勝手口が開いた。
「どうしたのさ。入んなさいよ」
「お……おう……」
肩透かしをくらい、土方は視線を彷徨わせるが、そのまま招かれるまま家に入ってゆく。
X子としてここに来るのは二回目であるが、身長の関係か、はたまた性別が変わったせいか少し違う部屋に見えて、戸惑ったように足を止めた。
「お茶入れるから座ってて」
台所に向かうカグヤを見送り、土方はいつも通り定位置に座り彼女が戻ってくるのを待った。
掃除が行き届き、綺麗な家であるが、仕事用のもの以外の私物が少ない。先日お遊びのために買い足した煙管は煙草盆の上に置かれており、使った形跡はなかった。カグヤは煙草を吸わないのないのだから当然ではあるが、嘗て高杉がこの家に出入りしていた事を思い出して、土方は反射的に渋い顔をした。
「お店は?お休み?」
「今日は終ェだ。……別件の仕事が入った」
「へぇ」
出されたお茶を飲み、土方はそう返答する。そしてカグヤは黙ったまま土方を眺めて、瞳を細める。
「……行方分かったの?」
「御庭番衆から聞いてんのか?」
「何となくよ。今日ピザ屋じゃない仕事があるって言ってたし、そうなると本業の方かなって」
松平公の命により、御庭番衆はでこぼっこ教のアジトを総ざらいして、彼らが次にどこに行くのかという計画書を探しだしたのだ。真選組がやっても良かったのだが、この手の情報収集は御庭番衆の方が得意であると判断されたのであろう。実際にアジトに乗り込んだ猿飛、そして御庭番衆元筆頭の全蔵が中心となって、各地のアジトを虱潰しに当たって行ったのだ。
そして漸く掘り起こした渡航計画書。無論、この通りに彼らが出向いていないかもしれないが、闇雲に宇宙へ繰り出すより良いだろうと、松平は真選組、及び、性別を戻しそこねた面々をそこへ送り込む許可を取り付けた。
今日店に来た全蔵は、その命令、及び計画書を真選組に持ち込んだのだ。今頃山崎は万事屋に走っている事だろう。
漸くあの苦行の接客業とも、この重たい身体ともおさらばだと喜んだ土方であったが、帰り際に全蔵に言われた言葉を思い出しここへ足を運んだのだ。
「御庭番衆が……手前ェが全然俺がこねぇってぶーたれてるって言ってたから、留守にする前に顔出しとこうと思ってよ」
「あら嬉しい。気を使ってくれたの?」
「……そんなんじゃねぇよ」
笑ったカグヤを見て、土方は不機嫌そうな顔をすると、お茶を一気に飲み干した。
「そんじゃさ、ちょっとだけ抱いていい?」
そう言われ、土方は顔を赤くすると、少し考えた後にカグヤの側へ移動した。
「……あんま揉むな」
ぼそぼそとそう言う土方を見て、彼女は笑うと、ぎゅーと彼の身体を抱きしめ、肩に顔を埋めた。
今までも抱きしめられることはあったが、X子の身体だとどうにもこうにも感覚が違い、土方は戸惑ったように彼女の背に手を回した。
「あー、柔らかいー、癒されるー。ちょっとだけ揉んでいい?」
言うやいなや、やわやわと土方の身体を撫でるカグヤに、彼は顔を背ける。
なんだこれ。セクハラじゃね?女同士だからいいのか?飲み屋に来る客より露骨なセクハラじゃねぇかよ。そんな事を考えていると、カグヤは少しだけ身体を放して、土方の額にくちづけを落とした。
「頑張ってね。まぁ、スカっても泣かない」
「……当たり引く前帰らねぇよ」
実際候補の星は幾つかあり、時間が許す限りははしごしても構わないと言われているのだ。
「もっとX子ちゃんの身体蹂躙したいけど、大仕事の前だし自重しとくわね」
「そーしてくれ」
