*遺跡探索*

 その日たけきの藩国はマジックアイテム探索部隊を組んでFEGへ繰り出した。
 今後の戦争で有利に働くアイテムを探せればと、新人中心にセレクトされたメンバーで探索部隊を組んだ内の2班目…リーダー化野率いる世界忍者中心のこの部隊。リーダー騎士・化野、世界忍者・梅本・ボロマール・梅野・りっか・時雨、ドラッグマジシャン・ひわみの6名で編成されている。
 偵察の世界忍者部隊、探索のドラッグマジシャン、そして戦闘特化の騎士と比較的バランスの取れた部隊であるが、難を言うと世界忍者が器用貧乏なタイプであり、そこそこ何でも出来るが特化する能力がない事である。そんな微妙なユニットをゾロゾロ引き連れてリーダー化野は目標の遺跡へ向かった。

 砂漠の乾いた風が彼らの頬を叩く。本来羅幻王国で行われる筈だった探索は急遽FEGに変更されたので、装備品等の準備も慌しく行われる事となった。砂漠の砂と直射日光を避ける為に持たされた布を被った時雨は遺跡を眺めながら目を細め自分の傍を歩く騎士オプションの馬の足をポンポンと叩いた。
「変な焼け方するでござるなコレ」
 ふうっと溜息をついた時雨をみて化野も同じく溜息をつく。化野の騎士用鎧の正装は口元まで覆うタイプなので直射日光を浴びると目元だけパンダの様に焼けてしまうのだ。
「化野さんはともかく、時雨さんはその覆面取ったら良いじゃないですか」
 呆れたように最後尾をついてくるひわみは時雨の方を見た。時雨は世界忍者正装である中国風の服装を身に纏っているが、その口元は常に布に覆われている。コレは時雨オリジナルのアレンジであり他の世界忍者は使用していない。恐らくこのまま歩きまわっていれば化野の様にパンダ状態になるであろう。
「あ、私日焼け止め持ってますけど」
 紅一点であるりっかは荷物の中から日焼け止めを探そうとするが、ひわみはそれを止める。
「りっかさん気を使わないで良いですよ。時雨さんは物凄く適応能力ありますからね」
「え?あ…そうなんですか?」
 りっかはきょとんとした様にひわみを見る。りっかの前を歩く時雨は上機嫌に馬の尻を叩きながらボロマールと歌を歌いながら歩いている。旅といえば歌なんだよなぁー等と馬鹿話をしながら賑やかな様子で、傍から見ていると実に滑稽で暢気である。
「時雨さんって神経も太いし体も頑丈ですよねー」
 忍パンダを引き連れて歩く梅本は少し笑ってひわみの方を見る。それにひわみは深い溜息を思わずつく。あの神経の太さと無駄な体力・気力にどれだけ迷惑を被ったか思い出してしまったのだ。始めこそ比較的まともに見えたが、いまやひわみの中で要注意人物上位に常にランクインである。
「大体ぐれっちポジティブなんだよ。あー俺なんてリーダー任されて寝れなかったのに。元気だなぁ」
 リーダー任命を受け化野は毎日そのプレッシャーと戦い、摂政編集の[遠足のしおり]と書かれた作戦書を片手に何日も眠れない夜を過ごしていたのだ。無論藩国全体でのサポートはあるが、指揮を執るという事は今ここにいるメンバーの命を預かるという事である。藩王はいつもこのプレッシャーを抱えて戦ってるのかと思うと今まで以上に尊敬する。
「あーやっぱり、世界忍者のリーダー時雨さんが良いんじゃないですか?僕確かに古参ですが…」
 『班長』と書かれた腕章をした梅本は化野に遠慮がちに提案をするが、化野は言葉を濁す。
「うーん、前線出てない人や新人の経験値稼ぎの意味もあるしなぁ今回。それに…」
「あの人は興味のある事頼まれなくてもやるけど興味ない事は何一つしないんです。リーダーにしたら暴走特急ですよ。一応偉い人の言う事は聞かねばならないとインプットはされてるみたいだから、頑張って梅本さん」
 化野の言葉についで畳み掛けるようにひわみが言葉を続ける。暴走特急などという不名誉な称号を得ている時雨であるが、意外と藩王や摂政等の命令は守っている。それ故に扱い難い人材とされているのだ。
「そうですかー。それじゃぁ頑張ります」
 納得したのか梅本はがんばろうねーと忍パンダに声をかけて再び歩き出した。

