*向日葵畑*

 リワマヒ藩国より配布された放射線除去仕様の特殊向日葵『ひゅーがあおい』
 それが届いたたけきの藩国は早速藩王の指示の元種蒔きを開始した。
 袋の注意書きには『環境により育ち方が違います』とあったのだが、基本は同じだろうという事で、サイボーグ軍団及び世界忍者オプション子パンダを総動員しての大々的な種蒔き作業である。
 この向日葵が育たない事には食糧生産も見込めず、今後大々的な食糧難が半永久的に続くと予測され、コレは誰もが願った希望の種であったのだ。

「藩王様」
「なに?」
 部屋に入ってきたのは子パンダを引き連れた砂神時雨と忍潮井レイラインであった。世界忍者となった彼らは今サイボーグ子パンダ軍団を飼っており、子パンダには現在向日葵の水遣り任務が与えられている。
「芽が出てると報告があったでござる」
「え?」
 思わず藩王は時雨の言葉に持っていたお茶を落としそうになる。昨日撒いた種が翌日に芽を出すなど聞いた事がない。確かに特殊な種子ではあるが、流石に早過ぎないかと思わず窓の外を覗く。
 そこには緑の双葉が延々と大地に広がっている。
 先の同時多発爆発でチル200体のローラー作戦という非常識な行為の為に地図を書き換えるほど壊滅的なダメージを受けた国土は現在その復興と向日葵生産を同時に行っているのだ。
「…コレ向日葵よね」
「そのように聞いています」
 眼鏡を押し上げる忍潮井は僅かに怪訝そうな様子を見せるが、彼が確認した種は確かに向日葵のものであった。
「まぁ…早いのはいいんじゃない?…多分」
 自信なさそうな藩王を見ながら2人は苦笑し、子パンダを引き連れて水遣りに出かける。それを見送った藩王は少し心配そうに国土を眺めた。

「…育ちが早いでござるな。摂政殿に頼んでビデオでもセットしてもらうでござるか?」
 子パンダの指揮を取りながら時雨は水を受けて元気な向日葵の双葉をつつきながら呟く。子供の頃に見た早送りの植物の成長を此処でまた見れるかも知れないと笑いながら言う。
「いいですねー。いつぐらいに花咲くかかけてみましょうか」
 忍潮井はそう言うと立ち上がり大きく伸びをする。国土回復計画の中で食料生産地を中心に空きの土地にもばら撒いた向日葵は子パンダの報告では殆ど芽を出しているらしい。竹林の緑が目立つ藩国で新たな緑の大地が芽吹いた事になる。

「ビデオ?いいんじゃねーの?設置しとけよ。珍しい種類の向日葵なんだろう」
 時雨の全く持って場違いな提案に摂政・志水高末は机に向かったまま返答をした。流石に本土へ帰ってきてからは藩国・参謀の事後処理が山のように積んであり中々動けない状態であった。そもそも動こうにも外は核の冬。褌一丁で出かけるのは流石に危険があるから真面目にディスクワークをしているという噂もある。
「いつぐらいに花が咲くと思うでござるか?」
 時雨の言葉に志水は顔を上げると窓の外を見る。此処からでも確認できるほどの鮮やかな緑。昨日撒いた種が芽を出すなんて非常識だと考えながら、2週間かなぁ、と返答をした。
「拙者は1週間とみたでござる。一応コレが最短予測。他は1月前後が多いでござるな」
 メモ帳をめくり書き込みをしながら時雨は笑う。大体夏に咲く向日葵がこの季節に咲くのもありえないのだが、1日で芽が出た時点で常識的な知識は心の小箱のしまい、皆独断と偏見で勝手な予測を立てているのだ。
 とりあえずビデオの承諾を受けたので忍潮井は早速ビデオの設置に走ったが、表に出た忍潮井は目の前の状態に驚愕し、思わず悲鳴を上げた。
「え?なんだ!?」
 慌てて部屋を飛び出した志水と時雨が駆けつけると其処にはビデオ片手に座り込む忍潮井の姿があった。
「…ホンバ出てるでござるなー」
 目の前の向日葵畑はつい数時間前には双葉しか出てなかったのに、もう3枚目の葉がぴょいんと空に向かって背伸びをしていたのだ。
「マジで、なにこれ。ちゃんと向日葵咲くんだろうな」
 ありえないスピードで成長する向日葵と思われる種子に一抹の不安を抱えながら、志水は忍潮井と共にビデオの設置をする。明日にはもっと大きくなってると思われるこの向日葵は一体どんな花を咲かすのであろうか。

 