呆れたような、それでいて、どこか安心したように土方は言葉を放つ。彼女が自分の入れ物に興味が無いことは知っていた。自分が土方十四郎であれば、気にせずそばにいることも、待っていてくれることもだ。
けれど、どこか不安で、どうしても顔を見ておきたかったのだ。
「そんじゃ行ってくる」
「気をつけて。いってらっしゃい」
いつもと同じように送り出され、安心したように土方は彼女の家を後にした。
「いやー、えらい目に合ったわ」
「無事でよかったわね。一発目で当たり?」
「そうそう」
ジャンプを読みながらそう言う銀時を眺め、カグヤは笑った。留守中にジャンプを代わりに買っておいてくれと頼まれており、銀時がそれを取りに来たのだ。二冊程度で済んだので、そう長い宇宙旅行ではなかった。
「ついでにあいつらボコボコにして帰ってきたし、暫くはこっちにこねぇんじゃね?」
「そっかー。残念ねぇ。結局大太刀の切れ味試せなかったし」
「残念とかねぇよ!二度と御免だよ!おっぱい楽しかったのははじめだけで、段々肩は凝るし、身体も思うように動かねぇし!不便だったんですけど!」
「あんだけ大きけりゃねー。男の夢と希望が詰まってるんだから肩ぐらい凝るでしょう。私には無縁だけど」
そう言い放ったカグヤを見て、銀時は口を尖らせた。それでも無事に戻ったことに関してはちゃんとカグヤは喜んでくれたのだから文句も言い辛い。
「そんで、マヨ方君は来たの?」
「メールで戻ったとは言ってたけど、仕事溜まってて死にそうだって缶詰みたい」
キャバクラを開いていた時期も足せば結構な間屯所を開けていた計算になる。いくら見廻組が肩代わりしていたとっても限度があったのだろう。戻ってきてそうそう、見廻組から大量の仕事が真選組に戻されたのだ。
「ごしゅーしょーさまだな」
「まぁ、落ち着いたら来るでしょ」
「……そーゆーとこカグヤちゃん寛大だよな。顔ぐらい見せろって切れてもいい所だと思うけど」
「生きて元気だってわかってりゃ構わないわよ」
それ以上は望まない。いや、まだ望めないのだろうか、そんな事を銀時はぼんやりと考える。長く彼女といるが、どこか希薄な所があるのだ。薄情なのではない。きっと色々な瑕が彼女をまだ縛っている。それでもシスコン兄貴が片付いただけマシになったのだろうと思い直し、銀時はジャンプの頁を捲った。
「そんじゃ今日は俺と飯食う?一応復帰祝にバアアが焼き肉おごってくれるんだけどよ。カグヤちゃん一人ぐらい増えても文句ねぇだろうし」
お登勢が太っ腹なところを見せたのだろう。その言葉を聞いてカグヤは笑ったが、いいや、と瞳を細めた。
「なんで?牛だよ、特上カルビだよ?」
「……なんでかなー。今日あたり兄さん来そうな気がする」
「そっか。そんじゃ仕方ねぇな」
そう言うと、銀時は苦笑してジャンプを二冊掴むと立ち上がった。
「そんじゃ帰るわ。遅刻したら肉なくなるし」
「はいはい。ジャンプ代は復帰祝でおごりにしておいてあげる」
「やっすいなぁ」
けれど厭そうな顔はせず、銀時は笑って彼女の家を後にした。
そして暫くすると、彼女の携帯が鳴り、カグヤはそれを取る。
「……うん、暇よー。そんじゃ、焼き肉にする?復活祝に奢るし」
電話の相手は土方で、漸く仕事の目処が付きそうだと言う話であった。
「そうそう、私がたまにぼっち焼き肉してる店。八時ね。了解ー」
そう言うと彼女は電話を切って時計を見る。まだ夕方で時間に余裕はある。カグヤは鼻歌を歌いながら身支度を始めた。
アニメで丁度やってたんで
20150701 ハスマキ