「おー。穴はっけーん」
 先行していたボロマールと時雨が足を止めその直径10メートルはありそうな穴を覗き込む。中は真っ暗で、真っ直ぐと下に向かって伸びているようであった。
「とりあえず現在の装備を確認して下さい」
 化野が指示を出すと各自装備品を確認する。とりあえず最初に必要となるのはロープである。
 そんな中ひわみは自分の装備品の中で見慣れないアイテムが入っているのに気がついた。

――――褌…しかも安全祈願って書いてある…

 反応は既に反射の域に達していた。隣で荷物を開けている時雨の胸倉を掴み自分の方を向かすと、問答無用でアイアンクローをかけたのだ。
「痛い!!痛いでござるよひわみ殿!!頭割れる――――」
「何勝手に人の荷物に褌忍ばせてるんですか。本当に隙を見せると直ぐに無駄な努力を行う!!」
「それは摂政殿が態々たけきの神社に行って安全祈願しくれた褌でござるよ。特別製なんでござ…いた!!痛い!!頭割れる!!」
 途中から悲鳴に変った時雨の声を聞きながらひわみは溜息をつく。世界忍者軍団の過半数は褌愛好家であり、日々ひっそりと褌の素晴らしさを周りに広めている。始めは靴下愛好家…つまりソックスハンターが多かった忍者軍団だが、いつしか褌愛好家まで巣食うひわみ曰く『変態の巣窟』となったのだ。その中でまともともいえる梅本・りっか両名を変態から守るのが風紀委員である人間の仕事である訳であるが、まぁ、変態というのは総じてしぶといのだ。人畜無害そうに日々趣味のマッピングをしたり忍んだりしてる時雨が実は褌を作るのが趣味だと知った時は流石のひわみも仰け反ったものだ。
「全く…馬鹿なものを」
 そう言うとひわみはその褌を盛大に投げ捨てる。それを見て時雨はシクシク泣きながら折角準備してくれたのに…と項垂れた。
「あの…私は一応持っていきますから」
「りっかさん、変態の趣味に付き合わないで良いんですよ」
 慰めるように時雨に声をかけたりっかにびしっとひわみは言うが、りっかは一応持っていくだけは持って行きますよ、と優しく笑った。正直女性のりっかに褌を渡している自体でセクハラ成立しそうなものだが、余りにもしょぼくれる時雨を見てりっかは怒るのも可哀想だと同情したのだ。
「僕も一応持ってますよー。摂政が神社に持っていった後に月光さんやモモさんと滝に打たれて安全祈願してから取りに行ったらしいですからね」
 全く持って褌にその願掛けをする精神がひわみには理解できなかったが、一応優しい2人がそうしたいというなら止める事は野暮のような気がしたので何も言わなかった。
「そろそろ良いか?偵察行ってもらって」
 そんなやり取りをみていた化野は苦笑しながら確認をした。此処で自分も褌を穿いているといったらひわみが更に突っ込みで体力を使い果たしそうな気がしたのだ。
「了解ー」
 そう言うと梅本はロープをしっかり固定しながら、忍者軍団に指示を出し、時雨は穴の深さを測るために手ごろな石を放り投げ耳を澄ます。そう深くはなさそうだが、飛び降りるのは敵や罠があると危険なので、ロープを伝って順に降りることにした。
「それじゃぁ先頭は僕で、ボロマールさん、りっかさん時雨さんの順でお願いします。じゃぁ行ってきますね」
 梅本はロープを握りながらリーダーである化野にそう言うとゆっくりと縦穴を降りていった。

 暗い縦穴は横穴に続いていた。正しくは遺跡か何かの通路に空いた穴だったようで、天井から地面に着地する形となった。
 石で整形された通路は二手に分かれており、両方の探索をする。片方は壁が崩れて行き止まりであり、もう一方の通路はなにやら他の石壁とは違う素材のもので蓋をされていた。
 時雨はコツンとその壁を叩く。
「うーん。何か仕掛けがあるんでござるかね」
「ひわみさんに調べてもらった方が良いですかね。感覚高いですし」
 梅本は少し困った表情を浮かべると、壁に触れて首を傾げる。押すとか、引くとそんな感じでどうにかなるものには見えなかったのだ。
「他に通路あるかもしれませんし、ひわみさん呼びます?一応化野さんも」
 りっかのが遠慮がちにそう言うと、梅本は頷きひわみと化野に連絡を取る事にした。その間に残りのメンバーは瓦礫で封鎖されていた反対側の通路の瓦礫撤去を試みる事にした。