「うーん。コレは予想外でござるな」
「そうですねー」
 子パンダを引き連れ水遣りに出かけた忍潮井と時雨は途方に暮れた様に広大な向日葵畑を眺める。

――――朝起きて外を見たら既に向日葵は自分の背丈を越していたのだ。

 子パンダがジョウロを持って向日葵に水を遣るが小柄な作りの子パンダは向日葵畑に埋もれる様に作業をする。その様子は愛らしいが、この向日葵の異常な成長率を見ると和めないのが現状である。
 こうやって水を遣ってる間にも気が付かないだけでにょきにょき伸びているのかもしれない。
「しかしコレ誰の予想も当たらないでござるね多分」
「明日、明後日には咲きそうですしねー」
 見上げる向日葵には大きな蕾が膨らみ始めていた。
 時雨も子供の頃観察日記を書く為に向日葵を育てた事があったのだが、台風の所為で向日葵が傾いたり、首がくたびれて下を向いてしまったりと散々苦労したものだった。この向日葵だったら観察日記を書くにも楽だったに違いないと見当違いな思考を巡らす。
「しかし、成長が早くて萎れるのも早かったら困るでござるな」
「また種蒔けば良いじゃないですか」
 忍潮井は緩やかな斜面に一斉に背を伸ばした向日葵を眺めながら穏やかに微笑んだ。

 

 そして更に予想外な出来事は続く。
 すっかり向日葵観察係となった2名は昨日の予測どおり見事に開花した向日葵を窓の外に、設置したビデオに録画された映像を眺めていた。
 こうやって眺めると成長の異常なスピードがよく解り驚きを隠せない。そんな中、ちらりと画面を横切った何かに気が付き、忍潮井がビデオを停止した。
「何が横切ったんでござるかね」
 ぐっと身を乗り出し2人はスロー再生された画面に視線を移す。
「…なんでしょうかコレ」
「…子供向日葵?」
 画面には小さな向日葵のきぐるみを着たような奇妙な人型と思われる物体が小さな両手に団扇を持ってパタパタと飛行して所が映っていたのだ。
「えっと、向日葵畑行って見ましょうか」
「そうでござるな」
 そう返答した時雨の右手にはいつの間にか虫取り網が握られていた。彼は捕獲する気満々であったのだ。