「え!?馬持って行くんですか?」
「取り合えず真下には敵も罠もないみたいだし連れて行く。騎士のオプションだし、サイボーグ強化してるから多少高い所から降りても大丈夫」
 自信満々な化野をみてひわみは帰りはどうするのか聞くのはやめた。最悪下が行き止まりだらけで外に出れない場合は此処からロープで引き上げればならないのだ。その際一番働かなくてはならないのはサイボーグ強化して力が一番強い化野自身なのだから別にひわみに文句を言う筋合いもない。
「それじゃ行くか。梅本さんは他の人たちと瓦礫の撤去と他の抜け道ないかついでに探しておいて。俺達はその変な壁調べてみるわ」
 虚弱なドラッグマジシャンは戦闘に向かないのである意味化野は護衛となる。忍者軍団を全員つけるよりこの方が燃費も良いし、実は戦力的に強かったりする。
「それじゃお先に」
 梅本はひらりと縦穴に飛び込むとカツンと小さな音を立てて着地する。それをみてほぅっとひわみは溜息をつく。無能といわれる世界忍者であるが、侵入行為や偵察に関しては一応得意分野とされる。梅本の軽やかな身のこなしを見ていると中々役に立つ機会がないのを気の毒にさえ思う。
「そんじゃ俺先に降りるからひわみんは後から」
「解りました。そしてひわみん言うな」
 いつの間にか藩国で流行っている謎のあだ名が気に入らないかひわみは少し怒ったような表情を作って見せた。藩王までそう呼びのだからもう始末に終えない。
 暗い通路に下りた2人はヘルメットに装着された明かりを頼りに例の壁の方へ向かう。梅本の姿が見えないところをみると既に反対側の瓦礫に向かったようだ。
 化野の愛馬がなれない場所で緊張しているのか、僅かに首を振り警戒した様子を見せたので化野は優しく首を叩いてやる。
 しかしながら、進んでいった2人の目の前には梅本たちの言う壁らしい壁が存在しなかった。
「…開いてますね」
「開いてるな」
 首をかしげながら一応周りを確認すると、そこには偵察部隊がつけたと思われる印がある。明かりで照らすと小さく『壁。此処でござる』と恐らく時雨が書いたであろう文字が見えた。その此処と指名された場所は何一つ障害物のない通路であり、その先はなにやら広い空間があるように見える。しかしながら明かりが届かないので広さや中の状態は確認できない。
「…大丈夫ですかね」
「全く持って解らん」
 どう考えても忍者の偵察の時は壁があったのだから罠の様な気がする。もしかしたら何処かにあった仕掛けを知らずに動かしたのかもしれない。
「そんじゃ俺先頭で行くか」
「了解」

「大丈夫ですかねお二人」
 瓦礫の撤去をしながらりっかが心配そうに言うので砂神はどうでござるかねー、と埃を払いながら返答する。
「いたらドラゴン見たいなー」
「いや、梅本さん!ドラゴンは死ぬから!!」
 暢気な梅本の言葉に慌てたようにボロマールが言う。他の藩国ではドラゴンが出て大変な騒ぎになったと噂が流れていたのだ。梅本は純粋な興味でドラゴンが見たいと言っただけで、きっと一騎打ち等は望んでいないだろうが本当に出てきてしまったら全力で逃げるしかない。人命第一が藩王様からの命令だったのだ。
「もしかしたら友達になれるかもしれませんよー」
「それは宿敵と書いてともと呼ぶんですか?」
 暢気なやり取りを2人は続けるが、りっかはずっと不安そうな顔をしている。
「まぁ、いざとなったら装甲硬い化野殿囮にして紙装甲の拙者達は逃げるって形になるでござるな。というか、リーダーが囮でござるか」
 サイボーグ・騎士という装甲・白兵トップクラスの化野がこのチームの唯一絶対の盾であり剣である。
 漸く瓦礫の先に僅かな光が見え、外に繋がっているのが確認できた時、時雨は首をかしげた。
「…アレ?こっちが正規の入り口か。という事は矢張り向こうは何か仕掛けが…」
 突然彼らの背後で大きな音が鳴り響き、この遺跡を僅かに揺らす。
「なんか後ろの方で戦闘音が!?」
 ボロマールが振り返り、暗闇の中目を凝らす。しかしながら音は遠く、状況は確認できない状態である。
「梅本さん!!」
「様子を見に行きましょうか」
 りっかの声に梅本は瓦礫の撤去作業を中断して踵を返した。

 それは暗闇の中、彼等が声すら上げる前に襲い掛かってきた。
 通路を抜けた先にあった大きなホールの様な巨大空間にでた化野・ひわみ両名が探索を始めようとした時に、その敵は鞭の様にしなる尻尾で背後から奇襲攻撃をかけて来たのだ。
「ひわみさん!!」
 辛うじて騎士オプションの巨大盾でその一撃を耐え切った化野は漸く声をあげ一緒にこの部屋に入って来たひわみの名前を呼んだ。しかしながら返答はなく、化野が突き飛ばしたお陰で直撃を食らわなかったものの、尻尾に引っ掛けられ盛大にぶっ飛ばされたひわみは壁にもたれかかる様な形で微動だにしなかったのだ。
 暗闇の中目を凝らすとその敵は30メートルはあろうかという巨大な人蠍であった。尻尾で攻撃されたのが不運としか良いようがない。恐らく尻尾には毒が仕込まれている。ひわみは直撃を食らわないまでも、もしかしたらその毒にやられてしまったのかも知れない。
 化野は忍パンダと愛馬に世界忍者軍団を近くまで呼んで、詠唱準備をさせるように指示をすると、攻撃を何とか回避しながらひわみの所になるだけ近づける様に努力した。
 厚い鎧の下では冷や汗をかいているのが解って化野は汗で装備を取り落とさないように必死でその手を握りなおす。
「ひわみん!」
 彼が嫌がる名前でもう一度呼びかけてみたが、その声は巨大ホールに虚しく響き渡るだけであった。

 通路を駆ける梅本達の前に現れたのは化野の愛馬に乗った忍パンダであった。
「報告!」
 梅本の声に、忍パンダは決められたサインで返答した。
『敵奇襲・ドラマジ生死不明・詠唱準備』
 出されたサインを見てりっかは顔面蒼白になり、時雨は舌打し走り出した。だから安全祈願の褌しとけと言ったのに、と呟くが、その声には明らかに焦燥の色が伺える。時雨は『マッピングひわみん・さがみんコンビ』と呼ばれる仲で特に仲が良かったのだ。
「あだしのさん、ひわみさん!?」
 ボロマールが慌てて彼等の名を呼び時雨の後について走ってゆく。
「敵の形態は?」
『人蠍』
「蠍共が」
 走りながら忍パンダに敵の形状を確認した梅本は吐き捨てるように呟く。いつも温和で通っている梅本だが、忍パンダの統括指揮をしていると言う事もあり、非常時には冷静であり冷酷な一面を見せる事もある。
 今までに聞いた事もない梅本の言葉にりっかは驚きの表情をみせるが、直ぐに唇をかみ締めて闇の通路の先を見据える。ひわみの無事を信じるしかなかったのだ。