 ビデオの設置場所付近を虫取り網を担いだ世界忍者2名。傍から見れば滑稽な風景であるが本人達は大真面目に先程確認した謎のミニ向日葵を探しているのだ。
「…何処でござるかね。色が同じだから探しにくいでござるね」
「そうですねー。好きなもの解れば良いんですが。木の蜜とか、スイカとか」
「カブトムシなら捕まえられるでござるな、そのラインナップ」
 笑いながら時雨は忍潮井が指折りあげたラインナップに対して返答をする。テクテクと歩く2人の視界に少し開けた場所に立てられた東屋が確認できたので休憩がてらそこへ向かう事になった。
 食料量産地の各所に儲けられてるその東屋は貧しい財源から藩王様の好意で立てられた休憩所である。農作業をする人達が使う東屋であるが、基本的に一般人も自由に使用していいので、天気のいい日はそこでお弁当を食べる光景などが良く見られるのである。
 しかしそこにあった光景はのどかなお弁当風景ではなく、むさいおっさんと見た目も麗しい美女が昼間から酒をあおると言う他国では中々見れないがたけきの藩国では珍しくない光景であった。
「サボりでござるか?月光殿、TAKA殿」
「花見だよ」
 既に出来上がっているのか上機嫌に月光ほろほろは杯を軽く持ち上げると、忍潮井達に座るように促す。無論一緒に居た見た目も麗しい美女…だが生物学的には男であるTAKAもほんのり頬を染めてご機嫌に2人を椅子に座らせる。
 本来花見は一般的に桜の季節に行うことが多いのだが、このたけきの藩国は花と言う花なら何でも良いらしく、四季折々の花が咲いてはそれにかこつけて酒を飲むのである。
「しっかしお前ぇら網担いで何やってるんだ?また昆虫採集とか地味な趣味始めたのかぐれっち」
「拙者の趣味が全て地味だと言いたそうでござるな月光殿。まぁ、アレ虫なんでござるかなぁ」
 月光の言葉に首をかしげた時雨をみて忍潮井は、虫…ですかねーと曖昧な返答をする。生物学的観点からあの奇妙な生物が何に分類されるのか全く持って判断できなかったのだ。
「何探してるの?」
 興味をそそられたのかTAKAが身を乗り出したので、忍潮井はメモ帳に簡単に先程ビデオに写っていた奇妙な生物を絵でかきだした。とてもじゃないが口で説明しにくい生物だったのだ。
 出来あっがた絵を見て月光はゲラゲラと上機嫌に笑い出す。
「TAKAのブローチみたいな虫が団扇扇いで飛んでた!?寝てたんじゃねぇのかお前ら」
「ちゃんとビデオに写ってたでござるよ!!ってブローチ?」
 そう時雨が反論した所で時雨、忍潮井両名はがばっとTAKAの方を見る。長い髪に隠れて見え隠れする奇妙なブローチ…いや、奇妙生物。
「「捕獲ぅぅぅぅぅ!!!」」
 勢い良く網を振り下ろす2人に仰天したTAKAは危うく椅子から転げ落ちそうになるが、寸前の所で月光に支えられ大惨事を免れた。危うく頭からひっくり返る所だったのだ。
「あぶねぇなお前ぇら…って何?アレ生き物だったの?」
 TAKAがこの東屋に来た時には既にあのブローチ…もとい謎の生物はTAKAにくっついていた。恐らく彼が向日葵畑を歩いて此処にきた時にくっついたのだろうが、月光はこの向日葵畑にあわせたTAKAのおしゃれアクセサリーだと思っていたのだ。忍潮井と時雨はそーっと網の中を覗き込み、そこに謎の生物が居るのを確認すると手早く持参した格子状の虫かごにソレを詰め込む。大きな虫かごをお手製で作ってきたので後3、4匹は詰めれるだろう。
「…え?アタシの肩にずっと乗ってたの?」
 先程は驚いたTAKAであったが、籠の奇妙生物を興味深そうに眺める。向日葵とおそろいのカラーリングのその生物は突然の事に驚いたのか籠の中できょとんとした様子で外のメンバーを見回していた。
「あれ?ビデオのとは少し違うような…」
「色々種類が居るのかもしれないでござるね」
 首をかしげた忍潮井に時雨は上機嫌に返答をする。まさかこんなに早く捕獲できるとは思わなかったのだ。
「しっかしなんだその生き物。向日葵妖精か?」
「妖精なんてロマンティックですわ。妖精にかんぱーい!」
 『向日葵妖精』という適当な命名をした月光は、上機嫌に乾杯の杯を上げるTAKAと共にテーブルの乗る酒瓶を次々と飲み干してゆく。その様子を見た奇妙な生物…仮名・向日葵妖精はその小さな手をパタパタと振る。
「お?酒が気になるのか。ちょっと飲むか?」
「大丈夫なんですかそんなもの飲ませて。生態系も解らないのに」
 小さな杯を籠の中に入れようとする月光に忍潮井は心配そうに言うが、嗜好品だろとけんもほろろにあしらう。
 籠に杯を置くと、向日葵妖精はそれに手を浸け味を確かめるようにそっと手の酒を舐める。その様子にTAKAは可愛い――――と歓喜の悲鳴をあげ大喜びした。多分他の女性陣に見せても同じ反応をしたと思われる。
「大丈夫みたいでござるね。他のも何匹いるか探してみるでござる…と、余り籠に入れておくのも可哀想だし印つけて放した方が良いでござるかね?」
「そうですね。飼えないかも知れませんし。多分『ひゅーがあおい』と一緒に発生しましたし向日葵畑においておくのが一番かもしれません」
 結局捕獲したら満足したのか2人は飼う事はせずに写真に収め印だけつけて放す事のにした。
「デジカメじゃなくてフィルムカメラにしとけよ。合成したとか言われるからな」
 笑いながら月光が言ったのを受け、時雨はマッピングに使用してるデジカメの予備として持ち歩いているフィルムカメラにその妖精の姿を収めると、印をどうするか忍潮井と相談し始めた。
「まぁ、私達ならコレが妥当ですね」
 そういった忍潮井は持っていた手ぬぐいを裂くと器用に向日葵妖精に褌風な布を巻きつける。それを見た時雨は流石忍潮井殿!!と大喜びしその姿も写真に収める。ソックスハンターの巣窟と言われる世界忍者軍団でハンターとしてカウントされないこの2人は褌愛好家であった。結局変態集団と呼ばれる事に変わりはないのだが本人達は大真面目に線引きを要求していたりする。因みに世界忍者軍団を率いるのは摂政・高末志水であり、彼は『褌靴下摂政』としてソックス・褌共に愛好家なのである意味これ以上の筆頭はいないといわれている。
「可愛いでござるなー。他の藩の向日葵にも一緒についてるんでござるかね」
「さぁ、摂政様に調査お願いしたらどうですか?どうせ今もディスクワークしてるんですし、今更仕事が1つ増えても問題ないでしょう」
 さりげなく鬼のような事を言う忍潮井を見て月光は心の中で志水ご愁傷様と祈りを捧げながら空になった杯に酒を足す。
 籠から出された向日葵妖精はぐるっとメンバーを見渡すと少しだけ頭を下げて何処からともなく団扇を出し、それを両手にパタパタと飛行する。
「時雨さん!!アレも写真とって!!!」
 はしゃぐTAKAに苦笑しながら記念にもう一枚写真を撮ると、焼き増しの依頼を承る。多分暫くTAKAの中では向日葵妖精ブームが起こり続けるだろう。