「ひわみさん…」
 時雨と共にホール入り口付近に来たボロマールは呆然とした様子でその光景を見た。多分自分達がまともにやりあったら粉砕されているであろう巨大な人蠍の攻撃を化野は壁にもたれ掛かるひわみを庇いながら耐え切っていたのだ。
「あの、蠍ヤローをぶちのめさなきゃ・・・・」
 ボロマールは唇を噛みながら背中に背負っていた杖をその手に握る。
 化野は忍者軍団に気がつき、俯いた様子でゆっくりと首を振った。
――――もう手遅れだったのだ。
「そんな!!!」
「この蠍ヤローが生まれた事を後悔するくらい、ぶちのめしてやる」
 りっかも杖を握り締めながら震える。その横でボロマールは怒りで目の色が変わっていた。
「詠唱準備」
 梅本の声が響き忍者軍団はおのおの持っていた杖を振るって詠唱を始める。
 空中に描き出される文様はそれぞれ違うもので、光の幾何学模様を描き出している。
 その幾何学模様が空中で交差し、新たな文様を描き出した時、化野の合図で愛馬が人蠍に体当たりをし、僅かに敵の隙を作る。
「粉砕するでござる!塵になれ!」
 その声を合図に幾何学模様からエネルギーが発射され、人蠍に命中する。
「理力全解放!全力で…ぶっとばします!!」
「蠍ごときがいきがってるんじゃねぇ」
「喰らえ」
 声を上げた世界忍者軍団は最後の一滴まで理力を振り絞りその一撃を放ったのだ。
 敵の巨体がぐらりと傾き、化野への攻撃が緩んだ隙に盾を投げ捨て彼は剣を握り締め大きく振りかぶる。その一撃は藩王直伝の秘奥義。
「大斬り!!!!!」
 振り下ろされた剣は緩やかな孤を描き巨大な敵を一刀両断する。
 大きな音を立て嘗て人蠍だったモノは床にその巨体を沈めそれ以降動かなくなった。
「なんとか仇を・・・ひわみさん、ごめん、判断ミスで」
 肩で息をしながら化野は項垂れる。うかつに飛び込むべきではなかったと後悔の念が過ぎる。そんな化野をりっかは慰めるとゆっくりとひわみのほうへ歩み寄る。ピクリとも動かない彼の腕には変色した傷跡があった。多分これが致命傷となったのだろう。
「聨合国に大神殿あります」
 そう言ったのはボロマールだった。その言葉に化野は顔を上げ僅かに希望をその瞳に灯した。
「それじゃ藩王様に手紙書いて忍パンダに持たせておきましょう。先に蘇生の手配をして貰った方がいいでしょうから」
 梅本は早速手紙を書くと忍パンダに持たせ、先に藩国へ帰らせた。蘇生も早いほうが良いし、他藩の力を借りるのだから日程的な調整が必要だと判断したのだ。医者も神官も居ないたけきの藩国は聨合国に頼るしかないのだ。
「それじゃひわみ殿を馬に乗せるでござる。化野殿手伝って欲しいでござる」
「ああ」
 時雨が担ぎ上げたひわみを丁寧に馬に乗せると落ちないように固定する。
 その時に漸く冷静になって辺りを見回した化野はその光景に仰天する。此処は先程倒した人蠍の巣であったらしく、色々な人の頭が干されて飾ってあったのだ。一歩間違えば同じ運命を辿っていたかもしれない事に気がついた化野達はその頭部に対して合掌して冥福を祈った。

 

 忍パンダが帰ってきたのを見た留守番組摂政・志水高末はその持参した手紙の内容に仰天し慌てて藩王の執務室へ駆け込んだ。
「褌でウロウロしない!」
 ぴしゃりと言い放った藩王に対し、志水は一言謝罪もせずに忍パンダごと手紙を渡す。
「あれ?梅本が持っていった忍パンダ?」
「手紙」
 志水にせかされ手紙を開いた藩王は椅子ごと盛大にぶっ倒れた。
「が――――!!ひわみんが!?」
「とりあえず聨合国に蘇生の手配を頼んでくる」
 普段は褌姿でぶらぶらしている印象であるが、参謀・摂政として仕事ぶりは優秀である志水は踵を返すと直ぐに準備に取り掛かる。今このアイテム探索で異常なほど全滅部隊や死者を出しているという情報は彼の耳にも入っていたのだ。今頃大神殿には蘇生の問い合わせが殺到しているかもしれない。
「ひわみん…」
 漸く起き上がった藩王は忍パンダをぎゅっと抱きしめ小さな声で愛する藩員の名前を呼んだ。

 