 

「…なんだこれ。『向日葵妖精』???」
「何で褌はいてるのよ」
「あ、それは忍潮井殿と拙者が一旦捕獲した分の目印つけたでござる」
 あの後数日かけて向日葵妖精の資料用として時雨・忍潮井が作成した写真、及び録画に成功した向日葵妖精のビデオを見た藩王と摂政はぽかんと口を開けてその資料を眺めた。藩王の褌への突っ込みはいつも素早く的確である。
「他所の藩にもいるのか調べて欲しいでござる。放射線の影響で発生した新種・奇形という線も捨てられないでござるが、その形状から『ひゅーがあおい』 のオプション的存在である可能性の方が高いと思うでござる」
 途中までは怪訝そうに見ていたが、手を振る仕草や団扇で飛行する姿に心奪われ気味だった藩王は時雨の言葉に我に返りこほんと小さく咳払いをする。
「摂政よろしく」
「また仕事増えた――――!!!」
 悲鳴を上げる志水を尻目に藩王は時雨に今直ぐこの資料を複製するように命じる。個人観賞用であることは明確であったがあえて時雨は突っ込む事を止めた。
「とりあえず生態系が解らないし、基本的に飼育を禁止します。録画、写真撮影は許可。捕獲は砂神・忍潮井両名による数の確認行為のみ許可。印をつけたら直ぐに放す事…あと褌以外の印を考えなさい」
「いや、妖精さん喜んでたでござるよ褌」
「それは貴方達の気の迷いです」
 指示の1点に対して食い付いた時雨の一言を一瞬で切り捨てると藩王は上機嫌で写真を眺める。この藩国で藩王に逆らえば更正施設行きである。一見独裁性政権に見えるが藩王はそれをしても許される程の手腕と人気を誇っているのだ。
「後もう一点。向日葵の異常な成長から枯れるのが早いと予測されたでござるが、花の期間は思った以上に長かったござる…それと、どういう訳が後から後から向日葵が生えてきてるでござる」
 つまり枯れるのと同時にまた新しい花が咲くという一定のローテーションが組まれているのだ。
「種落ちてるんじゃねぇの?」
 時雨の言葉に志水はもっともらしい事を言うが、時雨は首を振る。
「弱冠種が落ちてるのはあるかも知れないでござるが、此処まで異常なまでの一定量を保ってるござる。実際拙者達は枯れた向日葵の種の回収は定期的に行っているでござるが、種蒔きは1回のみでござるよ」
「うーん。聞けば聞くほど変な向日葵だなオイ。まぁ、放射線除去機能は確実にあるみたいだし…問題はないんだが」
 そこまで言うと摂政は窓の外で日の光を浴びて輝く向日葵に視線を移した。国土復興の一旦扱いだった向日葵はいまや国土復興の先陣を切っている状態である。核に犯された他国の国土もじきに回復するであろう。今後暫くはリワマヒ藩国に足を向けて寝られない。

 

――――夜半過ぎ。
 音を立てずに向日葵妖精は集まり、その新しく熟したいくつもの種の重みの所為で首を萎れさせてしまった向日葵の周りをゆっくり旋回する。
 その向日葵から小さな手で少しずつ種をもぎ取り、忍潮井が付けた褌型の布に種をくるむとパタパタと順に国中を飛び周りその種をばら撒く。萎れてしまった向日葵の補充をそっと人知れず。

種蒔きに丁度良い布を与えてくれた人々に感謝しながら
その作業を終えた向日葵妖精は闇の中に消える
この愛すべき土地を回復する為に
己の存在意義を果たす為に
静かに優しく国土を癒す


蛇足なあとがき

 EV84その花は1000億にゃんにゃん で我が藩がHQボーナスを沢山頂いたので記念SS。『向日葵妖精』はそのイベント用に我が藩の中で生まれた生物です。折角なのでちょっと和む設定を作ってみました。愛らしい形をしているのですが、如何せん文章で表すのは難しかったので、向日葵妖精へのリンク張っておきます。我が藩の提出物下の方に大量生産されております。可愛い生物を作ってくれた忍潮井殿に感謝。

*向日葵妖精を見に行く*