 項垂れて帰ってきたメンバーを藩王は出来るだけ優しく出迎えた。彼らが帰ってくる頃にはすっかりひわみの蘇生手続きも終了し、彼の身体を運ぶだけであったのだ。運良く宰相からトーゴの派遣もあり、蘇生されるのは確実であった。
「申し訳ありません藩王様」
 一番しょぼくれていたのは藩王の予想通りリーダーであった化野で、それを見た藩王は少し背伸びして項垂れた化野の頭をポンポンと叩いた。その行動に驚いた化野は思わず顔を上げる。すると藩王は優しく微笑んだ。
「お疲れ様。大変だったわね。次の班は本当に初心者ばかりだから、今回の経験活かして沢山アドバイスしてあげて」
 次にアイテム探索を控えて居る1班は正真正銘まともに戦闘に出た事もない初心者ばかりの軍団である為に、今回のひわみ死亡の報を聞いて再度作戦の建て直しや、道場に篭っての修行にと、それぞれ不安を紛らしている状態であった。ひわみが生き返ると聞いた時はホッとしたような表情も見せたが、それでも色々と思う所はあるのであろう。
「はい。それと…これ、一応拾ってきました」
 そういって化野が藩王に渡したのは3センチほどの小さな玉であった。とりあえずあの後ホールを探してみたけれど、これしか見つからなかったのだ。とりあえず持ってきたが、単なる装飾品なのかマジックアイテムなのか彼らには判断が出来なかった。
「これ…まさかチャンスボール!?」
「まじでか!!ハードラックガール・藩王にぴったりのアイテムじゃ…皆お手柄!!」
 それを手に取った藩王と摂政は大喜びをする。実際にチャンスボールとはお目にかかることの少ない起死回生のマジックアイテムであり、いまや300億の宝と言われているのだ。
「え?チャンスボール?噂の?」
 化野は驚いたようにその小さな玉を見る。
「うん。命名するなら『ひわみんボール』だな」
「巧いでござるね摂政殿」
 場をなるだけ明るくする為か、摂政は藩国特有のどうしようもないネーミングセンスでそのチャンスボールに名前をつけると満足そうに藩王に握らせる。これは藩国の大事にな宝であり、使うのは戦闘指揮を執る藩王だ。漸くそのつまらない冗談にりっかが僅かに微笑を漏らしたのを確認して摂政は満足げに笑う。
「しっかし、ちゃんと安全祈願したのになぁ」
「あ、それでござるが、ひわみ殿に見つかって褌捨てられたでござる」
「何!?捨てたのひわみだけか?」
 時雨の言葉に摂政は驚いたような表情を見せる。まぁ、見つかれば捨てられるのは予測できたのだが、時雨がひわみ殿以外は皆持っていったという言葉を聞くと、摂政はうーんと唸り考え込む。
「どうしたのよ」
 考え込む志水を怪訝そうに見ながら藩王が聞くと、大真面目に志水は口を開いた。
「いやね。安全祈願褌まじでご利益あったんじゃないかと思って。こうなったら1班の分も一応準備しておこうか。アレだ、ひわみが死んだのは安全祈願の褌捨てたからという事にして…」
「が――――アホか!!!」
「あ!粉砕バットで殴るのはなし!!!つーか、絶対まじでご利益あるって!!自分の建てた神社信じろよ藩王!!」
 愛用の粉砕バットを構えた藩王を尻目にさっさと逃げ出す志水を見て自然に他のメンバーも微笑を零す。漸く緊張や、悲しみが解れ、ちゃんと帰ってこれたのを実感できたのだ。
「そうでござるね。ひわみ殿が帰ってきたらもう一度渡しておくでござる、安全祈願の褌」
「今から準備しておこうか」
 暢気に時雨とボロマールが小さな親切大きなお世話な話をしてるのを眺めて藩王は今日は叱らないでおくことにした。反省は大事だが、失敗を引きずる事はあってはならないと考えているのだ。
 そういう意味では暗い雰囲気の中馬鹿ばかりわざとやった摂政にはほんの少しだけ感謝しても良いと思った。ほんの少しだけだが。
「さて。みんな。1班の準備手伝ってね!」
「了解」
 藩王に声に一同同時に返事をし、それぞれの場所へ散った。

 

 たけきの藩国1班はこの後他藩と連携し遭難した一団を助ける事になる。
 そしてマジックアイテムと引き換えに大いなる収穫を得たのは又別のお話。


蛇足なあとがき

 とりあえずマジックアイテム探索のEV90のSSです。自分も参戦したので楽しく書きました。当初は1班分も書く予定でしたが、連合になるり他藩のメンバーが入るのでちょっと無理かなーと(笑)いう事で、EV90はこれだけ。
 無事にひわみ殿も生き返って良かったです。
 というか、世界忍者軍団が偵察失敗しなければ死ななかったんですがね!無能でスマンorz